小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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 第十二話 同盟、そして反逆




「同盟の提案ですよ。リザの仇を討ちたいとは思いませんか?」

神父がそう俺に話を持ちかける。俺に断る理由は無かった。だからその提案を呑んだ。
そうして俺と神父は櫻井を探すために公園まで来ていた。

「で、あんたはどうして同盟の提案なんてしたんだ?」

事実、仇を討ちたいからといっているが、果たして俺にそれを持ちかける理由があるのか。

「ええ、我々は手を組むべきです。私たちの目的は同じと言えるのですから。貴方もテレジアを救いたいと思っているはずです」

「それは、確かにそうだが……」

「なればこそハイドリヒ卿を蘇らすわけにはいかないのですよ。黒円卓は五色の色を掛け合わせることにより完成します。どれか一色が欠けても黄金は完成しません。赤、黒、白、黄、翠―――テレジアが翠である以上、我々は他の色を斃すべきなのですよ。そして黄がハイドリヒ卿の聖遺物である以上我々に壊すことは出来ません。素手でダイヤモンドを壊すことと同じことなのですから。ですが私だけでも貴方だけでも他三色である赤、黒、白である彼らに勝つことは出来ない。見たでしょう、彼らのあの圧倒的なまでの強さ」

「それはつまり大隊長とか言ってた、あいつ等は赤と黒ってことなんだろ?あいつは……あのアルフレートって奴は一体お前らの中でどういう立ち居ちなんだ?」

あいつだけは自分の所属を言うときに黒円卓と名乗らなかった。それが意味するのはなんだ?

「そのことですか。でしたらこの際、話すべきなのでしょうね」

「だったらその話、私にさせてはもらえぬかね」

その声は突然現れた。神父の後ろからその気配は現れ謙った態度で俺たちの前にいた。髪の色は茶色、若干病弱そうな顔立ちで服装は神父の着ている物と同じだった。

「貴方は……」

神父自身も驚いており、その神父の対応を見る限り味方には見えなかった。だからといって殺気を放ってもいないので敵にも見えない。少なくとも此処で戦う気はなさそうなので話を聞いてみる。

「あんたは一体誰だ?」

「失礼、名をクラウディウス、貴方達が話しておられたアルフレートの眷属ともいえる存在です」

一気に俺と神父は警戒を強める。コイツがアルフレートの眷属だと!?だとしたら手を組む話含めて全部聞かれていたかもしれない。俺も神父も臨戦態勢に入る。

「待って欲しい。眷族といっても私達はその管理下から外れているのだ。忠臣である二名を除けば我々は奴に忠誠心など持ってはおらぬ」

「どういうことですか?」

神父がクラウディウスと名乗った男に尋ねる。もしコイツの言ったことが本当ならうまくいけば奴らを斃す為の情報が手に入るかもしれない。そういった期待も込めてみると、

「そのままの意味だ。私を含め我々は六人居るがその中であ奴に忠を誓う物は二人しかおらん。だが、我々は立場上に於いてはあ奴の眷属と言うことなのだ」

「それはつまり貴方はナウヨックスさんの眷属でありながら指示に従う必要は無いと……とてもじゃ無いですが、俄かには信じられませんね」

「そうは言っても私は既にお主に依存をしてしまっている。その為どうしてもと言うなら私を殺さねばその問題を根本的に解決することなど出来ん」

依存?どういうことだ。発言からして依存の対象になっているのは神父のようだが、それは一体何なんだ?

「依存ですと!それはつまりナウヨックスさんがハイドリヒ卿にしていることをあなたは私に対して行っているということですか!?」

「その通りだ。しかし、これは私の意向ではなく、あ奴の術式による強制的なものだ。我々は『七皇帝の分体』と呼ばれている存在なのだ。故に私個人では依存を解くことは出来ん。どうしても認められんのならここで殺すがよい」

「そもそもお前の言う依存ってなんだ?」

「依存とは我々がこの世界そのものに現界するための術式の一種だ。貴方は|666(Nrw Ksr)とは既に対面しておいでか?」

―――|666(Nrw Ksr)、橋で戦ったあの敵。あの時はすぐにラインハルトが現れたけど、結果的に俺が覚悟を決めるために戦った相手。あいつ等はその魂が安定しないから体の一部が損傷するだけでその身を瓦解させていた。

「知っている。あいつと何か関係があるのか?」

「言わばあれは我々の元となった存在なのだ。つまるところあれの一つの完成系が我々だ。他者の存在に干渉することによってこの世界における魂の固定化を行いこの世界に長時間の現界を可能とさせる、そういう術式なのだ」

「ちょっとまってください。干渉、ですか?それはつまり依存以外にも何かあると?」

神父が尋ねる。確かにコイツは依存とは言わずに干渉といった。だったら他にも形があるということか?

「そうだ、我々が行える干渉は依存の他に共存、吸収、強奪の三種が存在する」

俺たちの疑問に対してこうもあっさり答えると言うことは、やっぱりコイツは敵対する気は無いということか?

「依存はそもそも相手をこの世界に現界するための核とするもの。能力が依存対象への補助を目的としたもの全般になるがな。メリットは依存対象が死んでもすぐに現界出来なくなる訳ではない。その間に新たに干渉できる相手を見つければ問題なく現界出来る。デメリットは依存対象に能力とステータスが左右されることだ。
共存とは対等な関係になり持ちつ持たれつで現界することだ。メリットは能力が戦闘型になりやすいことと、現界に制限がないことだな。デメリットは共存対象が死ぬと自分も死ぬこと。
吸収は相手に自ら喰われることだ。この時点で魂は完全に取り込まれるゆえその身はもはや現界することはできんがな。メリットは膨大な魂の力と聖遺物を吸収相手に与えること。デメリットはその時点で存在が喰らわれることだ。
最後に強奪に関しては依存・共存相手を逆に喰らうこと。敵が死ぬ直前にそれを喰らうのもありだがな。メリットは現界の制限がなくなることと、取り込んだ相手の能力を手に入れれることだ。
説明すべき点としてはこんなところだろうか。理解してくれたか、お二方?」

「しかし、それが本当だという証拠はどこにもなく、さらに言うなら話を聞く限り強奪とやらは私にとって脅威となるのでは?その上で交渉ですと。あなたは現状を理解しておられるのですか?」

確かにそうだ。こいつの言ってることが本当だという確証なんてまったく無い。それどころかそうやって俺たちに間違った情報を与えて惑わす気かもしれない。

「理解している。そしてそれを証明するものもない。が、あえて説明させてもらうならば我々六人の内聖性の物質に触れることが出来るのは一人しかおらん。信用されないことは承知の上で現れたのだ。私は奴等の行いを認めるわけにはいかんのだ。私が彼奴等を殺すのに手を貸しては貰えぬか!」

根拠も無く納得も出来ないが目の前の相手を見てこいつは信頼できると俺は思った。何故なら俺はこいつが裏切るなんて結末を|知らなかったから(・・・・・・・・)




******



―――遊園地―――

「つまらねぇ」

|白皙(はくせき)の魔人、ヴィルヘルム・エーレンブルグはそう呟く。
そこは既に多くの人々を楽しませるテーマーパークではなく血潮に塗れ、建物もアトラクションも倒壊し、生けるもの総てが死に絶えていた。
しかし、これは所詮、彼にとって任務の一環という体裁をとっただけの憂さ晴らしである。その上で彼はその憂さが晴れることはなく、そう吐き捨てることも無理ないことだった。
彼は思う。いつもそうだったと。九十年近く生きてその大半を略奪と殺戮に費やしながらも、興味を持った獲物に限って他人に奪われる。真から求めたものほど手にはいらない。

「ここまで来ると業ってやつかね。もう一滴残らず絞りつくして、交換したはずなんだがな」

血を流すのも、他者から吸い上げるのもそのために。己の宿業を破却するには、血の縁をリセットする以外、思いつかないというだけ。故に、足りぬというなら繰り返そう。他の方法など今更思い浮かばない。血を流し血を吸い上げ、己を新生させ続ける。

「となれば―――」

「それもまた一興。なあその話、自分ものらせてもらえない?」

そう一つ策を思い浮かばせ、いざ実行に移さんとした所で声を掛けられる。少しばかりいきり立つと同時に若干の驚きを見せるヴィルヘルム。彼は別段索敵に優れているわけではないがそばで声をかけられるほど抜けているわけでもない。ましてやここはスワスチカが開き、周囲にはもはや人は愚か生命すらない。そんな中で声を掛けてきた相手に目を向けると、

「やあ」

今にも消えてしまうのではないかと思えるほど存在感の薄い存在がいた。しかし、それを見た瞬間、彼はこれを理解したのか嗤い出す。

「くは、かはははは……そうかテメエか、なるほどな。そりゃまた面白い趣向じゃねえか」

一頻り笑った後、ヴィルヘルムは確認を取るような形で話しかける。

「じゃあ、やっぱりテメエがナウヨックスの■■ってわけか?」

「その通り、君に忠を誓う様に言われてる。今より貴方が自分の主だ。我が名はティベリウス。これより御身に使え、御身の敵を駆逐し、御身の望むままに命を聞き届ける」

膝を付き頭を垂れ忠を誓う人物。その構えが気迫が気配が彼の忠は本物であることを証明する。これより死ねと命ずれば死ぬだろう。ナウヨックスを裏切れと言われれば裏切るだろう。
ここに白の吸血鬼に使える影の騎士が現れた。

(ああ、おもしれぇ。相変わらずテメエはおもしれぇよなナウヨックス。俺はオマエの事を買ってはいるんだぜ。クラフトの野郎と違ってこうやって俺に楽しみを与えてくれるんだからな)




******




「一つ聞きたい。結局おまえ等の中でアルフレートってのは一体何なんだ?」

結局、蓮はクラウディウスという人物を信じることにし、自身が根本的に疑問に思っている事を聞いた。例え目の前にいるのがアルフレートの眷属であろうともそれが聞きたい。一体アレは何なのか、と。故に尋ねた。その回答は、

「影だ。あれはこの世にいてはならない存在。私も含め我々は今のこの時代にいることもこの世界にいることも異端の存在だ」

「影?だから俺はそれが何なのかを聞きたいんだ。お前らがアレを影って認識してるのは分かるが、その影ってのがそもそも何なのかを教えて欲しい」

「彼は我々よりも先にハイドリヒ卿と出会っていた人物なのです。
ハイドリヒ卿は1939年にて最初にベイとシュライバー、続く形でザミエル、ベアトリス、リザ、マレウス、私。ゾーネンキントはこの時点で予約席であり、シュピーネは私が、カインはザミエルが引き抜き、そして最後にマキナ。ですが彼は我々はおろかこの黒円卓が出来る切欠となったカール・クラフトよりも尚、先に出逢っている。そして彼だけは我々のように彼に屈していない。恐ろしいとすら感じますよ。黒円卓にいる我々は皆すべからく彼に屈したというのに」

それを聞いて蓮は驚く。当然だろう。彼が圧倒された大隊長、彼らですら屈した相手にアルフレートは屈していないというのだから。

「さらに言うならあ奴は|水騎士(アグレド)なのだ」

「あぐ、れど……?」

何だそれは、と蓮は思う。事実、錬金術による黄金練成の要素に五色以外の色が入ることはないし、あったとしても水という要素が入ることは無い。|水騎士(アグレド)などというものは存在しないのだ。
しかしクラウディウスは|水騎士(アグレド)という称号をいった。それが意味することは、

「あ奴はなんとしてでも斃さねばならない。でなければ色の代替として機能してしまう」

「色の代替ですと?そのようなことが現実に可能なのですか?」

「それがあ奴の役割だ。三色はその質を英雄として認められたものにのみ、その役割を与えられる。色が欠ければ完全な黄金練成は出来ない。では、そのように簡単とは言わずともすぐさま実行できそうな弱点を果たしてカール・クラフトは用意するだろうか。
弱者である翠はもはや敵である他者からすら守られる存在へ、黄はそもそも砕けれぬ、ならば何故他の三色に対策がこうじられていないと言えるか」

事実、彼らが朽ちれば黄金練成を完璧にすることは出来ない。いくら|不死者(エインフェリア)といっても斃されてすぐさま蘇ることはできないのだ。ではどうするか。簡単だ、代替を用意すればいい。

「|水騎士(アグレド)とはつまり、三色に成り代われる存在。そうであれば、例え一色が欠けてもあ奴が代替として機能し、黄金練成を完成させてしまう。
これを見越した上で黄金練成を防ぐ手段は三つ。二色を欠かすか、一色を欠かした上であ奴を斃すか、三色以外を欠かすしかない」

水は無色透明の物質。故にどの色にも染まる。つまりはそういうことなのだろう。

「結局二人以上斃さないといけないってわけかよ」

「となれば優先順位をつけるべきだと私は思います」

ヴァレリアがそういう。優先順位、斃す上で誰を優先して狙うべきか。現状の戦力は蓮、ヴァレリア、クラウディウス、そして出来れば説得して螢と螢を連れて行ったトバルカインを味方にしたい。その上で誰が誰を狙うか。
クラウディウスがアルフレートを狙うことは論外、眷属に過ぎない彼では勝つことは出来ないから。蓮も相性を考えれば避けたほうが良い。つまり唯一相性を判断できないヴァレリアが最も勝つ可能性は高い。さらに言えばクラウディウスがサポートに付けば勝率は高まるだろう。逆に蓮は大隊長を一人、斃さなければならない。少なくともヴァレリアがアルフレートを斃すまでの時間稼ぎが出来なくてはならない。

「結論から言ってやはり我々は戦力が足りない。やはりレオンハルトも味方につけるべきでしょう。そして後は戦略で補うしかない。最低でも一対一、出来れば二対一の状況に持っていきたい、といったところでしょう」

そうして、三人は螢がいるであろう公園まで向かい交渉を行いにいった。

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