小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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十三話 教会はカトリックなんだろうか




―――病院―――

「さて、教会に行くべきか、彼を追うべきか……」

エレオノーレとの戦闘後、アルフレートは迷っていた。教会へ行き情報をまとめるべきか、蓮を追いヴァレリアと何を企んでいるのか確かめるべきか。

「『七皇帝の分体』をヴァレリアに憑かせたしここは教会へ行って休息するべきかな」

エレオノーレと戦う前に口にしていた詠唱。それは『七皇帝の分体』と呼ばれるものであり、最大六人を生み出す一種のホムンクルスであった。ある意味では666(Nrw Ksr)の完成形。その実力はアルフレートの約四分の一。666(Nrw Ksr)と同じでその魂でスワスチカを開くことは出来ず、魂の総量としてもかなり低いが彼らの存在意義はそこには無い。
誰かに憑かす。干渉とクラウディウスが呼んでいた現象を起こさせることでその魂の形を固定化させ、彼らはそこで始めて実力を発揮する。その実力は時として主人であるアルフレートすら上回る可能性を持つ。そして最も注目すべき点があるとすれば彼ら自身にも聖遺物が存在しているということだった。

「一人一つ。それを覆せる存在何だけどね……」

誰かにとり憑かなければその能力を発揮できない彼らもまた不完全な代物。そう断じているアルフレートはある意味『七皇帝の分体』を666(Nrw Ksr)よりも信頼していない。アレは人としての個性を持たせすぎた。人としての個性を持たねば渇望を生み出せない。しかし、そうなればアレは忠実な手駒でなくなる可能性がある。そう理解しているからこそ彼はアレを獅子身中の虫と言ったのだ。

「出来れば教会にトバルカインがいればいいんだけどね」

未だ負傷した傷は癒えきっていない。彼の再生速度は比較的遅いほうなのだ。ヴィルヘルムに受けた傷を癒すのですら半日以上使ったのだ。見た目は無事に見えても今宵の彼はかなり疲弊していた。
だが、例えそうだとしても彼の怒りは収まりきっておらず、その怒りは彼の内側で燻っていた。

「ああ、でもヴェヴェルスブルグは回収しなきゃ。でもあれ聖性だからカリグラしか持てないのか」

カリグラは何処に居たっけなー、と呟きつつ歩きながら彼は教会に向かっていた。



******



―――教会―――

少し時間を遡りベイが遊園地のスワスチカを開いて教会まで戻って来ていた。しかし、彼の様子は普段と違いそれを訝しげに思ったルサルカは彼に対して警告を放っていた。

「そう、残念ね、ベイ。貴方とは長い付き合いだったから出来れば争いたくは無いのだけれど」

「俺か言わせりゃ、女で友情築けるなんてはなから思っちゃいなかったけどよ」

そう言ってヴィルヘルムは笑みを浮かべながら殺気を漏らす。まるで何かを期待するように。

「なあ、ティベリウスだったっけか?テメエはアレ見て如何思うよ?」

「万に一つも無い可能性の中で掴み取るとはやはりアレは神に愛されてるのでしょう。出なければアレをヒトと呼んでもいいのか悩んでしまう」

突然現れたティベリウスと呼ばれた男。ルサルカはそれを見て驚愕をあらわにするが言葉にする前にヴィルヘルムに尋ねられる。

「まあ、俺にとっちゃあ、男も女も二つに一つだ。そそるか、そそらねえか、てめえじゃそそらねえよマレウス。
それがなんだ、守備範囲外なんで放置してりゃあ調子くれて、俺の餌ァ攫うなんざ舐めた真似こきやがってよォッ!!」

咆哮は轟音となり、殺気が爆ぜる。今まで押さえ込んでいた分を吐き出すかのように放たれた。が、

「もう少し待ちましょう。それで出てこなければ殺せばいいだけの話です」

「チッ、そうかいそうかい。わっーたよ」

仕方なし、といった様子で殺気を収めるヴィルヘルム。それがあまりにも奇妙な光景に映ってルサルカは驚愕していた。矛先を収めたヴィルヘルムにも、それを諌めたティベリウスという男にも。

「貴方達、一体何なのよ」

「それよりもお体の方は大丈夫ですか?特にその押さえている腹部の辺り」

ワケのわからない心配をいきなりされるルサルカ。そう尋ねられ初めて自分が無意識に腹部を押さえていたことに気付く。その様子をヴィルヘルムは喜色満面で見ており、まさに期待通りと言わんばかりに顔を喜びで現している。そして……

「あ、ああああっがぁぁっぁぁぁぁぁっ!!」

腹を割かれる。子宮あたりから腕が伸び、鎖を這わし血をあふれさせながら現れたのは一人の少年だった。

「復ッ活!!とでも言やァいいのか、この場合はよ」

遊佐司狼、ボトムレスピットでルサルカに食われたはずの彼は食らったルサルカ自身の腹から現れ、そしてその存在を進化させていた。

「ふふ、はははは、あはははははは―――ッ!いいねぇ。最高だぜ!マレウスの聖遺物奪って腹破るなんざ万に一つも有り得ることじゃねえぞ」

「ですが、貴方もそうなることを期待していたのでしょう。少なくとも二割と予測していたのでは?」

「つーか、オマエ誰だよ」

笑いながら司狼はヴィルヘルムと会話をしているティベリウスに尋ねる。見た目はある意味ヴィルヘルムよりもこの時代(世界)にそぐわないであろう黒い服装。現代風の基調ではあるもののその質感に対して違和感しか湧かない。何故なら黒とは此処まで暗い色だったかと思わせるからだ。例えるなら黒い服が色鉛筆で塗ったのに対して黒の絵の具で塗り潰したかの様な色。世界すらも塗り潰してしまいそうな黒だった。しかし、尤も気にするべきはそこではない。

「オレ、他人よりは目が良いつもりなんだけどよ……はっきりオマエのことがはっきり見えないのはどういうことかね?」

「始めまして、このたびヴィルヘルム・エーレンブルグの臣となったティベリウスと言います。以後お見知りおき、の必要はなさそうですね」

司狼の疑問に答えることは無いが名乗りを上げたティベリウス。司狼はそれが何なのか当たりをつけていたが自分にもあたる可能性があるので気にする必要は無いと決めた。

「そりゃまあそうだな。此処で俺が勝つからお前等と話す機会なんてもう無いだろうし。後、あれなんだよ。オマエを見てると何かノイズが走ってうぜえんだよ」

既知なのか未知なのかはっきりとしない感覚。深く見れば見るほどそれは分からなくなっていく。思考の渦に嵌っていくかのように底なし沼に落ちるかのように。違和感が感覚を覆っていく。

「死ぬのはテメエだ。まあ、俺らと同じ土俵に立てたことは評価してやるが今のテメエじゃ勝てねえよ。活動ぶっとばして形成までいたれたのは褒めてやるが、その様子じゃあ創造は出来てねえんだろ?」

「ハッ、だから?お前らの言う形成まででも時代遅れのバンピー程度に負けるほど落ちぶれちゃいねえぜ」

司狼は自分の銃であるデザートイーグルを構え連射する。それは今までの物と違って黒円卓である彼らに傷をつけることが可能なものだった。

「さあ、再戦といこうじゃねえか!!」

「ぬかせ!今度こそ徹底的に殺しつくしてやる!!」



******



「だから、ね……助けて、シュライバー」

「おお、おおアンナ、どうして誰が君をこんな目に」

今にも死にそうなルサルカは自己延命させる術式を使い何とか命をつないでいた。しかし、それでもそれは延命までであり、肉体を再生させることが不可能な状態であったルサルカは自己暗示をかけ目の前に現れたシュライバーを愛し、口説いて自分の工房にまで連れて行ってもらうように頼んでいた。
シュライバーはルサルカのことを愛している。少なくとも三百年近く生きていたルサルカはそう予想していたし、事実としてシュライバーはアンナが死にそうになっているのを悲しんでおり、それは成功しているかのように見えた。彼の内面を知りえなければ。

「それで、アンナ。君をこんな目に合わせたのは一体誰なんだい?僕が敵を討つから」

ルサルカに余裕があればこのときの彼の違和感に気付いただろうか?どちらにせよ既に手遅れなので詮無きことと言えるのだが。

「遊佐、司狼よ。私の聖遺物を奪って、こんな目に、合わしたの。……ねえ、もう良いでしょ。私を、奥まで、連れてって、頂戴」

「ん?君は何を勘違いしているんだい?僕は君を奥に連れて行く気は無いよ」

瞬間、ルサルカの思考が止まる。なぜ、この子は私の自己暗示に気付いたのか。それとも何か手違いでもあったというのか。止まった思考でグルグルと結論の出ない論議を繰り返す。その中で自己暗示によって造られた上辺の思考が尋ねる。

「なん、で……」

「だって僕は敵を討つんだよ。君が死ななきゃ敵を討てないじゃないか」

「そん、な、お願い、シュライ、バー……奥に連れてって、くれるだけで、いいの」

「ああ、うるさいな!!君は僕がするのは敵討ちだよ!!かーたーきーうーち!!大体、君が此処で死んでもハイドリヒ卿の一部になれるんだから問題ないじゃないか」

ルサルカはそれを聴いた瞬間、全ての思考が止まるどころか凍りついた。マテ、ナンダソレハ、ドウイウコトダ。フシニナレルノジャナイノカ。アノコワイゲイカノイチブニナルトイウノカ?

「だから殺そう。ユサシローを殺そう。僕の総てで、愛で、悲しみで、憎しみで、総てで殺そう」

駄目だ!あきらめるな意識を保て!運はまだ私を見放していないはずだ。今生きることだけを考えろ。そうでないと壊れてしまう。

「あはは、あはははははは、アハハハハハハハハ―――!いい!イイよこの感じ!こんな理由で人を殺すのは初めてだ!ああ、ああ、アンナありがとう!君の敵は必ずこの手で討ってあげるからね!アハ、アハハ、アハハハハハハハハハハ――――――ッ!!」



******


「ティトゥス、君はいつまで寝てるんだい。起きないと宿主が持たないかもしれないよ」

一人ヴィルヘルムと司狼が戦っているところから離れて観戦しているティベリウスはそう呟く。元主であるアルフレート(もっとも七人中、主と認めているのは三人だが)曰くティトゥスはバグの様な者だと言っていたが、それが関係しているのかもしれない。

「それにしても、|白化(アルベド)が現れるとは運が良いのか悪いのか」

ウォルフガング・シュライバー。聖槍十三騎士団第十二位にして|悪名高き狼(フローズヴィトニル)。少なくともティベリウスでは手も足も出ない。だが、

「あれがヴィルヘルムの邪魔をするというなら容赦はしないさ」

忠を誓った臣として、たとえあれが|狂戦士(バーサーカー)であり、勝ち目が無い戦いだとしても立ち向かわなければなるまい。そうなるというなら自身の総てを対価にしてでもヴィルヘルムを勝たしてみせる。
容赦はしない。邪魔するならどんな手を使ってでも殺す。ルサルカの内に居る者も、元主であったアルフレートを利用してでも殺して見せよう。

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