小説『ISー『転成した極限野郎』』
作者:Melty Blood()

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【重吾side】

ーーーまだ少し薄暗い朝早く。

小鳥のさえずりも朝の太陽も出ていない時間。低血圧などの人がこの時に起こされたら、きっと起こした人にグーパンチを笑顔でかますだろう。

楯無「はいはい。もっと気合入れて入れて」

そんな、まだ誰も起きていない時間帯にも関わらず。IS学園のアリーナには楯無の声が反響していた。

重吾「ふんぎぎぎ!」

ーーーそして重吾の踏ん張る様な声も。

楯無「それじゃあ十分休憩したあと。ISでの模擬戦ね」

重吾「はぁ……はぁ……わ、分かりました」

朝早くから楯無が課したトレーニングを終え、首にかけてあったタオルでとめどなく溢れてくる汗を拭った重吾は、途切れ途切れに返事をする。

IS学園の生徒会長である楯無ーーーそれはすなわちIS学園最強という意味も持っているらしい。

その楯無直々にしごいて貰えるというのはありがたいのかもしれないが、これは少々……いや、かなり疲労感が凄まじい。

楯無「ーーーはい休憩しゅうりょ〜う。お互いのISを展開しましょうね♪」

重吾「オッス! エクストリーム!!」

楯無が休憩終了を告げ。模擬戦の準備を始める。

準備といっても自分のISを展開させるだけだが。

楯無「じゃあスタート!!」

重吾「先手必勝井伊月キィィィック!!!!」

開始と共に飛び出した重吾は、技名なのか技名じゃないのかよく分からない事を叫びながら蹴りを放つ。

その蹴りを天高くから放つ姿はまるで、休日の朝からやっている子ども向け番組の、ヒーローの必殺技の様に見えた。

ーーーこれには流石に楯無も驚いたか!

楯無「楯無ガトリング〜」

重吾「ちょちょちょ!? た、タンマです会長!!」

重吾の必殺技に真顔で、しかも棒読みで反応した楯無は、蒼流旋のガトリングをばら撒き。迫ってくる重吾を狙い撃ちにする。

エクストリームガンダムのシールドを前に構えて被弾率は抑えたが、なによりも心のダメージがでかかった。

重吾「会長少しはのってくれたってーーー」

楯無「……………」(ゴゴゴゴ

重吾「かかってこいやァ!!」

楯無の微動だにしない表情が……とても、怖かった……。

……………

……………………

………………………………

………………………………………

重吾「もう駄目……あたし死んじゃう……」

楯無「ほらほら。男の子なんだからシャキッとしなさい」

楯無との模擬戦の結果は、言うまでも無く重吾の敗北。一方的にやられてしまった。ボロ雑巾の様に転がっている重吾が何よりの証拠。

重吾「うぅぅ………」

楯無に首根っこを掴まれ、ズルズルと引こずらられていくが、真面目に身体が動かないのでありがたい。

楯無「頑張ったご褒美にはいこれ」

アリーナのベンチまで連れられ。座らされた重吾の前に、正月とかにしかお目にかかれないような重箱が差し出された。

重吾は何これ? といった風な顔をしていたが、楯無が自分の為に作ってくれたのが分かった瞬間。重箱の蓋を開け、中身をドキドキしながら覗き込んだ。

重吾「うおぉぉ! スッゲぇぇぇ!!」

重箱の中身は宝箱と称するに相応しい、色とりどりの野菜や食べ物が並べられ。キラキラと輝いている様に見える。

もしかするとこれ全て楯無が一人で作ったのだろうか?

もしそうだとすれば、この鍛錬の時間よりも早く起きて作らなければならない筈。きっとかなりの重労働だっただろう。

楯無「そんなに喜んでもらえるなんて、お姉さん嬉し♪」

重吾「本当にありがたいです……じゃあ会長いただきます」

手を合わせていただきますをし、楯無から受け取った箸で早速手をつける。

楯無「どう? 美味しいかしら」

重吾「モグモグ……ひゃいこ〜です……ゴクッ」

美味しい。こんな美味しい物を食べれるなんて、キツイ鍛錬を頑張ったかいがある。それに女の子の手料理なんてそうそう食べれるものでは無い、これはきっと記念日に認定されるぐらいの出来事だろう。

重吾「モグモグ……モグモグ……♪」

楯無「そんな焦らなくてもお弁当は逃げないわよ。ホラ、ご飯粒が付いてる……ふふッ♪」

そして重吾は、完食するまで楯無のお弁当を楽しむのであった……。

◇◇

楯無のお弁当を完食し終え、アリーナで楯無と別れた重吾は、満足気にお腹を摩りながら廊下を歩いていた。

ーーー今日から新たなスタートが始まる。

昨日の入学式で、正式にIS学園の生徒となった重吾。

楽しみや不安。様々な気持ちが孕んでいるが、気楽にいこう。変に固くなったところで失敗するだけ、自分を出せばいい。

重吾「ーーーここが俺の教室か……」

一年四組。それは新入生となった重吾が一年お世話になる教室。

重吾「……よし…」

ゴクリと唾を飲み込んだ重吾は、一年四組の入り口の扉に手をかけ。新しい一歩を踏み出した。

ーーーこれから始まる物語は、きっと素晴らしいものになるだろうから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

よく本屋とかで売っている本で、出会いは必然だとかいう言葉がよく記されている。

だが本当に出会いは必然なのだろうか?

本当は出会いなんか全て必然じゃなくて、『運命』ではないのか。

追求すればするほど、その解答は遠ざかっていってしまう。

でもやっぱり出会いってものはーーー

ーーー『運命』だと思うーーー

…………

……………………

……………………………

………………………………………

重吾「……ハァ……ハァ……」

ーーー井伊月 重吾は決断しようとしていた。

重吾「俺ならやれる……!」

額から滲む汗が頬を伝って下に落ち。ポチャリと弾ける。

その時の弾ける音が妙に響いたのは気のせいでも何でも無い、全神経を集中させている重吾だからこそ感じ取れた。

一体いつからこんな状態だっただろう……。

気を引き締めて自分の教室へ入り。自己紹介などを済ませ。クラスの女の子と親睦を深めたところまでは憶えている。

その後だ……その後クラスメイトと別れ、一人クラスに残って帰り支度をしていたところから憶えていない……。

いや、正確には憶えていないではなくて。現在進行形で記憶に刻み続けていると言った方が正しいか。

刻んでいる記憶。現在進行形で起こっている出来事。

ーーーそれはーーー




















重吾( あの女の子に話しかける!! )

ーーー重吾にとって、超難関ミッションだった。

重吾( クソぉ……あの子、なんてプレッシャーだ……)

頬の汗を拭いながら不敵な笑みを浮かべる重吾。

はたから見れば変人だが、重吾は至極真面目。本人はふざけているなど微塵も思っていない。

教室からクラスメイトが出た後、よし自分も帰るか……という時に、今話しかけようとしている女の子が目に映った。

一目惚れとかでは無い、単純に気になったのだ。

一人で黙々とキーボードを叩き、宙に投影されているディスプレイを凝視する姿にも目を引くものがあったが、そんなものでは無い。

上手く言い表せない……だが重吾は、あの女の子から何かを感じた……。

重吾「よ、よし……!」

女の子に話しかける決断がついた重吾は、自分が座っていた席を立ち。女の子が居る席に歩いていく。

重吾「あ、あの〜……井伊月 重吾でひゅ」( 噛んだぁぁぁぁ!!!!/// )

緊張しすぎて舌を噛んでしまい、一気に顔が紅潮してしまう。

もしや女の子は引いてしまったか!?

「……………………」

重吾「…………………」

見てすらいなかった……。

重吾「うわぁぁぁぁんッ!!!!」

女の子に無視された事に涙腺が崩壊した重吾は、涙を流しながら教室を退場し、廊下を疾走していった。

【簪side】

簪「………はぁぁぁ……」

重吾が出ていったのを確認した簪は、一気に息を吐き出し、背もたれに身体を預けた。

簪「うぅ……緊張したぁ……」

教室で重吾と二人っきりなった時は鼓動が早まるのを抑えられなかった。キーボードを叩いて必死に気を紛らわそうとしていたが、重吾が自分の席に来た時は本当に危なかった。

簪「無視……しちゃった……」

目の前のディスプレイを閉じ。重吾が出ていった扉を見つめた簪は、再び息を吐き出す。

男の子と教室でふたりっきりになるなんて初めてな事だ。

どう対応しようか思考していた為、重吾を無視する事になったのは悪いと思っている。だけど簪は男の子が少し苦手だったし、話すのなんて目すら合わせられないかもしれない。

そんな自分が重吾と話そうとしても、きっとろくでもない事しか話せないと思う。

ーーーでも………。

簪「井伊月………重吾………」

簪は重吾の名前をポツリと呟き、顔をほんのり赤く染める。

今度……今度彼と話す機会があったらその時はーーー














簪「"更識"……簪って言おう……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【楯無side】

重吾「ひっぐ……えぐッ……ぐす……」

本音「おぉよしよし。大丈夫だよ"いづき"〜」

楯無「これはどういう状況なのかしら……」

生徒会室の入り口に佇む楯無は、ポツリと呟いた。

虚「あ、お嬢様」

既に生徒会室に居た虚が、楯無が入ってきた事に気付き。近付いてくる。

楯無「ちょっとこれどういう事? なんで井伊月君が泣いてるのかしら」

虚「実はーーー」

……………

……………………

……………………………

……………………………………

楯無「ーーーなるほどねぇ〜。クラスの女の子に勇気出して話しかけたら無視されたと……ズズズ」

虚から重吾が泣く原因となった出来事を聞いた楯無は、湯気を立てるお茶を啜り、ハァっと息を吐く。

しかし女の子に無視されて泣くとは、重吾もまだまだーーー

楯無( いや、井伊月君なら泣くわね……)

飲んでいたお茶を一旦机に置き、目頭を揉んだ楯無。

さて、どうやって重吾を復活させよう?

このまま本音に慰めさせるという方法もあるが、復活するまで泣き続けられるのも少々うっとおしい。

ここは自分が動くしかないかーーー

楯無「井伊月君。泣き止みなさいよ。ね?」

重吾「か、かいぢょ〜」

楯無「はい。鼻かみなさい」

泣く重吾の頭を撫で、楯無は涙と鼻水を拭き取る為のティッシュを差し出す。

虚「井伊月君。紅茶でも飲んで落ち着いてください」

重吾「虚先輩……うぅ…」

楯無「ほ〜らまた泣く〜。男の子が泣くんじゃありません」

グッと涙を堪えた重吾は、虚が淹れてくれた紅茶を口に含む。

楯無はそれを見てニコリと笑うと、再び重吾の頭を優しく撫でた。

こうして重吾の頭を撫でていると弟が出来たようで新鮮な気分になる。もし本当に自分に弟が居れば、こんな感じなのだろうか?

重吾「すみません。お恥ずかしいところを見せてしまって……」

ぺこりと頭を下げた重吾の顔は、泣き顔が見られたのが恥ずかしいのか少し赤い。

楯無「まぁ無視されたからって気にする事はないわよ」

重吾「そうですかね……」

本音「私が思うにね〜。その女の子はいづき〜に照れちゃったんじゃないかな〜?」

重吾「そんな訳ないよのほほんさん」

楯無「いや、案外そうかもよ?」

正直なところ、楯無が思うに重吾を無視する女性などそうそう居ないと思う。

それは重吾がイケメンだからとかそういう理由では無い。重吾の人を惹きつけるオーラがそうさせるのだ。

楯無も最初出会った時重吾から何かを感じていた。

上手く言えないが、人との間にある壁を感じさせない……何か近親間を持たせる様な魅力が……。

楯無「まあ悩むなよ後輩!」

重吾「わっ!?」

重吾は楯無が突然身体を抱きしめてきた事に驚きの声を上げる。

楯無「そんな事でしょげてちゃあ、生徒会の人間として務まらないわよ♪」

重吾「アッハハハ!! か、会長やめッーーーアハハ!」

楯無は重吾の身体をこれでもかという程くすぐりまくる。

その顔に悪い笑みが浮かんでいるのは言うまでも無い。

本音「こちょこちょ〜♪」

重吾「のほほんさんもダメだよッ!!」

虚「じゃあ私も参加しましょうか」

重吾「だ、ダメェェェェ!!!!」

そして息が出来なくなるまでくすぐられた重吾は、女の子に無視された事など綺麗さっぱり忘れたのであった。

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