朝礼、『老武神』川神鉄心の話と賭け事
朝、今日も俺達は一緒に登校していた。
「あり、お姉様への挑戦者いないわねぇ」
ワン子が言うとモモ先輩は不服そうな不機嫌な表情をした。
「そう毎日来るもんでもないだろう」
「こっちから攻め込みたいですよね」
モモ先輩は手を腰に置きながら、
「ああ。じじいに禁止されてさえいなければなぁ。信也とも戦いたいのに戦わせてもらえんしな」
「じじいがどうかしたかの?」
モモ先輩が爺さんのことを言っているとどこからか爺さんが現れた。
「うわ、じーちゃんいつの間に」
ワン子が驚いている。大和は挨拶しているし、ガクトは彼女できないことを指摘されているし、ん?爺さんが俺に近づいてきたぞ。
「信也よ」
「何だ爺さん」
俺に何か用だろうか?そう思っていると、俺の耳元で小さく呟いた。
「5月1日にモモと試合してくれんか?」
「何?別にいいけど……もしかして戦闘への欲求が限界に近いのか?」
俺が真顔で聞くと、
「うむ、モモは力と戦いに魅入られてしまっておる。ワシが相手をしてもいいのじゃがワシも年じゃからの。若い世代には若い世代をぶつけたほうがいいと思ったのじゃ」
俺は少し考えた。
「……………いいですよ。俺が相手をしましょう」
「本当か?それは良かった。では、頼んだぞい」
そして、爺さんは朝礼の準備があるので去っていった。
学校に着いた俺達はクラスに荷物を置き、朝の朝礼があるので全校生徒がグランドに集まっている。
全校生徒は整列して学長を待っていると学長こと川神鉄人……爺さんが現れて話し始めた。
「ネムそうな顔をしとる奴が多いの。特に1年」
「まあ朝だろうしの。こんな年寄りの言葉聞くためだけにわざわざ校庭まで出てきてご苦労じゃった」
優しそうに話す爺さんであったが、
「などと許すと思っていたか愚か者めらが!!たるんどる、喝っっっ!!!」
一言が周囲の大気を震わせ、ビリビリと振動する。爺さんの喝が大気を震わせ鼓膜に響き渡る。
これにより2、3年は慣れたものだが今年入学したばかりの1年はそういうわけにもいかない。ある者は背筋を伸ばし、ある者はひっくり返り、ある者は立ったまま気絶するという妙技をしてみせた。
「皆聞く準備ができたようじゃの。良いぞ良いぞ」
生徒たちを見て爺さんは話し始めた。
「えー、お前ら嫌なら勉強はしないでいいぞい」
「4月もミドルになって、スタディーがだるくなったと感じるヒューマンもおるだろう。したくなかったらせんでええ」
俺たち生徒はそれを静かに聞く。
「ふふ、ちょっと若者語はなしちゃったりして」
「1度しかない学校生活。節度保って好きにすごせや」
「人生は楽しんだもん勝ちじゃからのー」
「――――ただお前達、腹は減っておるかの?」
爺さんは俺たちに言う。
「名誉や金、力に飢えてはおらんか?」
爺さんの並ならぬ覇気をだしながら言葉を紡ぐ。
「女や男はどうだ?飢えてはおらんか?」
全生徒が爺さんの言葉に聞き入る。
「飢えてるならそれはいい、とても正しい」
「どんどん飢えてハングリーになりなさい」
「奪い取り、つかみ取る為に努力しなさい」
「競い合い、互いに切磋琢磨していきなさい」
「その為に決闘システムを用意した。白黒つけたければ活用しなさい」
「そして何かをつかみ取ってみせなさい」
再度、爺さんは全生徒を見渡した。
「勝つという快感はやめられん、人生がより一層楽しくなる。ワシからのおススメじゃ」
これが年長者として……人生の先輩としても言葉。
「成功する秘訣は夢ではなく野心ということよの」
それは数多の修羅場をくぐり抜けた強者の言葉。
「と言っても、ただ飢えてるだけじゃ獣と同じ」
それは武の道を歩み続け極めた者の言葉。
「理性と本能を両立させて、楽しい人生を送ってくれることを願うぞい」
そこに立っているのは飄々としたいつもの爺さんではなく、
「なーんも飢えとらん、平凡で普通の人生を送るのが一番だと思う奴、それはそれでいい。精神は腐っていきそうじゃが、それも生き方よのぅ」
「ただ、その生活をするのにも、ある程度の学力と健康な体が必要だ。今のうちに鍛えておきなさい」
「願わくば、皆が何らかの野心を抱いた飢えた若者たちであることを願うぞい」
ただ1人の老武神の……生徒たちを思ったいる教育者の姿であった。自然と生徒や教師から拍手がおくられる。爺さんは軽く一礼した。
「以上。ファンレターがあったら目安箱にいれてくれ」
そういうと爺さんは去っていった。
―――――――――昼休み
俺は昼休みまでの授業を全部寝ていて起きてみるとキャップの周りにクラスの奴らが集まっていた。
俺は何があったのか近くにいた京に聞いてみることにした。
「何があったんだ?あれは?」
俺はキャップの方を見ながら聞いてみたところ、
「今週の金曜日に来る転入生の性別当ての賭け事」
「ああ、あれか」
俺は思いだした。火曜日にキャップに持ちかけられた話を。
俺が考えているとキャップが俺に近づいてきた。
「おお信也、起きたか」
「ああ、俺も賭け札を買わせてもらおう」
「おお、何枚だ?」
「女に8枚」
小声でキャップに伝えた。
「わかった」
キャップに5000円と1000円札3枚を渡すと8枚の札をもらった。
そして、今日も授業は終わり、一日が終わった。