小説『真剣で私たちに恋しなさい! 〜難攻不落・みやこおとし〜』
作者:黒亜()

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河原で京は佇んでいた。
あのときの言葉を思い出す。

“流川海斗みたいな人気者と友達になって許せない”

何が迷惑をかけたくないからなんだろう。
自分が友達になることでもう既に迷惑をかけていた。
あんなに自分のことで一生懸命になってくれた海斗に。
一緒にいることは許されなかったのだ。

そう思うと、どうしようもなく悲しくて。
内側から溢れ出す熱い雫を止められなかった。

小学校のとき、いじめられていたのは確かに辛かった。
もう二度と味わいたくない、人生で最悪の時期。
救ってもらわなければ壊れてしまっていた。

けれど、そのときよりも今は悲しかった。
もう仲間が出来て、ずっと幸せなはずなのにあの言葉1つが、一緒にいること
を許されていないという事実だけがどうしようもなく深く切ない。
独りだったときには分からなかった苦しみ。

どれだけ自分の中で海斗の存在が大きくなってたかを実感させられる。
教室で顔を合わせる程度の関係に戻るだけ。
ほんの少しだけ前の日常だ。
それなのに……


「……っ。」


もう流し続けるしかなかった。
前に河原で言ってくれた言葉も、さっきの自分のために叫んでくれた言葉も、
どれも凄く嬉しかった。
しかし、それを全部押しつぶすくらいに悲しい。
楽しい思い出を思い出せば思い出すほど今が辛かった。

こんなにも海斗でいっぱいになる。
私はもう……


「京……。」


見つけた。
京は前にソフトクリームを一緒に食べた河原で立ち尽くしていた。
表情が見えなくても、手に取るように分かった。


「海斗、来たの?…言っておくけど、ソフトクリームは奢ってあげないよ。あ
れは一回きりだから。」


あちらを向いたまま、無理してそんなことを言う。
声の震えを必死に抑えてまで、俺に心配をかけまいとする。
その頼りない背中がもう今にも壊れてしまいそうで……


「京!」

「っ!海斗!?」


気がついたときには思い切り抱きしめていた。
頭を抱えて、俺の気持ちのままに行動する。


「京が今何思ってんのかは知らねぇけど、これだけは言わせてくれ。京は優し
すぎて色々考えてくれるかもしれない。けど、俺はどんなこと言われようが、
まわりからどう思われようが、京に側にいてほしい。」

「……っ…ぅ…!」


突然、どん!と京に胸を押されて突き飛ばされる。
そのまま拘束から逃れると走って離れていってしまった。


「何やってんだ、俺。」


本能的なものだったとはいえ、京をさらに傷つけてしまったかもしれない。
そんな反省と後悔の気持ちが残った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―大和の部屋


「大和!」

「だから、ノックしろっていつも言って……どうした?」


大和は叱ろうとして、京の異常な様子に気づいた。
いきなり帰ってきたと思ったら、すぐにこれだ。
持っていた携帯を置いて、とりあえず話を聞こうとする。

すると、また予想外の行動に出た。
唐突にその場で土下座を繰り出したのだ。


「おい、本当にどうしたんだ。京?」

「……私、海斗のこと好きになってしまった。」

「はぁっ!?真剣で!?告白とかしたの!?」

「いや、一番に大和に伝えるのが礼儀だと思ったから、まだだけど。」

「そっか、なんていうかおめでとうかな?俺が最初に聞いたっていうのは複雑
すぎるけど。」

「私のけじめだから。」

「しかし、まさか京が本当に恋をするとは…。」

「今になって、私のこと手放したくなくなった?」

「いや、それはないけど。」

「なんと……押して駄目なら引いてみろ作戦だったのに。」

「嘘つけ、本気で好きなんだろ。」

「バレた?」

「京が冗談でも俺以外の奴が好きだなんて言ったことないからな。」

「さすが、大和もよく分かってる。」


それは言外に海斗も自分のことをよく分かってくれているという信頼が見てと
れた。
本当に見つけられたんだと分かる。


「でもいいのか?あいつを狙うとなると、相当ライバル多いぞ。」

「ククク、私のしつこさは大和が一番知ってるはず。」

「確かにな。やるからには勝ち取れよ。」

「モチロン。」


大和はファミリー皆を平等に応援する立場だが、今このときくらいは京だけの
味方でもいいと思った。


「けど、今でも大和のことは大好きだよ。」

「ああ、俺も京のこと大好きだ。」

「「お友達として。」」


お互いに顔を見合わせて、笑顔になる。
長く長く過ごしてきたなかで築かれた絆。
そう簡単に変わることはなさそうだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「はぁー。」


そりゃ溜息も出る。
どんな顔して京に会えばいいんだっていう話だ。
大和が好きってあんだけ聞いてて、あれは流石にないよな。


「海斗。」


前方から聞こえたのは確かに俺の名を呼ぶ声。
しかも、京のものだった。


「あっと…昨日は、その…」

「海斗、結婚して!」

「へ?」

「昨日、一生側にいろって言ってくれたよね。それってつまり妻になれってこ
とでしょ。」

「いや、なんかちょっと改変されてるし。ていうか、怒ってないわけ?」

「いいんだよ、もう私は海斗にメロメロなんだから。」

「なんか微妙に話が通じてねぇ!」


そんな調子で歩いていると…


「海斗ー、待ってたの。一緒に行きましょ…って、なんで京がいるの?しかも
腕組んでるし。」

「ククク、これからは私もワン子の敵。」

「え?それってもしかして…」

「海斗ー、自分と一緒に登校しよう。あれ、京?」

「海斗さん、もしかしてこれは。」

「おいおい、ヤベーぜ。こりゃ遂に京も海斗におとされちまったのかYO!!
いくらなんでもモテすぎだろ!」

「クリスにまゆっち。二人もこれからはライバルだね。」

「何!?ということはやはり…!」

「オラの存在は普通にスルー、切ねぇぇぇ。」

「ククク、私に愛で勝てる者はいない。」

「そんなことないわ!アタシだって海斗のことなら負けないんだから。」

「それは自分とて同じこと!」

「わ、私も他の方には負けません!」

「望むところ。私は狙った的は外さない。」


結局のところ、どうやら戦いにもう一人参戦者が増えるらしかった。
これからもさらに大変なことになりそうだ。
ただ……


「「「海斗!」」」
「海斗さん!」

「ああ。」


―退屈とは無縁な楽しい世界だ。

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