ーーー生徒会。
重吾「ああ忙しい忙しい」
両手を休み無く動かす重吾は、溜まりに溜まった書類を真に迫った顔で処理していた。
忙しいとは言ってはいるが、これはいつもの事で、最近じゃあこれが普通になっている。
楯無「ああ忙しい忙しい」
両手を休み無く動かす楯無は、溜まりに溜まったゲームの攻略を真に迫った顔で処理していた。
忙しいとは言ってはいるが、これはいつもの事で、最近じゃあこれが普通になっている。
重吾「いやまっておかしくね?」
楯無「あ、気づいた?」
重吾「気づいた? じゃないですよ!!」
ガアア!っと凶暴な肉食動物をバックに出現させ、楯無に牙を向けた重吾だったが、それでも仕事の手は休めない。もうここまでくると最早神業だとしか……。
虚「お嬢様……たまには手伝ってくださいよ……本音も」
虚がチラリと視線を向けた途端に、本音は彼方を向き、下手な口笛を吹いて何も無い様な態度を取る。
今度本音が食べるケーキにハバネロでも混ぜてやろうかと……そんな事を頭の片隅で考えた重吾は、仕事を一気に片付けて机に突っ伏した。
楯無「仕事が終わった所ごめんなさいだけど……ちょっとこれを見てくれないかしら」
そう言って楯無は、とある二人の生徒のプロフィールが書かれた一枚の紙を取り出す。
重吾「何ですかこれ?」
出された紙を手に取り、重吾はその記された二人の生徒のプロフィールに目を通した。
書かれていた二人の生徒は、どうやら今度新しく入学してくる者達らしい。しかも二人共が代表候補生ときた。
名前は、ドイツから来た"ラウラ・ボーデヴィッヒ"という女の子。
そしてフランスから来た"シャルル・デュノア"という……「男」だーーー
重吾「男ぉぉぉぉぉ!!!?」
シャルル・デュノアが男という事実。その驚きのあまりに、重吾は大声を上げてしまった。
ーーーISは「女」にしか動かせない。
それは重吾も含めて周知の事実だ。男で動かせる自分が言うのもなんだが、男で動かせるというのは異常で異例……夢でも見ているのかと思われてしまう。
楯無「やっぱりそうなるわよね」
重吾「そうなりますよ!! だって男でISを動かせるんですよ!!」
本音「いづき〜も動かせるけどね〜」
虚「う〜んでも本当に男なんでしょうか? このシャルル・デュノアって子……」
それは重吾も少し疑問に思っていた事だった。このシャルル・デュノアは本当に男なのか? 本当は女では無いのかと。
しかし紙に書かれている性別は男と記されている。確かめようにも本人が居ないので確かめられ無いし、疑っていると思われても問題になりそうで恐い。
だが重吾はそれでも、シャルル・デュノアが男だと信じれないでいた。根拠は無いが、頭の何処かでシャルル・デュノアは女……女であって欲しいという願いがある。
何故ならそれはーーー
重吾( このシャルル・デュノアって子……めちゃくちゃ可愛いぃぃぃ!!!! )
男の自分から見ても、非常に可愛らしい容姿をしていたからだーーー
こんなにも可愛らしい子が男であるはずが無い。そんな考えが重吾の頭の中で一杯になっていた。
というより男であったら、可愛いと思った自分の性癖を疑ってしまう。決してそっちの気があるわけでは無いが、そうなってしまったら死んでも死に切れやしない。
重吾「このシャルルって子は男じゃない!! 絶対そうだ!! そうな筈!!」
楯無「あら? 井伊月君も?」
重吾「………………へ?」
楯無「私もね、怪しいなって思ってたの」
そう言って楯無は「同意見」と書かれたいつも持ち歩いている扇子を広げると、口元を隠して目をスッと細める。
重吾は意外にも同意見の仲間が居た事に驚いたが、心の中では嬉しさでガッツポーズを取って歓喜していた。
だが何故楯無はシャルル・デュノアが女ではないのかと疑っているのだろうか? 重吾が疑う理由は不純塗れで汚れているが、楯無が疑う理由には検討もつかない。
重吾は頭をフル回転させて悩んでみたが、その答えが出る事は無かったーーーそしてそれから二日後。
ーーー新たな仲間がIS学園に入学してくる事になる。
ーーー【一年一組】
ザワザワと騒ぎ立つクラスメイト達。一夏はそんなクラスメイト達に目をやりながら、退屈そうに欠伸を漏らした。
今日この日、このクラスには新たな仲間が加わる事になるらしい。
一夏は正直な所「新しくクラスに入る奴が来るのか〜」ぐらいにしか思わなかったが、やはり年頃の女子というものはその手のイベントが大好きらしく、先ほどからずっとテンションMAXだ。
セシリア「一体どんな方達が来るんでしょうか?」
鈴「めちゃくちゃおっかない奴だったりしてね♪」
セシリアと鈴が転入生の予想を立てている最中、一夏はまた再び欠伸を漏らす。
自分でも少し怠けていると思うが、朝から異様に身体がだるくて仕方がない。どうも頭が回らず、ボーッとしてしまう。
箒「さっきから欠伸ばかりしているが……たるんでいるぞ一夏」
一夏「なんか身体がスッゲェだるくて……ふぁぁ」
セシリア「寝不足なんじゃありませんの?」
鈴「なっさけないわねぇ」
一夏「…………ふぁぁ」
箒達がいろんな事を言ったが、あいにく本当に頭が回らないので頭に入ってこない。
耳から入った音がそのまま隣の耳から抜けていく様に、今の一夏は抜けてしまっている。
鈴「あ、そろそろHRが始まっちゃうわ。じゃあね」
一夏「お〜う」
自分の教室である二組に帰っていくと言った鈴に、なんとも言えない返事で見送った一夏は、そろそろ先生もくる頃なので背筋を伸ばして席に座り直した。
山田「は〜い。皆さん今日も元気ですね」
一夏が座り直した後直ぐに、教室のドアが開いて副担任の"山田 麻耶"先生がニッコリとした笑顔で入室してくる。
そして朝の挨拶をした後、遅れてこのクラスの担任である千冬が姿を現した。
千冬「さて……皆も耳にしたと思うが、今日新たな生徒をこのクラスに迎えいれる事になった」
そう千冬が言うと、クラスの女子達がソワソワしだす。楽しみにしているのが丸出しだが、一夏もだんだんと興味が湧いてきた。
千冬はそんなザワザワし出したクラスメイト達を鋭い眼光で黙らせ、一拍置いて話しを進める。
千冬「……全く貴様達は……では、転入生を紹介する……入ってこい!」
「「「キャアアアアア!!!」」」
千冬の呼び声によって入ってきた二人の生徒を見た瞬間、女子達の歓声によって教室が震えた。
一夏もその声のせいで今までボーッとしていた頭が覚醒した……いいことの筈なのだが、耳の鼓膜がヤバい。
千冬「自己紹介をしろ」
ラウラ「……ハイ」
千冬が一人の転入生に自己紹介をする様に促すと、その生徒は短く返事を返し、自己紹介を始める。
ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒ。以上だ」
それだけ言ってもう何も言わなくなったラウラに、教室が静まり返った。隅の方に居た麻耶が苦笑いを漏らし、千冬がやれやれとため息を吐いている。
そして一夏はというとーーー
一夏「ーーーーー」
ーーー「凍りついていた」
別に本当に凍りついていた訳では無い。ただの比喩だ。
だが思えば本当に凍りついていたのかもしれない……そのラウラという少女の……冷たい冷たい「瞳」にーーー全てを見下し、蔑む様なその瞳は氷のように冷たく。そして悲しそうに見える。
しかし今の一夏には、何故そんなにも悲しそうな目をしているのかが分からなかった。
千冬「では次だ、自己紹介をしろ」
静まり返っていた教室が、千冬の声で活気が戻る。自己紹介をまだしていない二人目の転入生が前に出ると、クラスメイト達がより活気に満ちた。
一夏はその二人目の転入生に目をやり、自己紹介を聞いた途端に、別の意味で凍りついてしまう。いや、凍りついてしまったのは一夏だけでは無く、クラス全体と言った方が正しいか。
何故なら二人目の転入生はーーー
シャル「シャルル・デュノア……世界で二人目の男性操縦者としてこの学園に入学しました。みなさん、よろしくお願いします♪」
一夏「お、男ぉ!?」
ーーー「男」だったんだから。