小説『真剣で私たちに恋しなさい! 〜難攻不落・みやこおとし〜』
作者:黒亜()

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―金曜集会。

風間ファミリーが1週間に1度皆で集まる場。
特に話すことがあるわけでもなく、ただ一緒にわいわい過ごすだけ。
そんな馬鹿騒ぎが出来る場所。
今日はそこがいつもとは違う異様な雰囲気に包まれていた。
ファミリーの面々は揃って驚愕している。
その原因とは…


「京が友達をつくっただと!?」

「今日って4月1日だよね。そうじゃなければ、こんなのおかしいよ!」

「モロ落ち着け!とりあえずクリス、俺様の胸に飛び込んで来い!」

「お・ま・えが落ち着け!」

「ぐぁはっ」


クリスのアッパーによって吹っ飛ばされるガクト。
何故かその顔は嬉しそうである。

こんなカオスな状況になっている理由は少し前にさかのぼる。
いつものように集まってきたメンバーに京が話があると切り出した。
京が皆に話があるというのは珍しいことだったが、多少驚いたものの特に気に
はしていなかった。
しかし、続いた言葉はそんな驚きとは比にならなかった。

“一応、友達が出来ました。”

その一言で固まるメンバー。
時が止まったように部屋を沈黙が支配する。
そして、爆発したように声をあげたのが先ほどの会話というわけだ。


「一体どういう風の吹き回しだよ。」

「そうよね、京の行動とは思えないわ。」

「大和に命令されたので、ぽっ。」

「変な言い方するなよ。確かに俺も友達つくったほうがいいんじゃないかとは
言ったけど……、まさかこんなに早くできるとは。」

「しかし京が認めたっていうそんな奇特な相手は誰なんだ?」

「私も気になります。」


それはクリスと由紀江だけでなく、皆も同じだった。
特に昔から一緒のメンバーにとってはありえない事態だったのだ。
何年も一緒にいて、今までそんな者は1人として現れなかったのだから。
大和の頼みでもそれだけはずっと叶わなかった。


「まぁ隠す必要もないし……海斗だけど。」

「へぇー、海斗っていう名前なんだ。なんか凄く親しみがあるような名前ね。
海斗ね。ん?海斗……え!?海斗ってあの海斗!」

「今の台詞に何度海斗って出てきてんだ。」

「おそらくワン子の言ってる海斗。」

「なんで京まで海斗なの!?」

「いや私はただの友達だし。そんなに驚くこともないでしょ、大和なら大体分
かってたと思うし。」

「逆に他に京が話せそうな奴がいないからな。流川くらいしか思いつかなかっ
たっていうのはあったけど。それにしても意外ではあるし、また随分と急な話
だな。」

「実はかくかくしかじか……」


京は常夜の男たちに遭遇した日のことを詳しく話した。
実はあの日、海斗が助けに来たことはまだ大和は知らない。
気絶していてその先の記憶がないのをいいことに、海斗が教えないようにと言
ったのだ。
海斗はわざわざ言うなんて自慢みたいだから嫌だし、恩を着せているみたいだ
という理由だそうだが、京は違うと思っている。
本当は大和を守りきれなかった不甲斐ない自分を気遣ってくれたのだと考えて
いた。
それを問いただしたとしても絶対に認めはしないだろうが。
決して口にすることはなくても、それが海斗の優しさなのだ。

しかし、だからこそ自分への戒めとして。
今日ファミリー全員の前でその日のことを赤裸々に話そうと決めたのだ。
優しさに甘えてはいけないところだから。
より強くなるためにも。


「そんなことがあったのか……、くそ私も戦いたかった。」

「やはり海斗は正義の者だな!」

「何はともあれ二人とも無事なんだから良かったんじゃね。京もあんまり気に
すんなよ!」

「全然気にしないっていうのは無理だけど、自分を過度に責めたりはしないか
ら安心して。もう散々注意されたから。」

「あー……、あの新しい友達はそうだろうな。」


誰になどとは聞かない。
ここにいる全員が短い期間で海斗の性格はよく知っている。
そして、それに惹かれたものも沢山いるのだ。


「にしても、海斗はうちの女性陣をどんどん取り込んでいくな。最初は妹だけ
だったのにな。残ってるのは私くらいだ。」

「いえ、私は友達なので。安心して、私は大和一筋だよ。」

「不安でいっぱいなんですけど。ていうか、姉さんも結構流川につきまとって
ると思うけど。」

「それこそ私は戦いたいだけだ。あいつの力はおそらく私を楽しませてくれる
だろうからな。」

「モモ先輩のもそれはそれでなぁ。」

「まあ、良い機会だよな。今まで他人とコミュニケーションを取らなかった京
がファミリー以外の奴、しかも男と友達になるなんてさ。」

「確かにそれは俺様も相当な進歩だと思うぜ。」

「この機会にもっと社交的になれるといいな。」


メンバー全員が京に頑張れのメッセージを送る。
海斗に恋する三人娘も最初は戸惑ったものの今は応援する気まんまんだ。
そもそも、一緒に過ごしていれば京が大和以外を好きになるはずがないなんて
ことは誰よりも分かっていることだ。
ある意味、何よりも信頼できる事象。
その油断がまた事態をややこしくするとは知らずに……。

-5-
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