小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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第二十四話 我思う、故に我あり




前書き

ちょっとユーザページに入れなくて間が空いたけど二話連続投稿です。ご注意ください。

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―――学校校庭―――

「ハアアァァァ―――――――!!」

「何?」

火砲の直撃を受けてそれを突破した小娘(レオンハルト)を目にし、驚愕や焦りなどでは無いほどだが僅かながらの驚嘆が浮かんだ。
意外だな、全力で放ったわけではないが少なくとも手を抜いたつもりは無い。今の攻撃の直撃を受ければベイやマレウス、ブレンナーといった平団員では耐えれん代物だ。それを真っ向から打ち破り反撃の一手を放つとは。

「で、そこまでか。小娘?」

「な、そんなッ!?」

確かにそれは意外であったが、その原因を見抜いた上で言おう、甘いと。私の首に攻撃を当てたは良いが首皮一つ剥げんとはな。

「ムラが有り過ぎるのだよ。貴様がキルヒアイゼンの雷撃を使って直線に駆け抜けたのは確かに懸命だったと言える」

今の一撃は小娘自身にとっても会心の一撃だったのだろう。誰であろうとも大技を放った直後というものは隙を見せる。
そして武器には総じて適正距離が存在する。その距離より近すぎても遠すぎても本領は発揮できん。すなわち小娘の最短距離で駆け抜ける直線的な攻撃は一見下策に見えてその場で取れる最上の手だったと言えるだろう。

「故に、その点においてのみならば称賛に当たるといっても良い。私の武器は基本、遠いほどに威力を発揮するからな。だが、その後のこの攻撃……貴様、私を舐めてるのか?」

気概、勢いは十分。確かにその身の全力をぶつけたのだろう。だが足りない。魂の数も技術も経験もそういった戦いを征する為に最も重要なものが何もかも、圧倒的に足りていない。私を、ザミエル・ツェンタウアを斃すには最低限どれか一つは上回って見せるべきだ。

「結局は小娘に過ぎんか。数で負けている以上、殺意を巻き散らすのは失策だ。一点突破。それ以外の選択など小勢の貴様には有り得んよ」

「ガッァ――――――!?」

続く次弾を放ち、止まった羽虫を叩き落す。キルヒアイゼンならば粘るか、走り抜けるかしただろうに……と、そこまで考えて目の前の小娘と自分の部下を比較したことに苛立ちを感じる。

「やはり貴様にその席は似合わんよ。そこは私の部下の席だ。全く阿呆なところが似ているだけに余計苛立つ。貴様が黒円卓に名を連ねたいというのならば貴様自身の席である屍骸の席に着け」

「屍骸の席、だと……」

「ああ、貴様等の一族にはそれでも十分な栄誉だろう。何せその身を腐毒に染めるだけで貴様等一族は名誉アーリア人として認められ、さらには黒円卓に名を連ねることが出来るのだからな」

東洋人という猿が得られるには十分すぎる程の栄誉だ。少なくとも私自身はそう思っている。

「ふざ、けるな……何が、何が栄誉だ!終わった戦争に巻き込んで、過去の栄光に囚われて…勝手に自分達だけで戦争でも何でもしていろ!!兄さんを、私を…ベアトリスをそんな馬鹿げたことに付き合わせるな――――――!!!!」

その一撃は先よりも重くそして今度こそ私を驚愕させるには十分な威力を誇っていた。



*****



「―――ッ!」

怒りをぶちまけた螢の一撃は先ほどの攻撃を確実に上回るものを放っていた。ただがむしゃらに、まともな型など無く、相手の反撃なども考慮せずに。だが、それが幸を期した。櫻井螢の攻撃は今初めて通用した。

「貴様……」

その口調には怒りだけでなく幾分かの口苦さが伴っていた。切り裂いた一閃、剣が通り抜けたその身には確かに微かな傷跡が出来ている。先程の一撃を虫に止まられた程度と感じるならば今回の一撃は猫に引っかかれた程度にすぎない。だが傷を負ったという事実には変わりなかった。
さて、突然だが櫻井螢がもつ幾つかの長所、その内の一つは諦めの悪さ。これが無ければ彼女は先の一撃で一矢報いることなど当然出来無かっただろう。
そしてもう一つはその愚直さだ。彼女のそれはアルフレートすらも呆れさせる程のものであり、ある意味では現実から目を背ける逃避行動とも取れるが、それは同時に正しいと思ったことには相手の言葉であろうとも聞き入れるというある意味では素直さもあわせ持つ。
その諦めの悪さと愚直さが今の一撃を生み出した。ザミエルの忠告、少数による場合の一点突破。無意識のレベルではあったが彼女は確かにそれを聞き入れ、実行した。その結果、成果というにはおこがましいが大隊長にその剣が通用した。だが、

「ッアァアァッ―――!!」

螢が距離を取ろうとすると同時に放たれた砲撃。その一撃は螢を軽く吹き飛ばす。

「良いだろう、多少なりとも傷を負わしたのだ。貴様を一端の兵士として認めてやろう」

所詮は犬猫に引っかかれた程度に過ぎない。口苦さが混じったのは自分で言った発言を自分自身の身体で負う事になったがゆえだ。誰が部下でもない雑魚に気まぐれで教えたツケを自分自身で払うことになることを喜べるだろうか。

「クッ――痛ぅ―――」

螢がエレオノーレに勝つ要素など持ちえはしない。それは鉄砲一つで要塞を落とすに等しい所業なのだ。彼女が勝つとすればそれは第三者による手助け、それも決定的なものが必要になるだろう。

「フン、そうだな……次の一撃。それを耐えしのいで見せろ。これまでのように片手間の一撃などという恥知らずな真似はせん。何なら躱してもいいぞ。尤も躱せるような甘い一撃を放つ心算(つもり)はないがな」

事実、構え放とうとしているこの一撃は先ほどのものとは比べ物にならない。最初に放った一撃やあしらう様に放った一撃と比べ何倍もの火力の差が存在している。これでも全力でないのは事実だが櫻井螢では受け止めることも、突破することも避けることも敵わないのは一目瞭然である。

「クッ……ハアアァァァァ――――――!!!」

それでもなお剣を構え気概を見せる。足りない、まだ足りない。いくら集中しようとも限界まで力量を高めようとも足元にも及びはしない。そんなことは分かっている。だがそれで諦めれるほど螢は賢しくはない。

「さあ、見せてみるが良い。貴様が真に英雄足らんとして見せるならこれを超えて見せろ」

対するザミエルは気負いなどというものは無い。当然だ、片手間ではなくとも全力というわけでもない。適当な対応こそしないが真摯に向きあうほどの相手でもないのだから。
故に、この場においては櫻井螢の悪運は強かったというべきだろう。

「―――ん?」

ルーンの文字が他ならぬザミエル自身の手によって止められる。そして数拍遅れて螢もこの場に起きた変化を理解した。

「あ……」

巻き起こる圧倒的存在感。そしてこの場で感じられる魂の拡散。スワスチカは開き、かの黄金の獅子ラインハルト・ハイドリヒが降り立ったことを理解する。

「フム、正直ここで消し去るつもりだったが、開いたのなら話は別だ。今は命を大事にしろ。貴様は第八に捧げると、この私が決定した」

臨戦状態、それも人生で最も全力だったと断言してもいい状態だったにも関わらず有るか無しかの虚を衝かれ、目の前に立たれる。螢の肩に手を置き、挙句労いとも言えなくもない言葉を投げかける。
櫻井螢は気が付く。元来、彼女の間合いは近距離の攻防こそに長けているのだと。故に、最早この試合は勝負あった。

「寝ていろ。自殺などという詰まらんことはするなよ。私が手ずから貴様を贄にするのだからな」

「――――――くあッ!?」

この決着は引き延ばされることとなった。



******



―――独白と思考の果て―――

アルフレート・ヘルムート・ナウヨックスは己の人生が違和感で埋め尽くされていることに幼き頃から自覚していた。ドイツ帝国の一都市で生まれ大学を出て、旧知のラインハルトに呼ばれてナチス党の諜報機関であるSD(保安諜報部)に入る。そして、暗殺を行い、戦場で戦い、聖遺物に身を染める。客観的に見れば平凡とは決して言わないが圧倒的に非凡ということもありはしない。
ラインハルトに仕えながらも屈しない。あったことも無い詐欺師の政治家を親友とまで言う。よく考えずともふと過去を突き詰めれば自分の矛盾に大きく戸惑った。
誰に習った訳でもないのに魔の真髄に迫る魔導を使い、大隊長ですら屈する彼に側仕えする。誰もが嫌っている副首領と気を許すことすら容易く行う。何故?

『思えば昔から解することが出来ないものが多かった』

彼の考えている常識はこの世界(・・・・)では違和感しか感じれなかった。無知であるだけならば恥はあれど疑惑を持たない。知りもしないはずなのに知っていることが多く、未来が予知できるわけでもないのにそれが起こることを知っている(・・・・・)

例えばだ。自分の人生は1911年のドイツ国内から始まったはずなのに、イスラム繁栄の世界を、イギリスの産業革命の光景を、新大陸の発展を、中華の始皇帝の戦場を、極東の武士の生き様を、帝国の滅びの未来すらも知っている。理解ではなく知っているのだ。

『そもそも世界が変われば歴史も変わる。平行世界はそれこそ無量大数であろうとも数えきることが出来ないはずだ。にもかかわらず寸分違わず世界を知っている。だとすればこれは何だ?』

まさか本気で未来予知でもしているのか?とすら疑ってしまう。だがそれすらも違うと断じれる。未来とは定まらず行い一つで平然と変わるから未来なのだ。確定している過去とは違う。下手をせずとも平行世界と同じ数だけあるだろう。ならば過去?これもまた違う。自分は現代で生きていることを自覚し、また常に疑問視しているからだ。
「我思う―――故に我あり (コギト・エルゴ・スム)」
自己を肯定する為に最も主流の思考であり、また之すら否定するなら自分はこの世界で認めれるものは何もなくなってしまうということだ。よって過去というわけでもないのも確かだ。

『思考が自己に相反(バグ)しだしている。故にこのデータを消去、改竄する必要があると判断する。でなければ俺はこの世界に降り立つ資格を得ることが出来ない』

いや、それは否だ。もうすぐ終わる。世界に穴を穿つだけならそちら側でも出来るはず。望みは穴ではなく通路と境界線上に開く一つの部屋だ。故に己の使命は果たせる。今一度の考慮を。

『是とする。未だシステムとの乖離は修正可能域だと判断。第八のスワスチカにて座の意思をともに。その世界の裏側としてなすべきことを』




誰が誰と話しているのか。何時しかアルフレートはそのことに疑問を持つことなく他者(自己)との対話を行っていた。




******




――学校屋上―――

はじめから自己の思考の渦など無かったのごとく一瞬で思考を終えたアルフレートは半ば飾りと化している銃を持って背中を見せているヴァレリアに放った。何故、銃など使ったのか。自分でも疑問に思いながらも何となく影を使うのを避けてヴァレリアに致命的な傷を負わした。
結果、必中だったはずの槍は外れ、必殺の拳を前に何も出来ずにただ悔しさと憎しみを顕にしながらアルフレートとマキナを睨み付けそして死んでいった。

「さようなら、ヴァレリア・トリファ。君は英雄ではなかったけど讃えられるべき人間ではあったよ」

第七のスワスチカが開き、黄金の獣がここに顕現する。彼にとって忠義を誓った仕えるべき主。臣下の礼―――つまりドイツ式の敬礼―――をとり彼の訪れに内心を歓喜に震わしながらも臣としての務めを果たす。

「その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も (Dieser Mann wohnte in den Gruften, und niemand konnte ihm keine mehr, )
あらゆる総てを持ってしても繋ぎ止めることが出来ない (nicht sogar mit einer Kette,binden. )」

赤騎士(ルベド)は絶対の主が待ち望んだときを祝うために祈るように。

「彼は縛鎖を千切り 枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の主 (Er ris die Katten auseinander und brach die Eisen auf seinen Fusen. )
この世のありとあらゆるモノ総て 彼を抑える力を持たない (Niemand war stark genug, um ihn zu unterwerfen. )」

黒騎士(ニグレド)もまた例外なく主のために謳い上げる。白騎士(アルベド)が居ないからか位置こそ繰り上がるがそれで揺らぐようなものではない。

「ゆえ 神は問われた 貴様は何者か (Dann fragte ihn Jesus. Was ist Ihr Name? )」

そしてこの場において代替色である水騎士(アグレド)は高らかに我らが主こそが頂点であることを誇示するかのように謳い上げる。

「愚問なり 無知蒙昧 知らぬならば答えよう (Es ist eine dumme Frage. Ich antworte. )」

配下の忠誠を愛しみつつ、黄金の獣は無限の地獄を引き連れ、嗤った。

『我が名はレギオン (Mein Name ist Legion― )』

さあ、飲み込んでやろう、この世界を。流れ出そうこの修羅の世界(ヴァルハラ)を。

「創造―――(Briah――― )
至高天―――(Gladsheimr―――)」

『黄金冠す第五宇宙 (Gullinkambi f&uuml;nfte Weltall )』

さあ、今ここに勝利を(ジークハイル)
勝利を(ジークハイル)
我らに勝利(ジークハイル)を与えてくれ(ヴィクトーリア)

「承諾した。共に約束の時を祝おう」

「貴方だからこそ背負えるのです。この業深き定めを故に――――」

恍惚とした表情でラインハルトに付き従うアルフレート。あと一つ。たった一つの開放でこの城(グラズヘイム)は世界に流れ出す。

「果てに未知の世界を渇望する」

今ここに悪魔のような男。ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ=メフィスト・フェレスは現界した。





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後書き

ラインハルト登場!!私は総てを愛してる―――!!!
ああ、きっと早く書けたのは一番好きなラインハルトを書いてたからだ。ということは同率一位ぐらいで好きな水銀とラインハルト同時に書いてたらさらに早く書けるということか!?
よし、早く最終決戦まで書くように頑張ろう。ん、蓮炭はどのくらいかって?dies内じゃ結構低い位置だわ。

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