「ねえねえ、次ってなんだっけ?」
数学が終わり、教科書を片付けていると雛美がすぐさま私の席に飛んで来た。
時間割掲示用の小さな黒板で確認する。
「次はー……うわ、体育だ」
「うわー柔道じゃん。雛美柔道キラーイ」
「だよねー。おれもそう思う」
おれ、と自称したのはクラスで同じグループの実来(みくる)。
「やっべ。靴下に履き替えなきゃ。雛美もだよね?」
「あ、うん。葵衣ちゃんついてきてー」
「あ……うん」
(私タイツはいてないんだけどな……まぁいいや。いつものことだし)
自分に言い聞かせて雛美達に続き教室をでる。
「さっっっむ〜!! ったく、なんで女子が廊下で着替えなきゃなんだよ!」
実来がガクガクと震えながら叫ぶ。
今は冬。寒いのは当たり前だけど、1-1教室は生徒玄関がすぐそこだから、他のクラスと比べてダントツに寒い。
雛美と実来が寒さに震えながら、教室の前にある雨具掛けスペース(一応壁在り)でタイツを素早く脱ぐ。
「そうだ。あんね、葵衣ちゃんに頼みたいことがあるの」
柔道着を手に柔道場に急ぎながら雛美が思い出したように声をあげた。
「……なに?」
「あのさ。葵衣ちゃんて」
キーンコーンカーンコーン――
「やっべ!!」
「実来早っ! 待ってー!」
雛美の言葉を遮るようにチャイムが鳴り、私たちはチャイムの音に弾かれるようにして駆けた。
雛美の先の言葉が気になったけど、自分から聞く気にはなれなかった。
嫌な予感しかしなかったから。
だから、雛美が自分から言い出すのを待ってよう。
そう思いながら、急ぐ二人の後姿を見つめていた。
結局その日、雛美が頼み事を言い出すことはなかった。