小説『ISー『転成した極限野郎』』
作者:Melty Blood()

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【重吾side】

楯無といろいろあった翌日の朝。重吾は何を思ったのか、自分の部屋のベットの上で座禅を組んでいた。

重吾「…………」

ジッと動かず、微動だにしない。そんな重吾の姿は、悟りを開こうとする僧侶の様にみえる。

だが重吾は別に悟りを開こうなんて考えていない。考えているのは楯無と簪をどうやって仲直りさせようか、その事だった。

重吾「ーーーーハッ!!」

今まで瞼を閉じていた重吾は、何かが閃いたかのようにカッと目を開く。

もしや、仲直りの方法でも思いついたかーーー

重吾「なぁんも思いつかねぇや。あははは」

だめだこりゃーーー

重吾「…………さてと……」

ずっと座禅していた為、痺れていた足をほぐした重吾は、ベットから降りると部屋を出た。

廊下に出ると、生徒の姿は見当たらない。

まだ午前中だというのに誰も居ないというのはおかしいが……それもその筈。今日はIS学園の一大イベント、クラス対抗トーナメント戦がある日なのだ。

このトーナメントは、各クラスの代表者……まあ委員長的役割の人達が戦い、勝ち上がっていく形式で、重吾もその大会に出場することになっている。

大会に出場する……すなわち。重吾もクラスの代表者の一人なのだ。

似合わないと思うが、代表者を決める際多数決でそうなってしまったのだからしょうがない……。

重吾「そろそろ俺の番だな」

トーナメントの組み合わせが書かれている紙を見た重吾は、自分の出番が迫っているを確認し、アリーナへと急ぐ。

最初の相手は三組の女の子。代表候補生では無いが、油断は出来ない。それにこのトーナメントは、毎日楯無にシゴかれている成果を見せる絶好のチャンス。頑張らねば。

重吾「おっし!」

気合を入れ直した重吾は頬を叩き、自分に喝を入れた。

到着したアリーナは凄まじい活気で賑わっている。既に戦っている者達がいるのか、鉄と鉄がぶつかり合い、すり減る感じ伝わってきた。

こんな状況、男だったら否が応でもでもテンションが上がる。鼓動がドクンドクンと激しく脈打って、自然と笑みが零れた。

重吾「……やばい……凄く楽しみだ…ふふっ」

だめだ。ニヤニヤが止まらない。

きっと今の自分を見れば気持ち悪いと思うだろうが、そんなもの関係ない。これから行われる戦いが楽しみで仕方が無いから笑っている、純粋な気持ちだ。

『さあさあ。次は四組VS三組だぁ!! いったいどんな戦いを見せてくれるんでしょうか!!』

さっきまでの戦いが終わり。いよいよ重吾の番がきた。

重吾「よっしゃあ!! 今日はとことんやるぞぉ!!」

エイエイオ〜と腕を上げた重吾は、意識を集中させてエクストリームガンダムを纏う。

ブースターを吹かせ。アリーナの出撃場所からグランドに飛び出ると、巨大な歓声が重吾を迎えた。

重吾「き、緊張する……落ちつけよぉ……」

プレッシャーに呑まれまいと深呼吸する重吾。

幾分か落ち着いた後、目の前に対峙する三組代表者を据えた。

「よろしくね♪ お互い悔いの無いようにやり合いましょう」

重吾「おっす! よろしくお願いします!!」

互いに挨拶を交わし、相手は量産型ISの「打鉄」の接近ブレードを、重吾はエクストリームガンダムのビームサーベルを構える。

『それではお待たせしました! 第二試合……始めッ!!』

「はぁぁぁぁ!!!!!」

重吾「でりゃぁぁぁぁ!!!!」

アナウンスの開幕合図で飛び出した両者は、高い雄叫びと共に戦いの火蓋を落とした。


◆◇◆◇◆◇


【楯無side】

楯無「おお。始まった始まった♪」

生徒会室に接続されているモニターには、アリーナでの重吾の戦いが映し出されていた。

楯無はそれを見つめ、嬉しそうな表情で観戦する。

楯無「私が直々に教え込んであげたんだから……勝ちなさいよ♪」

バッと扇子を広げ、それで顔をパタパタと仰ぐ楯無は、画面の向こう側で戦っている重吾にそう言い放った。

楯無「お手並み拝見ね。井伊月君♪」

弟子の成長を楽しみにする師匠の様に、試合状況を確認する楯無。その表情は本当に嬉しそうで、楽しそうにみえたのだったーーー


◆◇◆◇◆◇


【重吾side】

重吾「ーーーそこだッ!!」

構えていたビームサーベルを振り下ろし、接近ブレードとのつばぜり合いが始まる。

「いいね。なかなかやるじゃない」

重吾「エクストリームガンダムは伊達じゃ無いんです……っよ!!」

今度はビームサーベルを振り上げた重吾は、その際に接近ブレードに引っ掛ける事によって相手のバランスを崩した。

崩され状態から何とか体勢を持ち直そうとした相手だったが、重吾は容赦なくビームサーベルを、隙だらけの身体に斬りつける。

「痛いわねこのダメージ……!!」

苦虫を噛み潰したような表情をとった女の子は、多少のダメージは仕方が無いといった感じで、重吾から距離を取った。

重吾「まだまだいきますよ!!」

背中に収まっているもう一本のビームサーベルを引き抜いた重吾。それをどう思ったのか、投擲する様に二本とも相手に投げつけた。

「危なッ!?」

避けられたビームサーベルは、通りすぎてアリーナの壁に突き刺さる。

全く意味の無い攻撃に思えるが、重吾は相手がビームサーベルに一瞬だけ目を逸らした刹那ーーーそれが狙いだった!

重吾「だっしゃぁぁぁぁ!!!!」

「えッ!? 嘘ッ!! キャァァァァ!!!!」

シールドを前方に構え、ショルダータックルの様に突撃した重吾。

相手はそんな重吾の行動に動転してしまい、思わず逃げる事を忘れ。思いっきりタックルを喰らってしまった。

「かはっーーー!?」

壁に叩き付けられ、エクストリームガンダムのシールドで抑えこまれている相手は身動きが取れず、苦悶の表情を浮かべる。

だがこの状況では、互いに何も出来ない。重吾はビームサーベルが手元に無いし、相手は身動きが取れない。

どうするというのだろう?

「このままじゃ何も出来ない……どうするつもり?」

ニヤリと笑みを浮かべた相手は、既に分かっていた。

このまま重吾が離れなければ決着がつかない。決着を着けたければ重吾が否が応でも動かなければ……それにもし、重吾が離れて戦いが始まったとしても、武器を失った重吾には何もできない。しかし自分は接近ブレードを持っている。すなわち勝てると。

だが相手は間違えていた……勝っているのは自分では無く。重吾なのだとーーー

重吾「俺の勝ちです」

「どうしてそう言えるの?」

重吾「俺のビームサーベル……何処にいったと思いますか?」

「何処って……ま、まさか!?」

重吾の質問に眉を顰めた相手だったが、理解した瞬間顔を驚愕に染めた。

投げたビームサーベルは相手に当たらず壁に刺さったまま。そして今、重吾は相手を壁に抑え付けている。

すなわちーーー

「まさか……私を抑えこんだ壁の後ろにそれが刺さっていたなんてね……やられたわ」

相手は重吾が握っているもの……「ビームサーベル」を見てそう呟く。

何故重吾がビームサーベルを持っているのか。それは避けられると分かっていた重吾が、狙ってその刺さっている場所に相手を抑え付け。ビームサーベルを壁から引き抜いて、相手に突き立てたのだ。

重吾「ふぅぅ……上手くいってよかったぁ……」

ガンダムフェイスに包まれた顔で、安堵の息を吐いた重吾。

実際上手くいって本当に良かった。これが上手くいかなかったらやられていたかもしれない。

しかしこんな博打の様な行動も、全部は楯無や生徒会の皆に見てもらいたいという気持ちからきている……まあ重吾だって一人の男だ。かっこいい所も見せたいし、頑張っている姿も見て欲しいのだ。

「はぁ……負けたわ。完敗よ」

『勝者ァ!! 四組代表の井伊月 重吾だぁ!!!!』

重吾「よっしゃぁ!!!!」

まずは一勝。勝利をもぎ取った重吾は、喜びでガッツポーズをとった。そして抑え付けていた相手を開放し、いい勝負だったと握手を交わした後、エクストリームガンダムのブースターを吹かせてアリーナの待機室へと戻る。

簪「……お疲れ井伊月君」

重吾「あ、更識さん」

待機室に戻ると、簪が笑顔で出迎えてくれた。

簪「……はいこれ…」

重吾「おお。ありがと♪」

手に持っているタオルとドリンクを差し出してきた簪に礼を贈り、早速水分補給をする。

そして汗をかいた身体をタオルで拭いて、清涼感を得た後。待機室の長椅子に簪と一緒に座った。

簪「……次はどこのクラスと当たるの……?」

重吾「え〜とねぇ……一組の……織斑 一夏君とだね」

対戦表の紙に書かれた組み合わせを、簪と一緒に確認すると、次の相手は一組代表の織斑 一夏。男対男の戦いが実現しそうだ。

簪「……頑張ってね井伊月君」

重吾「任せんしゃい!! この井伊月 重吾。華やかに勝利してみせますよ!!」

グッと若干頼り無い力こぶを見せ、決意を露わにした重吾。簪はジト目でそんな重吾を見つめたが、重吾はシャドーボクシングをおっぱじめた為気づかない。

だが気合があるのはいいことだ。どんな勝負だとしても全力で望めば、勝てない勝負も勝てる時がある。

『さあ続いての試合は!! 何と男VS男の!! 夢の対決だぁ!!!!』

アナウンスのそれで、アリーナにいる生徒達の歓声が一気に湧き上がり、凄まじい熱気に包まれた。

重吾「更識さん。この試合で面白いもの見せてあげえるよ」

簪「……なにを見せてくれるの?」

重吾「それは秘密♪ さあ行くぞォ!!」

エクストリームガンダムを纏った重吾は、簪に手を振って外に飛び出す。

宙に停止し、感触を確かめる様に手のひらを閉じたり開いたりする重吾は、先ほど簪に言った「面白いもの」という言葉を思い出した。

重吾「ふっふっふ。「極限」の進化……見せてやるぜーーー!!」


◆◇◆◇◆◇


ーーーーアリーナの上空。

『………………』

黒い装甲に包まれ、異様に長い腕を持つそれは、明らかにISなのだと分かるものだった。

そのISは、何かをしようというわけでも無く。ただジッと下にあるアリーナを見つめているだけ。

『ワアァァァァ!!!!!』

『………………!』

アリーナから大きな歓声が上がった時。そのISは何かに反応した様に機体を動かした。

全身装甲の頭部のアイセンサーが怪しい光を放ち、奇妙でいて不愉快なオーラを放ち始める。

ーーーアリーナに覆われている防護シールドの付近で停止したISは、その長い腕をシールドにかざして手のひらの穴にエネルギーを充填させていった。

『………………』

何故かそのISのアイセンサーがニヤリと笑って見えたのは、何かの間違いだろうかーーー?


◆◇◆◇◆◇


【重吾side】

重吾「ん? 誰かに見られてる気が……」

何か背筋が一瞬ゾクッとした重吾は、辺りを見渡した。

しかし視線を感じたのはきっと勘違いだろう、周りには沢山の生徒がこの試合を見ているのだ。視線の一つや二つ感じる筈だ。

重吾「……気のせいか」

重吾は巡らせていた視線を前に戻すと、目の前の人物に注目する。

重吾「君が……織斑 一夏だね?」

一夏「ああそうだ」

眩く光り、日光を浴びてキラキラと輝くISを纏う一夏は、フレンドリーな笑みを浮かべた。

そんな一夏に好印象を抱いた重吾は、一夏同様笑顔を浮かべる。

重吾「俺の名前は井伊月 重吾。そしてこいつは俺の専用機……エクストリームガンダム」

コンコンと装甲を叩き、自己紹介をした重吾。

一夏「俺のは「白式」だ……そして! こいつは雪片弐型!!」

重吾に応え、それ相応の自己紹介をした一夏は、白式の武装であろう刀の様な雪片弐型を構えた。

重吾は目を閉じ、精神を集中させる。呼吸を整え、乱れを起こさない様に……。

重吾「…………よし」

瞼を開けた重吾は、完全に気持ちを戦闘モードに切り替えていた。

静かでいて明らかな闘志を燃やし、一夏との戦闘に備えて構えをとる。

一夏「………………」

重吾のただならぬ雰囲気を感じた一夏は、同じく戦闘体勢をとった。

二人の間に張り詰めた空気が広がっていき。やがてそれがアリーナの観戦席に居る生徒にまで伝わっていくーーーー

『さあ……両者凄まじい気迫です』

静まり返ったアリーナに、アナウンスの声が反響する。

『では、第三試合……織斑 一夏VS井伊月 重吾……始めぇッ!!!!』

重吾「ーーーー!!」

一夏「ーーーー!!」

試合のスタートと共に飛び出した重吾は、同じタイミングで飛び出した一夏の動きを見つめる。

スピードは速いが、追いつけない速度では無い。こんなもの楯無に比べればまだまだだ。

重吾「シュッ!!」

ビームサーベルを引き抜き、それを一夏に投げた重吾。

一夏「せいッ!!ーーーハァァァ!!!!」

向かってきたビームサーベルを雪片弐型で弾いた一夏は、重吾に向かって急接近し、雪片弐型を降り下ろした。

重吾「ぐっ……!!」

降り下ろされた雪片弐型を、もう一本のビームサーベルを抜いて防いだ重吾だったが、一夏の一撃が案外に重く、顔を顰めた。

こうゆう攻撃は真っ正面から受けるのは得策では無い。受け流した方が楽に過ごせる。

そう考えた重吾は、雪片弐型を逸らして避け。握っているビームサーベルを投げつけた。

一夏「見切ったぜ!」

もう一本のビームサーベルを避けずに上手く掴んだ一夏は、それを地面に放り捨てる。

重吾「うへ〜。マジかよ織斑君」

一夏「もう武器はないはずだ。万事休すってやつだぜ?」

重吾「甘いぜ! まだシールドが残ってるんだなこれがぁ!!」

そう言って重吾は左腕に装備されているシールドを取り外し、一夏に向かって押し付けた。

一夏「なッ!?ーーーへぶぅ!!」

まさかシールドがくるとは思わなかった一夏は、重吾に接近する為にしていた加速を止める事が出来ず。思いっきりそのシールドを顔面に受けた。

そして重吾はその間に一夏との距離を取る。

しかしもう対抗出来る手段は何もない。攻撃する武器も。身を守る盾も。すべて使い切ってしまった。

……だが今の重吾は、窮地に立たされているというのに、それを全く感じさせない。堂々としているとまで言える。

重吾「ーーー織斑君……知ってる?」

一夏「な、何だよ急に……?」

突然の質問に疑問を浮かべる一夏。そして、今の重吾は恐るに足りないが……何かとんでもない物を隠していると予感し、それに備えた。

重吾「極限進化「エクストリーム」は……加速すんだぜ?」

重吾がそう言い放った直後、エクストリームガンダムの全体を竜巻の様なエネルギーが包みだす。

一夏「……………ッ!!」

何かされてはかなわない。そう思った一夏はそれをされる前に仕留めようと、白式のブースターを最大で吹かせて重吾に近づく。

一夏「あぐッ!!」

だがその行動はエクストリームガンダムを包んだ「渦」によって失敗に終わり、その渦は一夏を弾き飛ばした。

エネルギーの奔流がアリーナを荒れ狂い、バチバチと音を立てて辛うじて確認出来るエクストリームガンダムのシルエットが、次第に形を変えていく。

ーーー腕はより分厚い装甲が重ねられ、脚にも同じ様に装甲が追加されていった。そして次々と全身を強化していき、やがてそれは……「格闘戦」に特化したものへと変貌したのだった。

一夏「……何だよあれ……?」

やがてエネルギーの渦が霧散し、進化を遂げたエクストリームガンダムが露わになった。

エクストリームガンダムを見た一夏は、あまりの衝撃に目を疑う……。

何故だ? 先ほどまでのエクストリームガンダムとは全く異なるではないか! これではまるで、本当に「進化」を果たしたとしかーーー

重吾「ーーーこいつはァ……」

一夏「……何だって?」

ボソっと言った言葉が聞き取れず、一夏は耳を傾ける。

重吾「こいつはァ!! 格闘進化を果たしたエクストリーム!! それが!!ーーーゼノォンフェェスゥゥゥッッッ!!!!!!」

一夏「うるさッ!?」

突然大声を上げた重吾は、その凄まじい声量で空気を震わせた。

たまらず一夏は耳を塞いでそのどでかい重吾の声に耐える。

……これを例えるのであれば、耳もと付近で思いっきりメガホンを使われた感じに近い。

重吾「格闘の力ァ!! 学ばせてやるッッ!!」

一夏「うおッ! 速ッーーー!!」

重吾はエクストリームガンダムの強化されたブースターを吹かせて、一瞬にして一夏との距離を詰める。

拳を振りかぶり、それが一夏の顔面に直撃しようとした…………その時ーーー!!

一夏「何ぃッ!?」

太いビームの線が重吾と一夏の間を通過し、爆風と共に「害」となる物を運んできたーーー

『………………!!』

アリーナの上空から降り立ったそれは、長い腕を観戦席へと向け。先ほど撃ったのであろうビームを充填し始める。

一夏はそれを見てやばいと感じ、すぐに阻止しようとしたが、既にエネルギーの充填は完了していた。

一夏「逃げーーー」

アリーナに居る生徒達に向かって逃げろと伝えようとしたが、その声は無念にも届かず。未確認機からビームの塊が放たれーーー

重吾「邪ぁ魔だぁぁぁ!!」

『………………!!?!?』

無かったーーー

一夏「えええッッ!?……げほっげほっ!」

重吾の強烈なアッパーカットをもらい、侵入したであろう穴に再び放り込まれた未確認機は、空の星となった。

その一連の出来事に驚きすぎてむせてしまった一夏は、呼吸を整え重吾を見つめる。

一夏「な、なあさっきのーーー」

重吾「知らんッ!!」

一夏「………………」

さっきの未確認機について質問しようとした一夏だったが、全て言い切る前に重吾にバッサリ切り捨てられ黙ってしまう。

重吾「さあ……やりあおうぜ織斑!!」

一夏「…………ま、まあそうだよな……よっしゃ!!」

重吾は気を入れなおした一夏を確認し、止まっていた戦闘を開始させた。

重吾「はっはァ!!!!」

鋭い蹴りを一夏に向かって放つ重吾。一夏はそれを良く見てかわし、隙あれば雪片弐型で反撃する。

重吾はビームサーベルなどといった類は一切使わず、今は拳や脚といった己の肉体を駆使して戦っていた。

それもその筈ーーー今のエクストリームガンダムは格闘に特化した、「ゼノンフェース」という鋼の拳を有する形態なのだから。

このゼノンフェースはエクストリームガンダムのデータを取る性質で集められた、熱き男達の荒ぶる魂を元に作られている為、その影響か今の重吾も熱い闘志を心に反映させている。だからこんなにも重吾の性格が激変しているのだ。

一夏「一撃一撃が……重いッ!!」

重吾「だろォなあッ!!」

叫んだ重吾は、腕からビームサーベルを鞭状にした物を出現させると、一夏の胴体にそれを絡ませ一気に引き寄せる。

重吾「せぇのォ!!」

一夏「グッガァ!?」

強引に引き寄せられら一夏は、何とかして脱出しようとしたが、完全に力負けをして拳の連打を喰らってしまった。

圧倒的破壊力を持って一夏を攻めていく重吾は、まさしく獣の如し。枷が外れた野獣にみえる。

重吾「フィニッシュだッ!!」

拳の連打のラストに、かかと落としというプレゼントを贈り、一夏を地面に叩きつけた。

一夏「く、くっそぉ……ダメージが……」

叩きつけられた一夏は何とか起き上がろうとするが、ダメージがでかすぎて身体に限界がきたらしい。地面に身じろぎするだけで、何もできていない。

そんな一夏にチャンスと近づいた重吾は、手のひらをグワッと広げ、一夏のISを纏った身体を持ち上げる。

一夏「ちょ、ちょっと何するつもり……?」

重吾「…………」(ニヤァ

一夏「やばいやばい!! 俺死んじゃう!!」

一夏は陸に打ち上げられた魚の様に暴れたが、その身体はガッチリ重吾に掴まれているため意味が無い。

重吾は意識を手のひらに集中させると、エクストリームガンダムのエネルギーを集め始めた。だんだんと手のひらにエネルギーが充填されていくが、手のひらにため込める量を超え出す。

重吾「ばぁぁぁく熱ッーーー!!」

エネルギーが限界まで達した瞬間、重吾はそれを一気に解き放ちーーー

重吾「シャイニング!! バンカァァァッッッ!!!!」

爆発させたーーー

一夏「ぎゃああああああ!!!!」

アリーナを震わす程の爆発を零距離で受けた一夏は、絶叫を叫びながら煙に包まれる。

そして重吾はというと……。

重吾「し、死ぬ……」

既にエクストリームガンダムを解除した……というよりエネルギー切れで解除した重吾は、モクモクと充満する煙の中から満身創痍といった感じに這いずって出てきた。

その後に続く様に一夏もズルズルと出てきたが、同じヘトヘトの状態で本当に顔が死んでいる。

『な、なんと引き分け! この勝負……引き分けです!!』

『ワアアアアアアアア!!!!』

観戦が一斉に上がり、重吾と一夏の戦いを褒め称ええた。しかし重吾と一夏はもう喜ぶ程の気力も残っておらず、痛む身体に耐えて一刻も早くと医務室を目指したのだったーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








ーーー何処かの何処か。

『あちゃ〜。やられちゃってるよぉ』

薄暗い……機械の類やコードといったものが床に散らかっている空間。そんな空間に居る女性は、ニコニコとした表情を張り付けて、目の前に浮かんでいる投影モニターを見つめていた。

浮かび上がっているモニターには、一機のISが、もう一機のISに殴り飛ばされ吹っ飛んでいく映像が連続でリプレイされている。

それを何度も何度も見直す女性は、一体何がしたいのだろうか?

これは特別なにかの映像には見えないし、貴重なものとも思えない。考えれば考える程謎は深まっていくばかりだ……。

『まあ邪魔になるようなら、消しちゃえばいっか♪』

そんな物騒なことを笑顔で言い放った女性からは、狂気じみた何かが感じ取れた。

誰かが見れば、この女性の事は正気では無いと思うだろう。だがこの女性の「感じ」は、子どもが時折見せる残忍に似ている。

無邪気な顔で、蟻やカエルなどといった小さな生き物を楽しむように……遊ぶように殺してしまうそれだ。

『さあって……もうひと仕事だね〜』

そうしてモニターの電源を落とした女性は、座っていた椅子から立ち上がると、上機嫌な様子で部屋から出ていったのだったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【重吾side】

重吾「身体が……身体が痛いよ……」

一夏「お前が爆発させたんだろぉ……痛ッ!?」

身体を手で押さえ、まるで生きる屍であるゾンビの様に歩く重吾と一夏は、痛みを必死に堪えながら医務室を目指していた。

重吾「いやまさかここまでとは……」

そう呟いた重吾は、この痛みの原因を作ったアリーナでの出来事を思い出す。

ーーーゼノンフェース形態での必殺技とも言うべき技は、手のひらにエネルギーを大量に集め、限界量がきた瞬間に一気に開放して大爆発を起こすもの。その威力は必殺技と言うに相応しい威力で、零距離であれば相手のISを一撃で倒す事が出来る。

……だが問題があるとすれば、その絶大な威力を有する変わりに……自分にもダメージがくるという事。いくらISには操縦者を守ってくれる絶対防御があるといっても、全てのダメージが防ぎ切れる訳では無いという事だ。

それを知らないで使ってしまった重吾は……言うまでも無い、ご覧の有様……使用はなるべく控えた方がいいかもしれないーーー

一夏「ーーー失礼します」

重吾「しまっす」

到着した医務室の扉を開け、挨拶してから中に入る。

「う〜ん二人共大丈夫みたいね。織斑君も井伊月君も安心していいわよ」

医務室の先生に診断を頼み、何も異常は無いと言われた重吾と一夏は一安心。だが無理は禁物と念を押されたので、それは素直に聞き入れた。

その後筋肉痛などに良く効く湿布などを先生に貰い、一夏と共に礼を贈って医務室を出て行こうとしたその時ーーー

箒「一夏ァ!!」

セシリア「一夏さん!!」

鈴「一夏!!」

重吾が触れるよりも先に開いたその扉から、息を切らした三人の女の子が我先にと入ってきたーーー

一夏「どうしたんだみんな?」

重吾「………………」

入室してきた女の子達の反応からして、一夏の知り合いだと分かった重吾は、邪魔にならぬよう医務室の先生と大人しく端に寄った。

箒「わ、私は別に……ごにょごにょ///」

鈴「私だって……その……///」

セシリア「わたくしは一夏さんが怪我をしたと聞き。心配でここに来たのですわ」

箒「なッ!? 貴様!!」

鈴「アンタだけなによッ!!」

セシリア「ふふん♪ 当然ですわよ」

何かギャーギャーと言い争いをしているが……仲はいいのだろうか? 喧嘩する程仲が良いとはよく聞くが……。

しかし改めて女の子達の顔を見ると、本当に綺麗な顔をしている。

重吾は決して女の子を顔で判断するような男では無いが、美少女に目がいってしまうのは自然な事だと思う。男であれば誰でもそうな筈だ。

「何かいい感じよね〜」

重吾「そうっすよね〜……ムカつきますよね〜」

「ねえねえ。君が掴んでる椅子がミシミシいってるんだけど」

重吾「ありゃ絶対織斑君にホの字ですよ」

「ねえねえ。君が掴んでた椅子が砕け散ったんだけど」

そんな会話を数分続け、一夏と女の子達のやり取りを見るのが苦になった重吾は、先に医務室を出て生徒会室を目指した。

重吾「………………」

真顔で廊下を歩く重吾はーーー目の端にキラリと光る何かを浮かべている。

この涙にはきっとーーーいろいろな感情が含まれているのだろうーーーでなければ真顔である筈がない。

重吾「……織斑君は……女の子にモテモテだなぁ……へっ! おかしいな……目から汗が出てきやがる……」

自分から出る物が涙だと認めたくない重吾は、無理をして胸を張って廊下を走った。

だが……走っている最中にもこみ上げてくる感情を終始抑えこんでいたが、生徒会室の扉を開け、中に居た虚の姿を見た瞬間、溜め込んでいた感情が一気に崩壊してしまった。

重吾「うづほぜんぱ〜い! リア充がぁ……リア充がぁ!!」

虚「え!? ど、どうしたの井伊月君!? 何で泣いてるの?」

重吾「ひっぐ……えっぐ……げほっげほっ!」

虚「よしよし……大丈夫ですよ」

泣きじゃくる重吾の様子を察し、虚が落ち着く様にと背中を摩ってくれる。

そのおかげで少し落ち着いた重吾は、生徒会室に置いてあったティッシュを取り、鼻水と涙を拭き取った。

ーーー恥ずかしい。

泣き顔を見られた重吾は、恥ずかしいという感情が襲ってきたことに悶え、ソファーに頭からダイブする。

楯無「うふふふふ♪ 井伊月く〜ん」

重吾「うわああああッ!?」

ソファーの後ろからぬうっと出てきた楯無に驚き、大声を上げてしまった重吾はソファーから転がり落ちてしまった。

楯無はニヤニヤとした笑みを張り付けたまま、重吾の目の前まで移動する。それが妙に気色悪いと感じた重吾は、背中がゾワっとなってしまい、虚の後ろに隠れた。

楯無「いや〜見ちゃったわよ井伊月君♪」

重吾「…………な、泣いてねえしッ!!///」

楯無「え〜? 泣いたのぉ」

重吾「泣いてねえしッ!! 誰情報ですかッ!!///」

虚「井伊月君……もう何か見てて可哀想になってきました……」

重吾「ぐぐぐ……!!///」

楯無と虚からそう言われた重吾は、顔を真っ赤にしながら唸る。

泣いていたのは事実だが、恥ずかしさが邪魔して……何よりプライドが認め無かった。

だから重吾は惨めでも「泣いた」という真実だけは断固として認めず、それを察知した楯無と虚も空気を読んで追求するのを辞めた。

ーーー一人を除いて……。

本音「わ〜。いづき〜目真っ赤だよ? 泣いたの〜?」

重吾「うわああああん!!!!」

走ったー一ー重吾は走り続けたーーー

悔しかったんじゃない……ただ…………。

重吾「恥ずかしいぃぃぃぃ!!!!」

ーーーそう、恥ずかしかったのだ。

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-6-
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