小説『とある剣帝の無限倉庫』
作者:マタドガス()

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熱波と閃光と爆音と黒煙が吹き荒れる。


「やりすぎたか、な?」


まさしく爆弾による爆破事件を前に、ステイルはぼりぼりと頭を掻いた。一応、辺り一帯の人の出入りはチェックしている。夏休み初日の男子寮という事でほとんどの住人は外に出払っていた。だが、今燃やした少年の連れが来ると厄介な事になる。何せ、もしかしたらその連れはあの『歩く教会』をも突破する程の力をもっている可能性があるからである。まあ到底ありえない話だが。

 ステイルはやれやれと首を振りながら、もう一度だけ煙の中を透かし見るように、言った。


「ご苦労様、お疲れ様、残念だったね。ま、そんな程度じゃ1000回やっても勝てないって事だよ」


「んなワケねぇだろ馬鹿」


ギクリ、と。炎の地獄から聞こえてきた声に、魔術師の動きが一瞬で凍結する。
轟! と辺り一面の火炎と黒煙が渦を巻いて吹き飛ばされた。
まるで、火炎と黒煙の中央でいきなり現れた竜巻が全てを吹き飛ばすように。 神凪 龍哉はそこにいた。
飴細工のように金属の手すりはひしゃげ、床や壁の塗装はめくれ上がり、蛍光灯は高熱で溶けて滴り落ち---そんな炎と灼熱の地獄の中、傷一つなく少年はそこに佇んでいた。
吹き飛ばされた深紅の火炎は、完全には消滅しない。
まるで龍哉を取り囲むように、綺麗な円を描いて燃え続けている、が。


「邪魔だぜ」


一言。摂氏3000度の魔術の炎に龍哉のイマジンブレードが触れた瞬間、全ての炎が同時に消しとんだ。



  ---なん、だと!?

ステイルの表情に驚愕が浮かぶ。


「----世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」


ステイルの全身から嫌な汗が噴き出した。目の前の少年は一体何をしたのだ? ステイルに二つの疑問が浮かび上がる。まず、なぜ摂氏3000度もの炎があんな剣、いや、あれは剣というより刀だ。あの刀が炎に触れただけで消えたのだ。さらにもう一つ。一体あの少年はどこからあんな刀を出したのか、だ。目の前の少年は刀どころか、何も持っていなかったはず。なのになぜあの刀が突然出て来たのか。ステイルにはわからなかった。
だが、考えても良い名案は浮かばないと判断し、ステイルは『最後の切り札』を使う。


「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。
それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。
その名は炎、その役は剣。
顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ----------------ッ!」


ステイルの修道服の胸元が大きく膨らんだ瞬間、内側から巨大な炎の塊が飛びだした。
それはただの炎の塊ではなかった。
深紅に盛る炎の中で、重油のような黒くドロドロしたモノが『芯』になっている。それは人間のカタチをしていた。タンカーが海で事故を起こした時、海鳥が真っ黒な重油でドロドロに汚れたような--そんなイメージを植え付けるモノが、永遠に燃え続けている。


「その名は『魔女狩りの王』(イノケンティウス)その意味は---」


炎の巨人は両手を上げて、砲弾のように龍哉に襲い掛かる。


「--必ず殺す」


「やたら派手な炎だな、だが---邪魔だな」


ズバァッ! と。龍哉はイマジンブレードを横に振り、ステイルの最後の切り札を吹き飛ばした。

まるで水風船で刺したように、炎の巨神を象る重油の人型は、飛沫となって辺り一面に飛び散った。


「・・・、ッ!!?」


その時本能が導いたのか、龍哉は咄嗟に後ろに数歩下がった。
するとビュルン!! と粘性の液体が飛び跳ねる音が四方八方から響き渡る。


「・・・・て、あぶねぇ!」


龍哉がさらに一歩後ろへ下がった瞬間、四方八方から戻ってきた黒い飛沫が空中で寄り集まり、再び人のカタチを作り上げた。
あのまま進んでいれば、間違いなく四方八方から襲いかかる炎の中へ取り込まれていた。
ステイルが語りかけるように話す。


「無駄さ。イノケンティウスは本体を消さないかぎり何度でも蘇る。言っただろう? 必ず殺すと」


ステイルに余裕の笑みが戻るが、


「じゃあ動きを封じればいいんだな?」


そう龍哉はこの時ある作を思いついた。


(初めてだけど、イマジンブレードも効かない今。やるしかないぜ!)


そして龍哉はイマジンブレードをしまい、新たな武器を出す。その武器は、イマジンブレードよりも少し長い日本刀。

そして龍哉さ呟く。


「霜天に坐せ、---------氷輪丸」


そう呟くと日本刀---もとい、氷輪丸の見た目が変化して、柄尾の部分から紐をとうして、三日月の紋章のようなものがつけられていた。
そして龍哉は更に言葉を続けた。


「卍・・・解ッ!!」



ステイルは勝利を確信していた。ステイルは一人で魔術結社を壊滅させたこともあるぐらいの天才だ。
しかしそんなステイルが驚愕の表情を浮かべた。


「な……ん…だ、あ…れは」


ステイルが見ているのは学生寮の上空。そこには現在ステイルが戦っている少年? がいた。
しかし、外見は大きく変わり、右手に持っている日本刀、そしてその右腕に覆い隠すような氷、よく見ると左手や背中にも氷の鎧のような物が纏ってある。そして、背中から生えた一対の巨大な氷の翼。
その姿を例えるならば美しき氷の竜。
さらに龍哉がいる位置はイノケンティウスの丁度真上。


「これが俺の・大紅蓮氷輪丸・・。いくぜッ!!」


龍哉が叫んだ瞬間、真下にいるイノケンティウスに向かって急降下した。
龍哉の姿に見とれていたステイルも我に戻り、龍哉に対抗する。


「魔女狩りの王!!」


ステイルがイノケンティウスに呼びかけると、炎の巨神は近くの鉄製の柵をつかみむりやりその柵をひきちぎり、それを龍哉に投げ付ける。
しかしそれも虚しく、龍哉の大紅蓮氷輪丸に柵が触れた瞬間、一瞬で凍結して地上に落下する。
龍哉とイノケンティウスの距離は3メートルもない。


「うおぉぉぉォォォォ!!」


龍哉は急降下の勢いで、勢いよくイノケンティウスを真っ二つに切り裂いた。ズバァァァァァァァ! と勢いの良音が響き渡る。

 そして魔女狩りの王は氷結し、ただの氷の塊となった。


「バ……カ…な…イノケンティウス! イノケンティウス!!」


しかしステイルがいくら叫んでも魔女狩りの王は動かない。
そして龍哉はトドメにもう一つの武器を出す。それは、龍哉が設計したぼかりの新武器、


「---座標攻撃!! (ポイントアタッカー)」


そして龍哉はそれを思い切り左から右に振った。
その瞬間、ステイルが右に吹き飛び、そのまま寮の壁に激突して気絶した。


こうして剣帝と炎の魔術師との戦いは幕を閉じた……。




                                  〜To Be continued・・・

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