小説『愛されたくて愛されたくない』
作者:水士()

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部屋の前まで送ってくれた桜井さんに言った。
「ありがとうございます」
そう言ってふと顔をあげた瞬間私は固まった。
何故ならさっきまで横にいたはずの桜井さんの顔が目の前にあって、
私の唇に桜井さんの唇が重なっていたからだ。
「ん!うぅん!」
かなり激しいキスだった。
だけど私は桜井さんから離れて言った。
「お店の女の子には手を出したら駄目なんじゃないんですか?」
桜井さんはひょうひょうとした顔で言った。
「うーん。したかったからしただけだよ。じゃあまた明日ね?知花ちゃん。」
そう言って桜井さんは帰って行った。
私は部屋に入ると直ぐにお風呂に入った。
入りながらさっき桜井さんがした事を考えていた。
なんで私なんかにキスなんてしたんだろう?
せっかく仕事以外はそういう事をしていないのに・・・・
何故ならそういう事をしたら、絶対に私は好きになってしまう事は自分で分かっていたからだ。
好きになって終わりになるのが怖かった・・・・
だから今まで人と距離を持っていたのに。
確かに私から好きになってする行為は気持ち良いのだろうけど。
と思いながら私はお風呂から出て布団に入って直ぐに寝た。
次の日。
その日は風俗の仕事だったので、仕事が入るまで待機場所と言われる女の子達がいる場所で本を呼んで時間を潰していたら桜井さんがやってきた。
「はい!皆注目〜」そう言って部屋にいる女の子達は桜井さんに視線を向けた。
私はというと昨日の件があったので、顔をそらしてしまった。
「あのね。今日から入る新人の沙耶ちゃんだよ!皆仲良くね!じゃあね〜」
桜井さんはそう言って沙耶という女の子だけ置いて去っていった。
私は桜井さんが去って行ってから、沙耶という女の子を見た。
とても女の子らしい可愛い子だった。
沙耶は私の顔を見ると子犬のように近くによってきた。
「沙耶って言うの。宜しくね。あなたの名前は?」
「知花」
私の周りの皆はびっくりした表情で沙耶の事を見た。
それはそうだろう。
何故なら私がこの店に入ってから他の女の子と話している所を見たことが無いからだ。
私もなんで自分から名乗ったのか分からなかった。
だけど私が何も返さなくても沙耶は私の横で喋り続けた。
そうこうしているうちに仕事の終了時間になった。
沙耶は柔らかい笑みをしながら、私に言った。
「知花ちゃん、今から暇?暇なら今からカラオケにでも行かない?」
「嫌・・・・興味ないし。私にも余り話しかけないで・・・・」
自分で言っておきながら、酷いことを沙耶に言っていると思った。
だけど沙耶の顔を見た瞬間私は戸惑った。
沙耶が泣きながらこっちを見ているのだ。
「そう・・・・知花ちゃん私の事嫌い?」
私はその言葉を聴いた瞬間関わってはいけないと思いつつ心とは別の事を沙耶に言った。
「ごめん。一緒にどっか行こう。カラオケは好きじゃないからせめてファミレスが良いな・・・」
私がそういうと沙耶はとても嬉しそう微笑んだ。
私はまずいと思いながら、沙耶と一緒にファミレスに行った。
ファミレスに行ってからは沙耶がずっと喋り続けていた。
私も何故かおとなしく沙耶の話を聞いていた。
その日はファミレスだけ行って沙耶と別れた。
部屋に戻ってきてから思った。
私が人としかも女の子とご飯なんて食べにいったのなんて初めてだったな・・・・
小さい頃に人との関わりを持たなくなったから女の子とご飯を食べるなんて想像もしなかった。
怖い・・・・
また心を許して捨てられるのだろうか・・・・
だけどやはり人に好意を向けられると嬉しかった。
そういう事を考えていると玄関のチャイムが鳴った。
誰だろう?
こんな時間にそう思いつつ玄関の扉を開けると桜井さんが立っていた。

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