雛美が例の頼み事を思い出したのは、私がその存在をすっかり忘れた頃、二日後の土曜日だった。
昼食を食べ終えた私は二階の自室にこもってキーボードをカチカチと打っていた。
午前の部活以外に今日は特に予定もない。
午後はずっとパソコンで無料アニメ動画を見ていようと思っていた。
でも、どうやら予定変更になりそうだ。
「葵衣ー。電話よ」
母からのその一報で私の浮きだった気持ちは一瞬にしてなぜかモヤモヤと重く渦を巻いた。
それはたぶん、この時間帯といい、私に親しい友達が少ないことといい、誰かすぐに予想がついたからだと思う。
下に降り、母から受話器を受け取る。
「誰?」
「雛美ちゃんから」
「……そう」
やっぱり、という言葉は喉に押しとどめた。
「あんた、休みだからって家にこもってないでたまには外にでなさいよ」
「わかってるよ」
若干八つ当たり気味に言葉を返す。
短くため息。
思い切ってボタンを押す。
「……もしもし?」
「あ、葵衣ちゃん? 今日遊べる?」
(やっぱり……)
「ほら、この前頼みたい事があるっていったじゃん。それもあるからさ! ね! いいでしょ!」
「うーん……」
「何か用事あるの?」
「ううん。特にないけど……」
「じゃあ遊ぼ♪ 今すぐ来て」
「え? 今?」
「うん」
「……わかった。今行くね」
「おっけー。待ってるねーっ」
ガチャッ ツー ツー ツー……
「…………」
(行くしかないよね)
選択肢はない。
仕方なく見ていた動画サイトを閉じ、後ろ髪を引かれる思いでパソコンの電源を切る。
私は浮かない気分で雛美の家に向かった。