小説『ハツコイ』
作者:()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

(頼み事なんてもう忘れたと思ってた……ずっと、忘れてればよかったのに)

 雛美の家は近所だ。自宅から数十メートルしかない。

 その短い道のりを一人歩く。

 時間をかけ、できる限りゆっくりと。

(なんで、こんなに嫌な気持ちなんだろう)

 雛美と遊んでも楽しくないから?

 違う。それもあるけど……それはあくまで一つの要因。

 他にもっと、根本的な理由がある……と思う。

 わからない。

 でもこの感覚には覚えがある。

 誰かと遊ぶ時。誰かと遊ぶ約束をした時。

 思えば、いつもこんな気持ちだった。

 なんでだろ?

(…………)

 わからない。

 私は私なのに、私の心がわからない。

 何が嫌なの? 何が不満なの?

(……わからない)

 考えても答えは出てこない。

 どうして? 私は私のはずなのに。

(……やめた。もういい。理由なんてどうでもいい。これから雛美ちゃんに会うことに変わりはないし)

 考えるのはまた後日。

 今はできるだけ楽しく遊ぶことを考えなきゃ。

「雛美ちゃーん」

「はーい」

 玄関から声をかけると、階段を駆け下りる足音が迫ってきた。

-9-
Copyright ©咲 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える