「………ああ、魔術師に襲われた」
龍哉からその台詞を言われて、数秒間だったはずの時間が、倍以上に長く感じた、それほどショックが大きかったのだ。
「………ッ! インデックスはどうなったんだ!?」
当麻は焦った様子で龍哉に問い詰めるが、龍哉は真剣な表情を少し緩め、
「ああ! 心配すんな。部屋に何人足りともいれてねぇよ」
俺がその言葉を口にすると、当麻はホッとしたように胸を撫で下ろした。……だが、残念な事に事はいい方向に進んだ訳ではない。
龍哉は少し間を置いたあと、顔を少しうつむかせ、
「……だけど、魔術師を逃がしちまった……本当に悪かった……」
今回は何とかなったが、相手に龍哉の存在が知られてしまった為事態はプラマイゼロどころか、マイナスに進んでいるのだ。だからこれは自分のせいなのだと龍哉は感じていたのだ。
だが、
「な〜に言ってんだよ! お前はインデックスに怪我をさせずに魔術師を追っ払ったんだろ? 龍哉が謝る理由なんかないって! てかやっぱお前はホントにスゲエよなあ」
尚目の前の親友は笑顔でそう返した。……やれやれ。やっぱりお前は優し過ぎるぜ当麻。……けど、
「ありがとうな、親友」
お前は俺なんかよりよっぽど強いんだぜ?
「? よくわかんねぇけど、魔術師だろうがペテン師だろうが俺達ならどうにかなるよな!」
……やっぱりお前は強いな。そうだよな……一人でなんでも背負い込む必要はないよな。 何せ俺には頼りになる親友がいるんだからな! 迷っちまうところだった。そうだよ。俺は決意したんじゃねぇか。
龍哉は再び魔術師を倒す決意をした。自分の周りの世界を守る為に。
ここはとあるビルの屋上。そこは真っ平な平面で、水を下へ供給するタンクがいくつかあり、ここから中の各地の水道に送られているようだ。
そのタンクの前にある僅かな段差に腰をかける一人の女性がいた。その女はTシャツに片脚だけ大胆に切ったジーンズといういかにも派手な格好で、異常なのが腰から拳銃のようにぶら下げた長さ二メートル以上の日本刀。これが彼女の不気味さを更に引き立てている。
その女は当たり一面が暗闇の中で手に持っているケータイに向かって口をこぼす。
「………様々な武器を使用する能力を持つ少年、ですか」
そうすると、彼女のケータイから男の声が響いた。声からするに未成年の少年のようだ。
『ああ、それもただの武器じゃない。奴の使う武器のひとつひとつが何か特殊な『異能』を持っていた。それもドラゴンのような姿に変化したりね……正直、アレが夢だったのかという疑問さえ覚える・・・』
その会話の奥で少年が忌ま忌ましそうに唇を噛むのが『通信』ごしの女にもわかった。
「……とにかく、その少年を何とかしなければなりませんね」
『ああ、だがあいつは一筋縄ではいかないよ……こっちの世界のことはわからないが、恐らく最上級の能力であることは何となくわかる。……それに低レベルの能力で僕の魔女狩りの王を止められとも到底思えないしね』
通信ごしから轟! という音が聞こえた。女にとってそれは少年が煙草に火をつけた事だということは一々がんがえなくても解ることだ。それだけ二人が共にいる時間は長い。
女は表情を変えず冷静に言葉を紡いでゆく。
「解りました。まだ『時間』はあります。その少年については私の方で調べておきますので、あなたは私からの連絡があるまで待機していて下さい」
『………承知した』
「・・・一つ聞いてもいいですか?」
『? なんだい? ・・・もしかしてそれは『彼女のことかい』?』
女の電話越しの赤髪の少年はタバコで一服しながら言う。
「・・ええ」
『もしかして・・今になって彼女に危害を加えるかもしれない可能性が怖くなったのかい? なら、そんな感情は捨てろと言いたいね。僕らは組織の人間だ。ならば上の命令に従わなければいけないのは当然だ。そんな事はわかりきったことだろう』
「そうです。そして彼女の『死』の時間が刻々と迫っていることも、頭では・・わかって、いるんですよそんなことは・・」
女はケータイを持っていない腕を震わせて唇を噛む。そう、もう彼女達には時間がない。しかし方法が一つしか思いつかない。そしてその方法とは・・
「彼女の『記憶』を消さないといけないという事なんて・・・」
『そうだ。僕らは彼女にとっては悪。そう、親友や恋人なんて暖かい関係じゃない、クズとも言えるかもしれないね』
少年はそう冷静に思考する。自分でも冷静さを保ててる事が不思議なくらいに。
「もう正直、自分がわからなくなりそうです。一体こんな事をして何になるのか、もう『だが僕らにはこれしか彼女を救う方法がない』・・・」
『それに決めただろ? 彼女のためならどんな事でもする。彼女に害をなすものは何であろうと・・・・殺す』
「・・・そう、ですよね。今更あとには引けない。彼女を救う志。それを忘れたいました・・・ありがとうございます、ステイル」
そう言われて電話越しの少年---もといステイル=マグヌスは一瞬だが、タバコを咥えた口に笑みを浮かべた。
『僕はただ本心をいっただけさ。それじゃあ、また何かあったら連絡するから、いつでも電話に出られるようにしとけよ? あと、またケータイ壊すなよ』
「ええ、気をつけます、では」
そうして二人はお互いに通信を切った。彼女はケータイを慎重に扱いながらをジーンズのポケットに仕舞う。
「………さて、」
女は立ち上がる。
「私も動かなくては」
その瞳は100m先の学生寮を見据えながら。
「………もう少しです」
彼女はその何十メートルもあるフェンスのないビルの屋上から飛び降りた。
とある少年達がたった一人の少女を守る為に闘うように、彼女達にもまた、闘う理由があるのだ。そう、自分の親愛なる親友の為に……。
〜To be continued・・・