「おねがーい!」
は? って言いそうになったけどギリギリで自重した。
まさかだとは思うけど、それだけのことで私の午後は潰れたんだろうか。
……そんなの、ウチん家でもできるのに。
「い、いいけど……」
「やったー!! 葵衣ちゃんてやっぱり優しいよね♪ 雛美葵衣ちゃん大好き!」
「……あのさ」
「なに?」
「もしかして用件ってそれだけ?」
「うん」
「……そ、そっか」
「どうしたの?」
「いや、それくらいならウチん家でもできたよなー……って」
「あぁー。でもいいじゃん! どうせ暇だったんでしょ?」
どうせ……その言葉に私のイライラはピークに達し、頭の回転が全て止まった気がした途端、消滅した。
心が折れたと思った。
自分勝手だと叫びたくなった。
「………………うん。そう、だね」
雛美に反抗する気力はサッパリ失せ、雛美に反抗できない弱虫な自分への自己嫌悪も、表情の作り方も、自分が嫌だと思う事もやりたいって思う事も、その時一瞬でなにもかも忘れた気がした。
ただ変に落ち着いてた。いつもなら耳を澄まさない聴こえないはずの鼓動が耳元でしっかりと聴こえてきて、不思議な感じがした。
今日は話の流れに身を任せようって思った。雛美のいうこと、やること全てに賛成しようって。
その日は雛美に罵倒されようが何されようが平気だった。
普段だったらチクリとくる言葉をいつものように言われたけど、何も思わなかった。私のやわな心が厚い壁に守られてるような錯覚がした。もちろん気のせいだってわかってる。でも例えるとそんな感じ。
何かが私の心に雛美の言葉を寄せ付けないようにしてた。
「葵衣ちゃん今日反応うすーい。つまんないの」
そばで雛美がグチグチ言ってたけど大して気にならなかった。自分のこと言われてるのに興味がわかなかったっていったらおかしいけど、でも本当にそうだった。
まるで無敵になった気分で、私は雛美と過ごした。