小説『真剣で私たちに恋しなさい! 〜難攻不落・みやこおとし〜』
作者:黒亜()

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「…………。」

「大和は大丈夫だ。人を呼んで安全なとこに運んでもらった。外傷は全部治し
といたし、すぐに目覚める。流石に意識まで戻すことはできねぇからさ。」


大した怪我もなく、歩くことに問題がない京と海斗は並んで歩いていた。
というのも、隣にというわけではなく一定の距離が空いている。
とりあえず海斗は京を寮まで送り届けるつもりだった。
さっきまで捕まっていた京としては何の反論も出来ず、まあそれ以前に反抗す
る元気すらなかったという方が正しいが。


「私のせいで大和が……。」

「違うって。あいつらは無差別に一般市民を狩ろうとしていた。たまたま不運
で遭遇したってだけだ。誰のせいでもねぇよ。それどころかお前が相手に気を
使わせてくれたんだろ?そのおかげで俺は辿り着けた。漠然とした嫌な予感は
してたけど、場所を特定できたのは他でもないお前のおかげだ。逆に大和のピ
ンチを救ったくらいだろ。」

「……どうして助けに。」

「…どうしてって言われてもな。元々あいつらが来たのも俺の責任かもしれな
いっていうのはあるが、やっぱ俺がそうしたかったからだろうな。」

「…………。」


どう考えても今回のことは海斗の責任ではない。
そのことは京も分かっていた。
相手の男たちは海斗に私怨があったわけでもないし、何より目的は小遣い稼ぎ
だと本人たちが言っていた。
その標的にたまたま選ばれてしまった。
海斗と関わっていることは全くの無関係だ。


「なんで俺がそうしたかったか腑に落ちないって顔だな。」

「ワン子とかを助けるのはまだ分かるけど。私たちには助けられる理由が見当
たらない。」

「俺が常夜にずっといたってのは知ってるだろ?」


いきなり話題を変えて、過去のことを話し始めた海斗。
京は少し驚きつつも頷き、続きに耳を傾ける。


「あっちの世界ってのはそもそもこっちとは何もかもが違って、ろくなとこで
はないんだけど、生きるために同志を見つけて協力するくらいのコミュニティ
はあったんだよ。ちょうど今日の3人みたいにな。」


今日の3人。
仲良しこよしってわけではない。
けれど、あれがあちらの世界での仲間なのだ。


「けど、俺は仲間なんていなかった。」

「…ぇ?」

「聞いただろ。俺は“死に神”って呼ばれて、恐れられ、嫌われ、恨まれ、避
けられてたんだ。暗い世界で独りきり。たまに会いに来る奴は全員俺の命を狙
ってた。気がおかしくならなかったのが不思議だよな。ま、だから俺にとって
は独りでいることが普通だった。」

「……独りで。」


京もかつて独りだった。
周りの者にいじめられて、どうしようもなく悲しい日々を送っていた。
しかし、彼女には救世主がいた。
だから、今は普通に生活できている自分がいる。


(私は大和たちと出会えたけど、あっちは……。)


今でもあのとき助けがなかったら。
自分がいじめられたままだったらと怖くなる。
独りきりだったら、壊れてしまっていただろう。

目の前の男、流川海斗は今までずっと孤独だった。
誰も助けてくれない。
何も悪いことはしていないのに。
それはどれだけ辛いことなのだろう。


「けど、そんな俺の秘密を知ってなお、ファミリーの奴らは軽蔑することなん
てなかった。お前も言ってくれただろ。“正直、他人なんてどうでもいいけど
…。ま、結果的に大和を守ってくれたわけだし、私のライバルも減るからいい
んじゃない。”皆が言ってくれた言葉は一言一句間違えずに覚えてる。そっち
にしてみれば、その場限りの言葉だったとしても残ってもいいって言ってくれ
たのは何よりも救いになった。」


あのときは京もただ思いつきで言っただけで深い意味はなかった。
しかし、今なら分かる。
敵だらけの環境の中で自分の価値に自信がなくなっていく。
そんななかでの優しさがどれだけ嬉しいか。


「大和もわざわざ電話で集めてくれたんだろ。俺なんかのためにさ。だから、
何もおかしなことじゃない。俺を先に助けてくれたのはそっちだろ。それでも
俺が助ける理由はないのか?」

「…くくっ、確かに。」


可笑しそうに聞く海斗に京も返した。
京は自覚していなかった。
ファミリー以外の人間にこんな冗談を使うほど打ち解けていることに。


「なにせ今まで自分なんて誰からも必要とされてなかったからな。あんなこと
言ってくれる奴らも初めてだった。だから、俺が勝手に友達みたいに思っちま
ってたんだよ。そこら辺は馬鹿な男の勘違いってことで許してくれよ。」

「……。」


友達みたいに。
大和に言われたことが頭をよぎる。

“ファミリー以外に信頼できる奴でも見つけてさ、せめて友達くらいは作って
みたらどうだ?”

大和のために。
それはあるけど、やはり簡単に決められることではないからこそ、これまで他
の友達なんて出来なかった。

京は相手をよく見て考えてみる。
自分と同じような境遇だからか、他の人より親近感は感じる。
ファミリーの皆が認めているように信頼は出来る。
何よりあんなに他人との関わりを嫌がっていた自分自身がこんなに普通に話を
聞いて、反応していることに。


「なら、本当に友達にでもなる?」

「へ?」

「嫌ならいいけど…。」

「嫌じゃないって。ただ俺、お前には嫌われてると思ってたから少しびっくり
しただけだ。」

「私は基本誰にでもこんな感じ。」

「じゃあ、名前で呼んだりしてもいいか?」

「てっきりそういうのは聞かないタイプだと思った。」

「いや俺も聞かねぇけどさ、拒絶されてると思ってたから下手に動けなかった
っていうかな……。別に嫌がらせしたいわけじゃないからさ。」

「確かにいきなり名前で呼んできたら眉間に皺を寄せたかもしれないけど、友
達なら別に。よろしく、海斗。」

「ああ、今更だけどな。よろしく、京。」


人と人との間の様々な絆。
その中の1つ、友達となった二人。
これが大きく運命が変わる全ての始まりだった。

-4-
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真剣で私に恋しなさい! Original Sound Track ~真剣演舞~
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