小説『【停止】キヲクのキロク。』
作者:bard(Minstrelsy)

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 今でこそ後悔しているが、当時の彼らは幸せ以外の何物でもなかった。
 仲間内では二人は結婚するのだろうと噂しあっていた。無論、私もそう思っていた。
 時が来たら披露宴代わりのパーティーを企画しよう、そう思っていたくらいだ。
 ジインに任せて良かった。
 ユウヒも、幾分落ち着いてきた。
 多分このまま、何もかも上手く行くだろう。
 私はそう確信していた。


 時が経つにつれて付き合いに変化が出て来た。
 大きなきっかけは、ジインと知り合ったサイトの閉鎖だった。
 しばらくは存続していたチャットも、サイトの閉鎖に伴い段々と人が減っていった。
 ある人は自分のサイトから他のメンバーに繋がり、ある人は全く違うジャンルのコミュニティへ身を寄せた。
 私もしばらくはチャットに残り、散っていったメンバーを訪ねて回った。
 だが、それも長くは続かなかった。私と幾人かの仲間はジインのサイトに集まり、他のメンバーとの交流は少なくなっていった。
 そしてついに、チャットも閉鎖された。
 全ての始まりの場所が無くなるのは一抹の寂しさがあった。
 ネットに繋がって間もない私が最初に出逢ったコミュニティが、そのサイトでありチャットだったのだ。
 その時の仲間とはもう、殆ど付き合いが無い。
 だから仲間達のその後を知らないし、彼らも私達の事を知る事はもう無いだろう。
 ネットは何もかもが仮想ではない。そこには、確かに人と人との繋がりがあった。
 仲間達との付き合いも、そしてジインとユウヒとの事も、それを知る良いきっかけになったと思う。


 ジインとユウヒとは「ネット上の友人」から「普通の友人」の付き合いになった。
 遠方に住んでいたジインが遊びに来る度、私達を呼び出してはしゃいだ。
 気になる居酒屋に出掛け、喉が枯れるまでカラオケで歌い、色んな話をした。
 今思い出しても、一番楽しい時期だったと思う。
 そして、この時が、この付き合いが、ずっと続くものだと思っていた。

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