小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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第二話 螢ちゃんはストレスで死ぬんじゃないかと心配になる



結局あの後、色々と有ったものの後々は殺しあう仲なので一緒に居続けるのもどうかと思い別れた。そう言えばあの人形の名前を聞き忘れてたな。まあ、問題は無いか。

「それで、これからどうするおつもりで?」

螢ちゃんがそう尋ねる。そう言えば彼女が警戒する理由は今までヴァレリアが何か言ったのかと思ってたけど、よく考えるとスワスチカの関係でも有るのだろう。
スワスチカを開いた人間の手に恩恵は与えられる。つまりラインハルトの黄金練成を受けられるのはスワスチカの数だけ。そしてスワスチカの空きは残り六つでここに居るのは僕も含めると七人。つまり一人合わないことになってしまう。しかし…

「ねえ、螢ちゃん。違ってたら良いんだけど僕は別にスワスチカを開く気は無いよ」

「!?……それはどう言う事で?」

やっぱり、螢ちゃんが警戒していた理由はスワスチカの関係か…となるとヴァレリアは僕のことは今なら倒せる相手だとそそのかしたのかな?後で問い詰めないと。

「そもそも前提が違うんだよ。僕と君とでは」

「前提が違う…?」

この子は自分で考えようとしないタイプの人間だ。確か国民性ジョークで第二次大戦時の最強の軍隊を作るとしたらアメリカの総督、ドイツの将校、日本の兵士と言われてるがこの子はそれに当て嵌まってるね。何も考えずこうすれば叶うといわれたからやっている。

「ラインハルトによる黄金練成はどんな願いでも叶えてくれる。それは確かに事実だ。だけどね、僕は彼に魂を売っていないし、そもそも叶える願いの前提が破綻してる。だって彼の願いが叶うことが僕の願いでもあるんだから」

水銀の恋の応援と言うのも在るけど、それは黄金練成を使って叶えるようなものではない。だから願いを叶えるのにスワスチカを開く必要性を感じない。

「信じられないわ。それじゃあ、貴方は何のためにこんなとこまで来てるのよ…」

お、敬語じゃなくなった。そっちが素か。それにしても何のためにと言われてもね&#12316;、強いて言うならラインハルトと水銀の為。そもそもこれを言ったらおしまいだけど彼女が黄金練成を成就するのは無理があると思う。確か彼女の兄のトバルカインと彼女自身がスワスチカを開かねば彼女の望みは叶わないはずだ。しかもその上でその後の戦いも生き残らなければならない。
それはつまり五つ目が開くまでに(つまりあと三つ)二人で開いて、大隊長の内、殺人狂と彼らを気に入らなさそうな姉御に殺されない様にしなければならない。はっきり言って無理とかそういうレベルを超えてる。少なくとも今生きてる黒円卓の中で彼女は最弱に近い部類だろうしトバルカインは傀儡なのだから。

「何のためにと聞かれてもね。大層な理由なんてないよ。螢ちゃんみたいに兄が居るわけでもないし」

「ッ!?」

驚きと恐怖と焦り、4:2:4と言ったところだろうか?いや若干怒りも混じってるな。

「じゃあさ、望むならさ、手伝ってあげるよ」

悪魔の囁き。そう形容してもいいだろう。僕の依存対象はラインハルト、すなわち愛すべからざる光(メフィストフェレス)。そんな存在の影に手伝ってもらうなんて悪魔の契約より性質が悪い。自覚してるだけにそれはもう。

「ッ、結構よ!!」

そう言って彼女は僕から逃げるように立ち去る。それで良い、生き延びたいならそうすべきなのだから……



******



―――夜・諏訪原タワー―――

藤井蓮はボトムレスピットで司狼達と出会い別れた後タワーまで来ていた。

「よお、少しはやれるようになったか、ガキ」

「こんばんは、藤井君」

そして蓮は黒円卓の二人と出会い対峙していた。

「何のようだ。戦うってんなら容赦はしないぞ」

「ケッ、シュピーネ倒した位でいい気になるなよ」

「待ちなさい、ベイ。今日は話し合いに来たのよ。聖餐杯猊下が貴方に会いたがってるの。抵抗しなければこちらからは手を出さないと約束するわ」

これは譲歩でも交渉でもなく命令。断ればすぐさま二体一と言う不利な状況で倒されるだろう。だが、

「あんた等の誘いに乗る気はない。どうしても連れて行きたいなら力ずくでやってみろ!!」

「ハァッ!そうこなくっちゃな!面白くねぇ!!」

瞬間、ベイが右手を突き出し蓮に向かって動き出す。

(見える!)

ぎりぎりでそれを避けすぐさまマリィに呼びかける。そして次の瞬間には右手にギロチンを展開させ反撃を仕掛けようとすると、

「いい気にならない事ね藤井君」

淡々とした口調でされど剣戟は鋭く蓮を切り裂こうとする。とっさの回避は無理だと判断し、蓮は右手を突き出してギロチンで防ぐ。
螢の攻撃は単調でムラが無く、しかし型通り故に強力な攻撃。一方、ベイの攻撃は一撃一撃が重く故に隙もムラも多いがそれを補って余りある戦闘経験。まさに対極、だがしかし、故に対策も立てれず防御、回避、防御、防御、回避と後手に回り続け不利になる一方。
そんな状況でついにベイの一撃が蓮に当たりそうになる。回避も防御も間に合わない。くらえば致命的なのは確実。そうでなくともそこで動きが鈍ればますます不利になる。しかし一人の乱入者が蓮の危機を救った。

タァン!

一発の銃声。その銃弾はベイの頭を狙うように放たれたそれによって蓮は間一髪でベイの攻撃を回避する。

「てめぇ……」

立ち上がったヴィルヘルムからは、戦いを楽しんでいた時の薄笑いは消えていた。口調こそ静かなものの、激怒しているのは誰の目から見ても明白だった。

「クソガキがぁ……てめえよっぽど死にたいらしいな」

ヴィルヘルムが睨み付ける先、蓮の背後にいつの間にか背中を合わせ佇んでいた司狼が居た。

「お前…!」

「よぅ蓮、今のはちぃーっと危なかったんじゃねえの実際。そのへんオレに感謝の言葉とかないのかよ?」

「………」

蓮は何も言えずあきれ返っている。螢も突然現れた司狼に呆れと困惑を生み出していた。

(今日は厄日なんだろうか…)

半ば真剣に御祓いにでも行こうかと思う螢を無視して話は進む。

「まぁ、何はともあれこれで二対二って訳だ」

「馬鹿司狼!とっとと帰れ!!」

「嫌だね、オレが動くのをお前に止められる覚えはねえよ」

「おいクソガキ、何一人でラリってるんだよ」

「うるせえ、黙れ」

ヴィルヘルムが司狼に文句を言ったその瞬間、司狼は銃をヴィルヘルムに向け三発。問答無用とばかりに撃ち付ける。しかし、

「……おい、進歩のねえガキだな、お前も」

呆れと言うより、鬱陶しいといった風情で撃たれた弾丸を胸から取っ払う。当然だろう聖遺物を持つ相手に銃弾なんて効きはしない。

「一緒に戦ってくれなんて頼んでない。悪いことは言わないから早く逃げろよ!」

「全く、話聞けよ。お前は優等生同士、オレはチンピラ同士……おまえ、女丸め込むの得意だろ?二対二で丁度いいだろ。オレはあいつで、お前はあの嬢ちゃんとだ」

「でも司狼。お前じゃあいつ等には何があっても勝てない。いいからさっさと…」

「もう遅いぜ。今更逃がすとでも思ってんのか、これも前に言ったよなぁ―――」

一呼吸置きヴィルヘルムは呟く。

「俺を攻撃した以上、次なんかねえ」

賽は投げられた。この状況下で二対二の戦いになることは既に決まっている。
蓮と司狼はどちらか一人を二対一で即座に倒すか、一対一で片方が片方を倒すことである。

「フォローなんか期待するなよ」

「そりゃオレの台詞だっつの。喧嘩のケリは、どっちがこれに生き残るかで着けようや」

まるでどちらかが死ぬかのような言い草。それに蓮は顔をしかめる。

「じゃあテメエらよ……揃って死ね」

ヴィルヘルムが何かを投擲する。そして、常人でしかない司狼にそれを避ける手段は無いはずだった。

「舐めすぎだろ、お前」

しかし、司狼はそれを苦もなく反応し回避していた。それどころかヴィルヘルムの米神に銃を突きつけトリガーを引く。
その瞬間、場の空気は凍った。さっきまで場違いな闖入者でしかなかった司狼がこの場で一番異彩を放つものとなる。デザートイーグルの連射を受け、ダメージこそ無いが数歩後ろに下がったヴィルヘルムはサングラスが砕かれその素顔が晒される。そして無表情に呟く。

「レオン、気が変わった。そっちのガキはお前がやれ」

「そう言う事だ、蓮。気にするな、こっちも気にしないから」

「……分かった」

蓮は螢と、司狼はヴィルヘルムと図らずもその形で戦うことになった四人、ここから本格的な戦いの火蓋は切って落とされる。

-4-
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