小説『真剣で私たちに恋しなさい! 〜難攻不落・みやこおとし〜』
作者:黒亜()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

放課後、海斗は弓道部へと足を運んでいた。


「今日は特別に客として、流川海斗に来てもらったで候。」

「皆知っての通り、こいつは腕もあるし。いい刺激になればと思ってな。」


部長の矢場弓子と顧問の小島梅子がそう言う。
海斗がここに来ているのは大和による計らいだった。
馴れ合うのを嫌がって幽霊部員気味の京を部活に連れ出して欲しいとお願いさ
れたのだ。
まあ、本当は友達になったばかりの二人の仲を進展させようという意図もあっ
たのだが、どちらにせよ海斗には断る理由もなく、京も大和の言いつけとなれ
ば無視は出来ないのでこういう結果に至っている。


「俺部外者だけど、そこら辺緩くていいのか。」

「流川先輩が弓プレミアムに上手いっていうのはあの試合を見て、部員全員認
めてますから。反対する人はいませんよ。」


そう言うのは武蔵小杉という一年生だ。
海斗は前に依頼をもらったことがあるので知っている。


「ていうか、椎名先輩が来てくれるのも久しぶりですよね。」

「まあ、腕がなまるし。」

「私のフォーム見てくださいませんか!」

「いや、私のは弓道じゃなくて弓術だし。めんどくさ…」

「いいから、見てやれよ。」


とん、と京の背中を押す。


「せっかく来たんだからさ。先輩だろ?」

「むぅ…。」

「後輩の面倒見てるとか知ったら、大和も見直すと思うけどな。」

「まあ、見るだけなら。」


京は渋々という感じだが頷いた。
明らかにやる気なさそうだが、それは毎度のことである。
それを見た部員達は…


「すごい…椎名さんを説得するなんて。」

「あの自分勝手な椎名先輩を手なずけるなんて…」

「あんまり無駄口利いてると見ないけど。」

「はいぃ!やります!」

「腕が内側に入りすぎ。」

「はい!」

「肩に無駄な力はいらない。」

「はい!」


下手なことを言った後輩には京の厳しい指導が待っていた。
相当遠慮なく言われたというが、自業自得である。
それに言っていることは全て的確だった。


「そういえば流川先輩は小さい頃に弓やってたんですよね?」

「あー……そうだな。」


そういえば、そんな嘘もついた気がする。
でも弓が一発で出来たことを正当化するのには必要だった。


「それ、嘘でしょ。」

「な!?」


いきなり京が嘘をばらしやがった。
予想外の方向からの攻撃に若干焦る。


「いや、俺は…」

「もう私は過去のこと知ってるし。」

「うっ、お前いい性格してんなー。」

「ククク、さっき私に命令をした仕返し。」


完全に京にしてやられた海斗。
ただ過去のことをジョークに使ってくれるくらい、気にしていないのが同時に
とても嬉しかった。


「なんか予想以上に二人仲が良いですね。」

「そうね、私も椎名さんがこんな風に誰かと言い合ってるのってあんまり見な
いから新鮮だわ。……あ、ゴホンゴホン!新鮮で候。」

「ふむ、確かに。意外に馬が合うのかもしれんな。」


やはり周りの者から見ても二人の仲は良かった。
友達になったばかりとは思えないほど。
普通ならこの程度で仲良いかというくらいなのだが、京の普段が普段なのでこ
こまで軽く言い合っているだけで相当なインパクトなのだ。
梅先生の言うとおり、波長が合っているのだろうか。


「ところで流川先輩と椎名先輩だったらどっちが上手いんですか?」

「え?」

「確かに弓の椎名といえば右に出る者はいないほど有名ですけど、流川先輩も
初めてであの実力ですし。」

「「…………」」


お互いの顔を見合う。
そんなわけで…


「おら、さっさと外しやがれ!」

「私は外さない。そっちがさっさと負ければいい。」


順番に弓を射っていき、先に的の中央を外した方が負けという高レベルのサド
ンデスゲームが始まった。
無謀というか明らかに早期決着しそうなこの試合形式も達人二人の手にかかれ
ば…


「あの二人いつまでやってるんでしょうね。」

「そろそろ部活が終わっちゃうんだけど…。」


しかし両者とも相手に勝ちを譲ろうとはしない。
何本射ったかも分からないが、全く集中を切らしていなかった。


「そろそろ疲れてきたんじゃねぇか?ギブアップしたら、どうだ。」

「けろっ。だてに鍛錬してません。」


ここまで二人が勝ちにこだわるのはプライドなどではない。
勝負の前にした約束が全ての原因だった。

“負けたほうが勝ったほうの言うことを1つ聞く”

海斗が勝負するからには何か賭けないと、などと言っていたら後輩がそんな無
茶苦茶な提案をしてきたのだ。
そうなれば互いに引き下がることは出来ず、今に至る。


「次こそ外せ。」

「私がミスなんてありえない。」


その言葉通り、京の集中力は目を見張るものだった。
一度モーションに入れば、視線は的の中央しか捉えていない。
そして、矢を放つ。
何もかもが完璧な動きだった。

だが、放たれた弓はわずかに的の中央を逸れた。
外したのは初めてだった。


「海斗!今、震脚で地面揺らしたな!」

「言いがかりはよせよ、外した外した。」

「なんて卑怯な……!」


勿論、やっていました。
足を地面で強く踏みつけるだけの単純な技。
どんなに集中を切らさない京であっても、その立っている土台自体が揺れてし
まえば手元が狂わなくとも目標は外れる。


「よし、俺の番だな。さっさと決着だ。」


ひゅんと弓を射る。


「させない、狙撃!」

「なっ!?」


飛んでいった矢に見事に京の放った飛礫が命中。
結果、決めれば勝利となった海斗のターンも失敗に終わった。


「おい京、それはいくらなんでも反則だろ!」

「つーん、知りませーん。」


そんなやり取りを見て、部員達は。


「もう弓の勝負ですらない気がするんですが…」

「ていうか、妨害のレベルが常人じゃないわ。」


何はともあれ二人の仲の良さがよく分かる光景だった。

-6-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




真剣で私に恋しなさい!!?(原作wagi氏描き下ろし特大クロスポスター(由紀江&クリス)付き【初回限定仕様:封入】) [Blu-ray]
新品 \4698
中古 \1500
(参考価格:\9240)