小説『とある剣帝の無限倉庫』
作者:マタドガス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

魔術師は淡々と話し掛けてきた。その表情には人を殺そうとしているのに、焦りもない。むしろ皮肉な笑みを浮かべている。やはりこの男は人殺しに慣れている、いわゆるプロなのだろうと龍哉は確信した。


「じゃあ俺を殺す前に冥土の土産に教えてやる。その部屋を爆破しようとしていたのなら辞めておけ。インデックスも死ぬぞ」

すると魔術師は鼻で笑い龍哉に言葉を返す。キザな野郎だ。


「その心配はないよ。何せあれは『歩く教会』を身に纏っているからね。あれからも聞いたかもしれないけど、『歩く教会』は絶対防御として知られるからね。聖ジョージのドラゴンでも再来しない限り、法王級の結界が破られるはずがないのさ」


相変わらずの皮肉な笑みで魔術師は話す。
そして龍哉は魔術師がインデックスを物扱いした事に腹がたったが、なんとか怒りを溜め込み話す。

「それじゃあ言うがお前はあのまま部屋を爆破していたら、お前の首が跳んでいたよ。何せインデックスの『歩く教会』の効力は俺の相棒が打ち消しちまったからな」


 魔術師から余裕の笑みが消えた。そして新たに『不安』という感情が魔術師の頭にこみあがる。
明らかに目の前の少年が言っている事はハッタリだとは思うが、だからといってハッタリだという確かな証拠もない。
だから魔術師はある思考に辿り着く。なに、簡単な事だ。そう、ようするに目の前のハッタリ噛ましている餓鬼を殺せばいいのだ。 今インデックスは目の前の餓鬼の相棒だとかいう奴の部屋の中。まさに袋のネズミだ。なので、目の前の餓鬼を殺して部屋の中にいるインデックスを回収すればそれで終了。
魔術師はすぐさまその思考を行動に移す。


「ま、いいさ。どのみち君を殺して彼女を回収すればいいんだからね。なに、安心しなよ。僕達は彼女を『保護』しに来たのさ」


「…は? ほ…ご……だと?」


龍哉は愕然とした。今目の前にいる奴は今なんて言った?


「そうだよ、そうさ。保護だよ保護。君を彼女から聞いたと思うけど、アレの中にある10万3000冊は少々危険な代物なんだ。だから、『使える連中』に連れ去られる前にこうして僕達が保護しにやってきた、って訳さ。さ、て。もう会話は済んだろう?」


龍哉は考える。インデックスは、ものすごく震えていた。しかも1年前から先の記憶もない彼女を奴らは何度も襲った。彼女の心をぐちゃぐちゃにする程にだ。そんな奴らが保護だと? 目の前の男はそれが正しいと、何の罪もない女の子を襲う事が『正義』だと。



                     ふざけるな。



龍哉は魔術師の問い掛けに怒りを込み上げながら答える。


「ああ、そうだな。もうお前と会話なんてする必要はない。正直、 ブチ切れたッッ!!」


そう龍哉は魔術師に吐き捨て、魔術師に向かって走り出す。


「ステイル=マグヌスと名乗りたい所だけど、ここはFortis931と言っておこうかな」


なのに、魔術師は口の端を歪めて煙草を揺らしているだけだった。
口の中で何かを呟いた後、まるで自慢の黒猫でも紹介するように龍哉に告げる。


「魔法名だよ、聞き慣れないかな? 僕達魔術師って生き物は、何でも魔術を使う時には真名を名乗ってはいけないそうだ。古い因習だから僕には理解ができないんだけどね」


両者の距離は十五メートル。
龍哉はその距離を徐々に埋めていく。


「Fortis−−−日本語では強者と言った所か。ま、語源はどうだって良い。重要なのはこの名を名乗りあげた事でね、僕達の間では、魔術を使う魔法名というよりも、むしろ−−−」


龍哉はさらに魔術師との距離をいきよいよく詰める。
それでも魔術師は笑みを崩さない。龍哉では笑みを消す相手にもならないとでも言うように。


「−−−−殺し名、かな?」


魔術師、ステイル=マグヌスは口の中煙草を手に取ると、指で弾いて横合いへと投げ捨てた。
火のついた煙草は水平に飛んで、金属の手すりを越え、隣のビルの壁に当たる。
オレンジ色の軌跡が残像のように煙草の後を追い、壁に当たって火の粉を散らす。


「炎よ−−」


ステイルが呟いた瞬間、オレンジの軌跡が轟! と爆発した。
まるで消火ホースの中にガソリンを詰めて噴いたように、一直線に炎の剣が生み出される。
ジリジリと、写真をライターで炙るように塗装が変色していく。
龍哉はその光景を見て、直感的に危険を感じ、足の動きを止め、イマジンブレードをだして構える。


「−−−巨人に苦痛の贈り物を」


 だがステイルはそれにも気にせず笑いながら灼熱の炎剣を横殴りに神凪龍哉へ叩き付けた。
それは触れた瞬間にカタチを失い、まるで火山の奔流のように辺り構わず全てを爆破した。


-17-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




とある魔術と科学の群奏活劇(初回限定生産版)
新品 \6460
中古 \5660
(参考価格:\9980)