(頼み事なんてもう忘れたと思ってた……ずっと、忘れてればよかったのに)
雛美の家は近所だ。自宅から数十メートルしかない。
その短い道のりを一人歩く。
時間をかけ、できる限りゆっくりと。
(なんで、こんなに嫌な気持ちなんだろう)
雛美と遊んでも楽しくないから?
違う。それもあるけど……それはあくまで一つの要因。
他にもっと、根本的な理由がある……と思う。
わからない。
でもこの感覚には覚えがある。
誰かと遊ぶ時。誰かと遊ぶ約束をした時。
思えば、いつもこんな気持ちだった。
なんでだろ?
(…………)
わからない。
私は私なのに、私の心がわからない。
何が嫌なの? 何が不満なの?
(……わからない)
考えても答えは出てこない。
どうして? 私は私のはずなのに。
(……やめた。もういい。理由なんてどうでもいい。これから雛美ちゃんに会うことに変わりはないし)
考えるのはまた後日。
今はできるだけ楽しく遊ぶことを考えなきゃ。
「雛美ちゃーん」
「はーい」
玄関から声をかけると、階段を駆け下りる足音が迫ってきた。