小説『ISー『転成した極限野郎』』
作者:Melty Blood()

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ーーー生徒会室。

今日の生徒会室は皆それぞれ、思い思いのしたい事をしていた。

楯無はゲーム、虚は読書、本音はケーキを食べている。そして重吾は日頃の仕事の疲れもあってか、ソファーに横たわりスヤスヤと眠っていた。

楯無「…………」

虚「…………」

本音「〜♪〜♪〜♪」

重吾「………Zzz」

静かな生徒会室には、時を刻む時計の音だけが響く。いや、他にも楯無のゲームのボタンを押す音や、虚のページを捲る音なども聞こえていた。
しかしそれは『うるさい』……では無く。『心地よい』という表現の方が正しい音だ。普段気にしない様な音達が、静かだとこうも耳に心地良い物だったとは………。

虚「…………ふう」

読んでいた本を閉じた虚は、息を吐いて目頭を揉んだ。ちょうど良い所で区切りが付いた為、休憩を兼ねて本を読むのをやめた虚は、一息つくために紅茶でも淹れようかと腰を浮かす。

虚「あら……?」

ティーセットを取りに行くのに寝ている重吾の横を通った虚は、ソファーの上から半身を投げ出し、今にも床に崩れ落ちてしまいそうな重吾に目がいった。

虚「ちゃんと寝なきゃ落ちちゃうでしょ」

そう言って重吾の半身をソファーに戻した虚は、気持ち良さそうに眠る重吾に笑顔を浮かべる。
さて、ささっと紅茶を淹れて読書を再開しよう……そう思った虚は重吾から離れた。

ーーーギュッ

虚「あら?……ちょっと井伊月君」

重吾の横を通り過ぎようとした虚だったが、寝ぼけた重吾に制服の袖を掴まれてしまい、その場から動けなくなってしまう。
全く……とため息を吐いた虚は、重吾を起こさぬよう掴んでいる手を引き剥がそうとする。

虚「きゃっ……!?///」

もう少しで剥がせる……そんな時。虚を抱き枕か何かと勘違いした重吾が虚の身体を強引に引き寄せ、自分が寝ているソファーに抱きかかえる様に引き込んだ。
ギュウゥッと抱きかかえられてしまった虚は、何とかこの場から離脱出来ないかと藻掻く。しかし藻掻けば藻掻く程、重吾の虚を抱く力が強まっていった。

虚「ちょ、ちょっと井伊月君……ッ!///」

重吾「んん……ん〜」

虚「ひゃッ!?///」

重吾の寝息が耳に当たり。ゾワリと表現しがたい感覚が、虚の背中を駆け走った。
ヤバい。このままでは非常にマズイ。自分の中の羞恥心が限界に来そうだったし、何より今はまだ気付いていないが、楯無や本音に気付かれてしまったら何をされるか分からない。

そうなると虚が取るべき行動は二つある。

重吾を起こさぬようにこの状態を離脱する事。そして楯無や本音に気付かれずに元の席へ戻る事だ。

虚(そ〜と動けばいける筈です……)

身体をよじる事で重吾の拘束から逃げれると考えた虚は、ゆっくりと身体を動かしてそれを実行する。
少しづつだが重吾の手から逃れる事ができ出し、少しの希望が見えてきた。

虚(あと少し……!!)

そうして一気に身体をよじった虚だったがーーー

重吾「………んん…」(ギュゥゥ

虚「は…や……////」(カァァ

お腹に回されていた重吾の両腕が、何と虚の胸を鷲掴みにしてしまい。虚は鯉の様に口をパクパクさせ、一瞬にして顔を真っ赤に紅潮させる。

虚「イヤァァァァァッッッ!!!!////」

ーーーそうして虚の絶叫が生徒会室に轟き。

重吾「ゲッフゥゥゥ!!!?」

ーーー重吾の顔面に虚のビンタが炸裂した。

…………

………………

……………………

…………………………

………………………………

重吾「あ〜痛い……主にほっぺたが痛い」

頬に大きな紅葉模様を付ける重吾は、痛みからくる涙を必死に堪えていた。

虚「ごめなさい井伊月君……」

楯無「やっちゃったわね虚ちゃん」

本音「大丈夫? いづき〜」

重吾「うん平気……ごめんホントはめちゃくちゃ痛いです」

目を覚ました原因がカーテンから差す太陽の光だとか、可愛い女の子が起こしにくるとかじゃ無くて。可愛い女の子のビンタで目覚めるなんて初めてだ。
しかしそれよりもビンタした相手が虚という事に一番驚きショックも受けた重吾は、本当に目から涙が溢れ出そうで、今も辛うじて堪えている。

楯無「でも何でビンタなんか……」

虚「それは……その……////」

楯無がビンタをした原因を聞き出そうと問いかけた途端、虚が人差し指と人差し指をツンツンとさせてモジモジし出す。

虚「耳を貸して下さいお嬢様……////」

楯無「え〜……ふむふむ……へ〜」

余程言うのが恥ずかしいのか、楯無に耳打ちで訳を話した虚。重吾は全くと言っていい程虚が恥ずかしがっている理由が分からず、頭を傾げたまま痛む頬を摩った。

楯無「はぁ〜成る程ね。そりゃまあそうなるか」

重吾「会長……一体何を……」

楯無「聞きたい?」

重吾「ま、まあそりゃぁ……」

妙に真剣な表情の楯無に押されながらも、コクリと頷いた重吾。しかし何故かその秘密を知ってしまうと……何かが崩れ去っていきそうで恐い……そんな感じが直感で伝わってくる。

楯無「そんな構えなくてもいいわよ」

重吾「いやでも何か……何かヤバい気がするんですよ」

楯無「まあ聞いたらヤバいわねぇ……きっと井伊月君ぶっ倒れるわよ? 主に鼻血で」

重吾「は、鼻血でッ!? まさか会長が俺の耳元でアダルティな発言するとか……ですか?////」

楯無「恥ずかしいんなら無理して言わなくても……」

ため息を吐いた楯無は、チョイチョイと手を動かす。それがこっちに来いという事に気づいた重吾は、顔を少し赤く染めて楯無の側に寄った。

まさか本当に変な事を耳打ちされるのか?

そんなドキドキとした気持ちと、何を言われるのだろうというムッツリとした期待で心臓がドキドキと速まっていく。

楯無「井伊月君…………」

重吾「は、はいッ!!////」

もう思考回路がグチャグチャになりつつある重吾の耳に、楯無の言葉が紡がれようとする。
虚が楯無に耳打ちまでして伝えた事とは!? 何故重吾に目覚ましビンタを喰らわしたのか!? その秘密が今明らかになる!!

楯無「貴方……虚ちゃんの胸揉んだのよ」

重吾「何を言うかと思えば……この紳士の鑑とも言うべき井伊月 重吾が女の子の胸を揉んだ? やれやれ……会長、きっと疲れてるんですよ。そうだ、虚先輩の紅茶でも飲めば落ち着きます。そうと決まれば早速用意してもらいましょう。その胸を揉んだとかいう妄想を勘違いだったと気付せる為に。だっておかしいじゃないですか? 俺は寝てたんですよ? 寝ている奴がそんなラッキースケベを起こせる訳無いじゃないですか。だからきっと間違いです。絶対そうです。やれやれここまで言っても分かりませんか会長……もう一回言いますよ? 何を言うかとーーー」

楯無「もういいもういいから井伊月君ッ!! 認めたく無い気持ちは十分に伝わったからッ!!」

重吾の熱弁にげっそりとした表情を浮かべた楯無は、勘弁してくれといった感じにソファーへダイブした。虚も乾いた笑いを漏らし、重吾を一目見て自分の机の椅子へと座り込んだ。

重吾「……………寝よ」

何かとてつもなく寂しい気持ちになってしまった重吾は、ソファーにダイブした楯無を退かし。再び身体を休める睡眠行動へと戻る。

本音「ん〜……むにゃむにゃ……Zzz」

そうしてまた生徒会室には、静かな時間が訪れたのだった…………。

ーーーIS学園屋上。

強くも無く。そして弱くも無い風が吹く屋上。
そのどっちつかずな風はとても心地の良いものだったが、この屋上に一人佇むこの女性は、それを感じさせなかった。

ラウラ「…………」

冷たい目で眼下に広がるIS学園を見下ろすラウラ。
言葉を発する事なくただジッと見つめ続けるその姿は、まるで精巧に作られた人形の様に見えた。
だが人形という言葉はさながら間違っていない気もする。
流れる様な長い銀髪の髪は、太陽の光を浴びて輝き。そして白雪のように真っ白なその肌は穢れを知らず、透き通るように美しい。

人形だ。本当に人形の様だ。

無表情で。無機質で。動かなくて。心も無くて。そして生きる意味すら持っていない玩具で。捨てられて。壊されて。何を思っているのかも分からず、存在し続ける物。

そんな有様を体現している様なラウラは、一体何を思い。そして生きているのだろうか?
しかしそんな事は本人にしか分かり得ない。いや、本人自身でも分からない事なのかもしれない。

ラウラ「…………冷たいな…氷だ」

突如吹いた突風にそんな言葉を漏らしたラウラ。
口元に嘲笑を含んだとも見れる笑みが浮かび、自身の左眼に付けている眼帯を触る。
そして突然苦しみ出したかの様に顔を歪めたラウラは、触れていた眼帯を乱暴に顔から奪い取り、隠された左眼を晒した。

ラウラ「……教官……貴方は私の……たった一人の……」

再び吹いた大きな風が、ラウラの銀髪をなびかせ晒していた左眼を隠す。
その隠れた左眼の光彩が金色に、宝石の様に輝いていたのは……きっと何かの見間違いなのだろう。

ラウラ「私は貴方の為だけに……!」

そうして去っていった屋上には、ヒュゥッと音を立てて吹き荒れる風の声だけが残されたのだった。

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ーーー生徒会室。

いつもの様に仕事をし。いつもの様に仕事を終える生徒会室。
しかし今日の生徒会室にはとても面倒で、それでいてやらねばならぬ問題が転がり込んできたのだった。

虚「た、大変ですお嬢様ッ!!」

突然生徒会室の扉が開け放たれ。重吾や楯無や本音の視線が集中する。
生徒会室の入り口に息を切らして立っていた虚は、そうとうスピードを出して走ってきたのか、額から汗が流れていた。
相当厄介な問題が起こったのだろう。
そう感覚で分かった重吾は、真剣な表情を取って虚に何があったのかを問いかけた。

虚「一年生の専用機持ちの生徒が乱闘を起こしています!!」

楯無「場所は?」

虚「アリーナ付近です。速く対処しなければ、他の生徒にまで被害が及ぶ可能性も!!」

それを聞いた楯無は短い舌打ちを漏らす。面倒な事が起こった、そんな感じだ。

楯無「井伊月君……いける?」

重吾「専用機持ちですか……乱闘をしてるって事は少なくても二人……三人いるって事ですよね?……死にますね」

自分の危険になると、人間ていうのはそれを回避しようとする。
それは重吾も全く同んなじで、専用機持ちの乱闘に突入など生きて帰れないようなミッションは断じてしたく無かった。

楯無「……分かったわ……じゃあ専用機持ちの乱闘に他の生徒が近づかないよう止めに行ってくれるかしら」

重吾「それぐらいならお安い御用です」

楯無「じゃあ若さに溢れる『女の子』達を止めるの……頑張ってね♪」

重吾「会長。やっぱ俺行きます。こういう時の為の人員ですからね」

楯無「…………ヘタレ」

うるさい。そう心の中で文句を零した重吾は、専用機持ち達が乱闘をしているというアリーナへ急いだのだった。

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ーーーアリーナ。

鈴「……くっそムカつくわねアイツ」

辺り一面砂埃が立ち上がり、アリーナの壁の成れ果てた瓦礫が散乱している。
そんな瓦礫が山の様に積もる中に居た鈴は、目の前に佇む黒い機影を睨みつけた。

ラウラ「この程度の実力で……よく代表候補になど選ばれたものだな」

散らばる瓦礫を蹴り、煙の向こうから悠然と姿を現したラウラ。
その身体にはラウラ・ボーデヴィッヒの専用機であり、ドイツの黒い雨である『シュヴァルツェア・レーゲン』が威圧を放っていた。

鈴「それはコッチのセリフよ。アンタみたいなクソ野郎が、良く代表候補生になんてなれたわね」

瓦礫を押しのけ立ち上がった鈴は、挑発とも取れる笑みを浮かべてラウラを据える。
だがラウラはそんな軽い挑発になど乗らず。薄い笑みを貼り付けた表情を崩そうとしない。
それが逆に挑発されているのだと気付いた鈴は、奥歯を噛み締めて顔を歪めた。

鈴「アンタ本当にムカつく……イライラする…」

ラウラ「そうかそうか……それは良かったな」

ニヤリと大きく口元を吊り上げたラウラは、自分の挑発に簡単に乗った鈴を笑って嗤って嘲笑う。

我慢の限界だ。

自分の中のゲージがそう認識した瞬間。鈴は中国の龍であるIS『甲龍』の武装『双天牙月』を構え、ラウラに一気に肉薄した。

ラウラ「何だ? 攻撃が単調だぞ? 怒りに身を任せているな」

薙刀の様な武器である双天牙月の刃を、シュヴァルツェア・レーゲンの『プラズマ手刀』で弾く。
怒りで動きは大雑把かつ単調になっている鈴は読み易く。そして倒しやすい。

ラウラ「ほらほらほら。どうしたどうしたぁ? この程度ではないのだろう?」

鈴「あぐぅ……ッ!?」

プラズマ手刀で鈴の身体を斬りつけ、よろけた所に鋭い蹴りを放つ。
蹴り飛ばされた先にあった瓦礫に再び突っ込んだ鈴は、くぐもった息を漏らして表情を歪めた。
まるで獲物を狩る獣の様に鈴をいたぶるラウラは、とどめを刺して再起不能してやろうと動き。痛みで身体が動かない鈴に歩みを進める。

セシリア「貴方……動かない相手を虐めるなんて、本当に下衆なお方ですのね」

ラウラ「隠れて私を狙っていた貴様も同じだと思うがな」

ゆっくりと後ろに振り向くと。イギリスの青い涙である『ブルー・ティアーズ』を纏ったセシリアが、その武装である『スターライトmkIII』でラウラに狙いを定めていた。

セシリア「動くと撃ってしまうことになりますが……私は貴方があまり好きになれないですわ」

ラウラ「はッ! 誰が貴様みたいな弱い奴に好かれたいと思うか。自意識過剰じゃあないのか?」

セシリア「本当に好きになれませんわね……」

こめかみに青筋を浮かべたセシリアは、遠隔操作武装である『ブルー・ティアーズ』を展開させてラウラに放つ。
まるで意思を持っているかのように動くそれは、縦横無尽に飛び回り、ラウラを四方八方から攻めていった。

まるで蝿だ…………。

そう思ったラウラは目を見開き。飛び回るビット達の動きを見つめる。

ラウラ「煩わしい虫が…………消えろォッ!!」

咆哮したラウラに呼応するかの様に、シュヴァルツェア・レーゲンから飛び出した無数の『ワイヤー・ブレード』がビットを貫き。爆発に変えて花火を上げた。

セシリア「ティアーズがッ!?……なッ!?」

驚くのも束の間。一気に攻撃範囲まで近付いていたラウラに、防ぐ暇もない突然の回し蹴りを喰らってしまう。
地面に激突し、砂塵を巻き上げたセシリアに『大型レールカノン』というプレゼントを贈ったラウラ。
砂塵が晴れて見えた物は、ISの限界により強制解除されて地面に投げ出されたセシリアの気絶した姿だった。

ラウラ「………………」

アリーナに倒れる鈴とセシリアに交互に目配りしたラウラは、一番近くに倒れているセシリアに近付く。
プラズマ手刀を出現させてセシリアに突き立て、冷酷な表情を浮かべるラウラはゆっくりとプラズマ手刀を振り上げる。
そして目を細め、勢い良くセシリアに向かって振り下ろされたそれは………。

ーーーバチィッ!!

ラウラ「…………何だお前は…?」

重吾「生徒会だよ」

横から入った重吾のエクストリームガンダムのビームサーベルによって防がれた。

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