小説『愛されたくて愛されたくない』
作者:水士()

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目が覚めると桜井さんが横にいた。
どうやら昨日は直ぐに寝てしまったようだ。
「どうして私なんかかまうの?」
私は桜井さんの寝顔に向かって言った。
どうやら声が戻ったようだ。
私はベッドから起き上がり寝室を出ようとすると後ろからうめき声が聞こえた。
「うぅ。来るな!ぐぅ・・・・」
私は振り返ったそこには桜井さんが苦しそうに顔を歪めていた。
そうかこの人も完璧には父親の残像を消し去ってないんだ。
私は何故かほっとした。
だけどこれ以上苦しんで欲しくなくて桜井さんの名前を呼んだ。
「桜井さん。朝ですよ。起きてください。」
私がそう言うと「沙耶・・・・」
沙耶・・・・
桜井さんはそう言った。
何故沙耶なんだろう?
もしかして桜井さんは沙耶の事が?
やっぱり私の事は同情なのだろうか?
私は考えていたら桜井さんが起きた。
「おはよう。ごめんね?うるさかったでしょ?」
「いいえ、うるさくなんかなかったですよ。ご飯作って来ますね」
「声が戻ったんだね。良かった」
本当に安心した笑顔だった。
だからなんで私にその笑顔を向けるの?
沙耶に向ければ良いじゃない・・・・
私はよく分からない感情が吹き出した。
だけど感情を押し殺しながら台所に立った。
分からない・・・・
桜井さんがどうして私に近づく理由が。
そう思いながら朝食を作った。
寝室にいる桜井さんを呼びに行ったら、桜井さんは泣いていた・・・・
私は桜井さんを呼べず固まった。
綺麗な涙を流す桜井さんを見て私の心は傷が痛んだ。
どうして痛むの痛みなんて無いはずなのに。
痛い・・・・

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