小説『真剣で私たちに恋しなさい! 〜難攻不落・みやこおとし〜』
作者:黒亜()

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事件の次の日。

あんなことを言った手前、ちょっとやそっとのことで動じる訳にはいかない。
その度に海斗に心配をさせているようでは駄目だと考えた京は今日は覚悟をし
てから、靴箱に手をかけた。
画鋲、カードときたいたずら。
今度は落書きでもしてあるのだろうか。


「ん?」


しかし、何故か今日は何の異変もなかった。
中を見ても自分のいつも使っている上履き以外に何かイレギュラーなものが入
ってるような感じもない。
どういうことだと不信感を覚えつつも、上履きを手に取った。
と、そこで初めて触って気づいた。

若干湿っているのだ。
とはいっても、いたずらで水をかけられたとかではない。
それならもっと派手にびしょ濡れになっているはずだろう。
そういうんではなく、洗濯物が乾ききっていない湿り気。
そして、ほのかに洗剤の匂いが漂ってきた。


「これって……!」


京はある1つの答えに辿り着くと全速力で走り出した。
目指すそこは自分の教室2−F。
もしも予想が正しければ…。
ガラガラと勢い良くドアを開ける。


「おう、おはよう。」


そこには海斗が既に席について、本を読んでいた。


「海斗、今日は早いね。」

「読みたい本があったからさ。」


そう、まだ登校には早い時間。
京は他のメンバーにばれないようにこんなに早くに来ておいたのだ。
それを示すように海斗のほかにはクラスに誰もいない。
いつもなら海斗だってもっと遅くに来るはずなのに。
今日に限って読みたい本があるから早く来たらしい。


「なんか私の上履きから洗剤の匂いがするんだけど。」

「京みたいな女の子って、やっぱ足くさくないんだな。」

「いや、くさくないとかいうレベルじゃないでしょ。……海斗、今日は私の上
履きにどんなことされてたの?」


ごまかし続ける海斗に京が言う。

結局そういうことだ。
犯人を捜しだそうとするのをやめてと頼んだ。
だから、いじめ自体のほうをどうにかしようとしたのだ。

本人が見る前にそれをなかったことにしてしまう。
今日はなにかしら汚されていたのだろうが、それを海斗は京よりもずっと早い
時間に来て、綺麗にしたのだ。


「知るかよ。人の靴箱を物色するなんて、俺は変態か。」


どこまでも海斗らしいやり方だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―放課後
海斗はすぐに教室を出ていった。
京も予想していたので、すぐに後を追う。
朝はまだ分かるが、放課後も同じやり方とは無茶苦茶だ。


「どういうことだ?」


しかし、追いついた京が見たのは靴箱の前で眉をひそめる海斗だった。
京が横から割り込み、中を覗き込むとそこには何もなかった。
いや、上履きはちゃんとあるのだが。
異変が始まる前の普通の状態に戻ったようだ。


(いきなり何故止まる?あまりにも不自然すぎる。)


その予感は的中する。
3人の男子生徒が近づいてきた。


「おいおい、こんなとこにインバイがいるぜ。」

「椎名菌が空気感染しちまうよ。」


いたずらをやめた理由が分かった。
直接攻撃に切り替えてきたのだ。


「てめぇら…!」

「待って、海斗。私なら平気だから。友達に迷惑はかけたくない。」

「悪いけど、もう聞けない。本当に友達が困ってるときに助けられないような
そんな形だけの関係でいるつもりはない。」


海斗はそう言って、相手の一人の胸倉を掴む。


「手を出そうってか?」

「とりあえずここじゃ目立つ。そこの二人も大人しくついてこい。」

「待って、海斗。」


海斗は空き教室に3人を連れていった。
それを京が追っていく。
男たちは追い詰められているのにも関わらず、余裕そうにへらへらしていた。


「ここならまず人目につかないだろ。」

「それで殴るのか?」

「まあ、殴られても文句が言えない立場ではあるよな。」

「ははは、俺らの後ろには綾小路先生がついてんだぜ?」

「あ?」

「ほっほ、その通りじゃ。こちらには名家の麻呂がついているでおじゃる。」


いきなり入ってくるパンダみたいな顔の奴。
これで教師かという顔だった。


「だから、いきなり強気で出てきたってわけか。バックアップが出来たから、
正体を明かすとか馬鹿か。」

「お前は綾小路先生の恐ろしさを知らないだろ。」

「その通り!麻呂にかかればお主の人生など簡単に終わらせることが出来るの
でおじゃる。それが麻呂に許された力。」

「教師がこんなことしていいのかよ。」

「麻呂はただ皆が通う学校に汚らわしいインバイが出入りするのを止めてやろ
うとしてるだけでおじゃる。それに麻呂の家は名家ゆえ、どんなことをしても
それが正義!」

「なるほど、それでお前は罰せられないと思ってるわけか。」

「そうじゃ、麻呂に危害を加えれば路頭に迷うことになるぞよ。それが嫌なら
そんなゴミの味方をするのはやめて……」

「黙れよ。」


海斗は思い切り麻呂の顔面を殴り飛ばした。
その体は吹っ飛び、壁に叩きつけられる。
そのまま気絶してしまった。


「海斗!」

「お前…、自分が何したか分かってんのか?」

「生憎と俺は路頭に迷うくらい怖くも何ともねぇからよ。そんなんで大切な友
達をけなされて、拳を躊躇う理由にはなんねぇんだよ。」

「さて、てめぇら…。」

「「「ひっ!」」」


3人は肩を震わせる。
次は自分達がああいう目にあうのかと思えば、当然だった。


「俺はムカつけば、教師を殴るそんな最低な奴だ。けど、京は違う!親が何し
てようが関係ねぇ。京を悪く言うくらいなら、その前に俺みたいな糞野郎に嫌
がらせしやがれ。京は1人の一生懸命な女の子なんだよ!」

「……海斗。」

「それが分からないようならお前らもあの教師と同じようになるけど、そのう
えで最後のチャンスだ、どうする?」

「「「わ、分かりました!」」」


必死に何回も頷く3人。


「今度同じことしたら、そのときは容赦なく潰すってこと覚えとけ。」

「すみませんでした!だって、イジめられてたくせに流川海斗みたいな人気者
と友達になってんのが許せなかったっていうか。そうしたら、マロがどんどん
やれってけしかけてきて……」

「っ!」

「あ、おい!京!」


その言葉を聞いて、京は部屋を飛び出してしまった。


「ちっ、最後に余計なこと言ってくれたな…!」

「え、またなんか悪いことを…」

「とにかく二度とこういうことをしないって約束できるんだったら、今回のこ
とは見逃してやる。」


俺は京の気を追って、走り出した。

“私も昔いじめられて独りぼっちだったことがあるの。”

俺に過去をさらけ出してくれた京。
辛いだろうに包み隠さず話してくれた。
もうあんな顔はさせたくない……!

-9-
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