箱根旅行3日目
朝、起きると既に女子メンバーは全員、朝食を食べに行っていた。
俺達、男子メンバーと言うと…
「はっくしょーい!!!…お、検温終了」
「おいおい、8度1分あるじゃねぇか。風邪だな」
どうやら、俺がまゆっちと気晴らしに鍛錬をしていた頃、他の旅館の女湯を覗きに行き、途中で警報装置に引っかかったが、モモ先輩が2人を投げ、川に着水。
帰ってきてすぐに風呂に入ったが…効果なしという事か。
同じように川に落ちたガクトはピンピンしている…つまり、あれだ。バカは風邪をひかないを体現しているなガクトは。まぁ、他には鍛えているからってのもあるか。
他のメンバーは決闘を中止した方がいとか言うが、大和には大和なりのプライドがあるため、決闘はやるとの事。
仕方ないな。
「大和。風邪薬飲む前に俺が軽く治療してやある。ただし、これの効果は持って1時間が限界だ。本来ならもっと持続時間は長いが、気がめちゃくちゃ少ないお前に大量に気を送って治療したら逆に悪循環だからな」
「わ、わかった…やってくれ」
「わかった。八神流治癒術・快気癒法!」
プワァー
大和の体を緑色の気が包み、そして消える。
「これでよし。後は風邪薬を飲んどけ…そ・れ・と…まゆっち。出て来い」
「はひぃ!」
慌てながらまゆっちが出てくる。
大和は自分が風邪をひいている事は秘密にしてくれと言う。心配するまゆっちだが、負けたくないから頼む…とお願いをする。
が、松風がやめておけと言うとまゆっちもそうです!と言うが、黒い笑みを浮かべながらお願いする大和に完敗されたのであった。
――河原――
「これより大和とクリスのタイマンを行うぜ」
「ジャッジ兼司会進行は私とキャップ、信也の3人で行うので夜露死苦」
「4649」
俺は大和を心配はしているが、結構ノリノリで司会進行していく。
「やや風邪気味とのことだが?」
クリスが大和に聞くが、大和自身が問題ないと答えたのでもう聞かなくなる。
のだが、
「……ぅう」
まゆっちが一番心配していた。
「どうしたのよまゆっち。お腹痛いとか?」
「そういうわけではないのですが…心配です」
「別にガチで喧嘩するわけじゃないわよ。競うだけ」
ワン子は大和とクリスが喧嘩でもするのではと思っているようだが、まゆっちが心配しているのは大和の体調の事である。
「私と信也と、キャップで三分ほど考えた、公平な決闘法を」
「んで、結局の所。川神戦役の縮小版をやろうと」
「言う事になったわけだが…まゆっちとクリスは知らないよな?新入生と転入生だし」
俺が言うと2人は頷く。
「これは中国でいうところの“童貫遊戯”のことだよ」
「知っているのですか、京さん」
「南宋の時代、童貫という元帥がいて彼は敵国の遼との間にやってのけたことなんだけど。兵力を使わず、戦の優劣を決めると言うすばらしいシステムとして…」
と、途中まで京が説明していると、
「ずるいぞう京!俺が解説するんだ!!!」
と駄々をこねるキャップによって中断された。
「……しょうもない」
「これはな、主にクラスとクラスがやりあう時に使われる決闘法で、まずこれを用意する。くじ箱」
そう言ってどこからか取り出されたのはくじの入った箱。
「くじ箱……その中に戦う種目が入ってると?」
「その通り。くじで引いた種目で戦ってもらうぜ。勝負を繰り返して先に5回勝った方が勝ちだ」
「中に入ってる勝負はどのような?」
「知力重視、体力重視、感性重視、色々だな。クリスに有利な物もあれば不利な物も。ようは色んなモンがこの戦いには必要ってことだ」
「なお、これには運もついてくる。自分が引く時に自身に有利な物を引く、不利な物を引く…これは運もついてくるってわけだ!」
俺がキャップに続いて言う。
そして、クリスが5回とも自分に不利な物が出たら?と聞いてきて、モモ先輩が平等に入れたから偏らない筈と言う。
「ちなみに俺はアイスの棒、5回連続で出た」
「俺はガムやアメとかを買うたびに当たってたな」
後は…キャップとどっちが多く、あたりを引くかとかで競ったことがあって結局、決着はつかなかったな。
「そいじゃあ、まずじゃんけんをしてくじを引く番を決めてくれ」
「くじを先に引けるメリットって何かあるのか?」
「くじによっては種目が2つ書いてあったりする。2つのうち、どちらの種目で闘るかは引いたヤツが自由に選べるんだぞ」
「そのため、先にくじを引くことで2つの種目が書かれてあっても自分の得意な物が書いてあればそれを選べるというわけだ」
「…なるほどな。承知した」
説明を聞いたクリスが理解したので、じゃんけんに入るが…
「クリス、俺はチョキを出す」
早速大和、お得意の心理戦へと入る。
クリスは思考錯誤し、大和が何故自分に出す手を教えたのかを考え…その結果
「じゃんけーんっ ぽいっ!」
クリス…チョキ LOSE
大和……グー WIN
「ナニッ!?」
驚くクリスは何故だぁ!?と言わんばかりの表情で大和を見る。
「はぁ〜、やれやれ予測通り過ぎる……やりやすいなぁ、クリスは」
と言いながら上から目線な大和を見て、クリスは
「む……! むむむむむむーっ!!!腹立つ!大和腹立つーーーー!!!」
地団太踏んでこれでもか!これでもか!と大和を睨む。
「ま。前哨戦は大和の勝ちってところだね」
「こういう風に思考が読みやすい相手だから、勝負しても勝てるとふんだんだろうね大和は」
「(風邪さえ引いてなければなぁ)」
「(やっぱり……とめるべきだと思います……でもそんな差し出がましい事は、あぅ)」
〜1時間後〜
大和VSクリスがはじまって1時間が経過した。
今の成績はこうだ。
1回戦目「チェーン・デス・マッチ」……大和棄権のため、クリスの勝利
2回戦目「絵を描く…対象はまゆっち」……大和が描いた絵の中のまゆっちが幸せに笑っているというのに心から感動したまゆっちが大和の絵を推すといい、大和の勝利
3回戦目「肝試しゲーム…というなのポッキーを使った合コン用のゲーム」……大和は京とするが、モモ先輩が京を煽り、大和の記録は1秒ジャスト。
クリスはガクトとだったが…ゲームをする前にガクトを気絶させてしまったため、大和の勝利。
4回戦目「百人一首」…本来なら得意である大和だが、カルタの発音の子音だけで分かってしまうクリスにほぼすべて取られてしまい、クリスの勝利
そして、今は2-2という成績だ。
しかし、大和の顔が赤くなってきている。まずいな、俺の技の効果も既に切れているしな。
そして、
「げほっ」
大和が咳をしたことで我慢していたまゆっちが皆に言う。
「そ、その! 大和さんは熱が上がってきたのではなく、元から、もう……かなり高熱だったんです!」
「おい、まゆっち!」
大和は止めようとするが、まゆっちは止まらない。
「熱を信也さんの術と薬で抑えて戦っていたんです!」
「まゆっち黙って」
「だってだってもう見ていられません! 熱を無理に押してまで戦うのが友達なんですか!?ち、違うと思います!友達っていうのは……その、分からないですけどこうじゃなくて、その……大和さんとクリスさんには仲良くして欲しいだけなのに……う、うぅ……」
泣き崩れるまゆっち。
さすがの大和とクリスもその姿を見て、動揺している。
ぽん
「ふぇ?」
俺は泣くまゆっちにハンカチを渡す。
「大和。もう、何を言っても意味ないな」
「……そうだな」
大和もまゆっちが言いたいことが分かるので、もう言わなくなる。
「す、すいません…私みたいな新参が…でもどうしても……言いたくて」
ハンカチで涙を拭きながら言うまゆっち。
「いや、良く言った」
「ああ。思った事はズバッと言ってもらわないと」
「うんうん。遠慮しなくたっていいんだよん」
「え……」
キャップとモモ先輩、ユキの言った事にポカーンと口を開けるまゆっち。
「弟ぉ。薬で誤魔化していたのか。それに信也も関係しているとはな」
「ったくさぁ、どーでもいい時はすーぐギャーギャー言うくせに、ツライ時黙っちゃってさ」
他の知らなかったメンバーは大和を呆れた風味見ている。
そんな皆に不戦敗は嫌だと言う大和。そして、無理をしてまで決闘をしていた理由をまゆっちに言う大和。
「分かる。男だな大和」
「ガキンチョだなぁ。ふふ、久しぶりに年下らしいトコ見たな」
そして、大和は自分の体調の事を考え、クリスに提案した。今2対2と言う事なので、次で決着と。
それをまゆっちに言い、頼む大和。まゆっちもそんな大和に言われているので後1勝負だけを許可した。
「やるじゃんまゆっち!」
「これからも言いたい事があればガンガン言え」
「1年だからってかしこまる必要ないぜ」
「そうそう。おどおどしてると気を遣うから今ぐらいが丁度いいかもね」
「可愛くといいよんまゆっち♪」
「俺様への愛の告白も早めにな」
「いやそれは絶対にないからね」
皆に、認められたと考えているまゆっちの頭を撫でる。
「皆は、もうまゆっちの事を認めているさ。な!皆!」
俺が皆に聞くと
『もちろん!』
そう、答えた。
「あ、ありがとう…ございます」
そして、最後は大和がくじを引き……その結果
「大和。お前、神様にでも祈ったな」
「うぅ…都合のいい時だけ神に祈った報いというのか…」
くじの紙に書かれていたのは…
「5回戦目は……山頂からダウンヒルランニングバトル…」
これを聞いた皆は、『大和不利』と言う。
ルールは次の通りだ。
・山の中腹のチェックポイントで出されたクイズに答え、正解すればサインボールを貰い、それをゴールまで持っていく。クイズはどれを選んでもよし。走るルートは乗り物に乗らない限りは自由。相手チームへの妨害策はなし。
そして、パートナーをワン子と京のどちらかを選び、問題を解いてもよし、代わりにゴールもよし…と言うルールだ。とにかく、サインボールを持って先にゴールすれば勝ちと言うことだ。
なお、パートナーは平等にするため、コイントスで決めた。
その結果、
大和…ワン子
クリス…京
というパートナーになった。
俺とキャップはゴールで待っている。
レースがはじまって時間がたつと、クリスが走ってきて、その後ろにはワン子が走っていたが転ぶ。
転んだ拍子に足を痛めたとクリスは思い、余裕と言う意味でゆっくりと走る。
「クリスこっちだ、俺にタッチすれば勝ちだぜー!」
キャップがクリスに声をかけ、
「大和こっちだぞー!キャップにタッチすれば勝ちだぞー!」
大和が走ってくる、それに不思議に思ったクリスがワン子を見て、急いで走りだすが…時すでに遅し。
「俺の、勝ちだぁぁぁーっ!!!!」
大和はキャップに飛び込む。
そして、キャップにタッチする大和。
「勝者!直江大和!」
勝負後、大和は自分の作戦をクリスに説明し、クリスも納得。
そして、
「―――ガクリ」
大和は力尽き、倒れた。
――旅館――
大和の看病をしながら、俺達はクリスとメアドとかを赤外線通信し、まゆっちは携帯を買ったら交換しようと話す。
そして、モモ先輩が川神魂…つまり、勇往邁進を言う。 *勇往邁進の意味が分からぬ人は調べてくれ。
その話が終わり、大和が目覚めると飲み物を全員に配り終わり、乾杯をするため、キャップが
「えー。若葉かおるころとなりましたが……」
「堅苦しいわよー!」
「小学校の校長かテメーは!」
の言った事を聞いたワン子とガクトが怒る。
「分かった分かった、じゃあ簡潔に行く。ゴホン―――楽しくやろうぜ。それで十分だ」
「カンパーイ!!!!」
『カンパーイ!!!!』
11つのグラスが、がちーんとぶつかり合う。
ここに…本当の新生風間ファミリーが誕生したのであった。
午後になると、風間ファミリーは全員で観光すると、夕暮れには帰りの準備を終わらせ、帰りのバスを待っていた。
しばらくの間皆で雑談していると……。
「…もし…そこの貴方…輝きを放つそこの貴方」
不意に後ろから道端で占いをしている爺さんが声をかけて来た。
「俺様か?」
ガクトが振り向くが、
「いえ。バンダナをしている貴方だと」
呼ばれたキャップは、爺さんに尋ねた。
「俺スか?」
「おぉ……素晴らしい人相をしていなさる。魅力がある。男としてではなく、人として。そして何より絶対的な強運にも恵まれている」
一通り褒めると、爺さんは占わせて貰えないかと申し出るが、残念ながら彼等に余計な資金はない。
すると爺さんは、無料での占いを買って出た。
だが、偶数にもバスが到着し、占いは結果だけが伝えられる。
「おお。貴方達1人1人の未来は輝かしいですな」
「それは良かったぜ」
言うと、キャップがバスに乗り込み、他の面子もそれに続く。
「ありがとうございました。」
まゆっちは爺さんにペコリと頭を下げ、バスに乗り込む。
最後に俺が乗ろうとすると、
「貴方の未来は、複数に分かれていると思いきや…全てが繋がっている。
しかし、それは同時に新たな敵…それを呼ぶでしょう。気をつけなされ」
「……はぁ…わかりました」
……複数に分かれていると思いきや全ては繋がっている…か。それはつまり…いや、考えるのはやめておこう。
――夜。島津寮――
島津寮に帰ってきた俺達。
帰ってきた俺達を出迎えたのはゲンとクッキーだった。
「ゲン。お土産だ。クッキーにもな」
ゲンには茶菓子の詰め合わせセット。クッキーには落花生まんじゅうとかを買ってきた。
そして、夜も遅いので、早めに眠りにつこうとすると、
Priririn!Priririn!ピ!
「メール?義経から?」
メールの内容は、6月になれば自分達は川神学園に入ると思うぞ!…けど、これは信也だけの秘密にしておいてくれ!とのこと。
…もう、決まりだな。京が俺に惚れ、ユキがファミリーに入っているだけの原作ブレイクと思ったが……この世界、絶対に何かの続編か何かになっているだろ!?
くっ…せめて俺が死んだ世界で何があったか知る事さえできれば…いや、考えるのはやめよう。
俺はこの世界の住人。前世の事はあまり考えるな。
……お休み…………Zzz…Zzz…
しかし、この時信也は知らなかった。
この世界は信也の予想通り、続編の話になっている事を。
そして、信也の存在が起こした新たな物語を……この時の信也はまだ……知る由もなかった。