お昼の出来事
朝の出来事から午前中の授業が終わり、チャイムが鳴るのと同時にガクトやヨンパチなどの学食組は、猛ダッシュで戦場(と書いて食堂と読む)へと向う。
教室で残っているメンバーは持ってきているお弁当を俺は京とワン子、ユキの三人と一緒にいつも食べている。
大和とモロはクマちゃんの話しているようだ。
「今日は二人共こっちで食べるんだ?」
「ああ、クマちゃんに朝パン俺の分も買ってきてもらったんだ」
ベーカリー・ラクスティのパンは、パイのようなサクサクって感じがいいんだよね。
添加物を使ってないし、クリームパンの自家製カスタードも絶品だよ」
その会話を聞いていたワン子は、興味深そうに口を挟む。
「へー。そのパン屋ここらへんじゃ聞かない名前ね」
「宮前区の方だもん。朝一で買ってきたんだ」
学校一の食通であるクマちゃんは、解説すると満足そうな顔をしていた。
「アタシもおべんと、おべんと♪」
「真っ赤なお弁当ー」
京が弁当箱を開けると中には真っ赤なお弁当…
「おおう。京のは七味で染まり過ぎね」
「マシュマロ〜〜〜〜」
ユキの弁当箱には半分以上がマシュマロで埋まっている。
「って!ユキはマシュマロが多すぎ!野菜とかも摂取しなさいよ!」
「マシュマロ大好き〜〜〜」
……ワン子の話し聞いてないし。
とまあ、教室ではのんびりと机を寄せてランチを取っていると、
『東海地方は、広い範囲で花粉が……、』
教室のテレビは、昼にニュースを見ることが許されている。基本的に昼にはテレビが付いている。
「何か面白いニュースやらないかしら?」
ワン子が2杯目の牛乳をグビグビと飲んでいると……
『それでは次のニュースです。
昨日の午後7時頃、埼玉県深谷市の飲食店で、無銭飲食をした男が居合わせた男子学生に取り押さえられました。
調べによると、男は今までも近隣で無銭飲食を繰り返しており、また窃盗品を身に着けていたところから警察では余罪を追及しています』
そのニュースを聞くと、生徒達はその話で盛り上がり始めた。
「取り押さえたの男子学生だって。イケメンかな?」
「勇気ありますよね、凄いです」
好感を持った様子の小笠原や委員長が言っているとニュースが進んだ。
『男を取り押さえたお手柄の男子学生は、神奈川県川神市在住の風間翔一さんで、限定メニューを先に注文されて腹が立っていたので本気で追いかけたと……』
「ぶはっ!?」
「……妙技ムーンウォーク」
「ウォーク〜〜〜」
ワン子が噴き出した牛乳を、京とユキは華麗にかわした。
「あ、ゴメン。噴いちゃったわ」
「被害軽微。それより」
「ちょっと!テレビに映ったの風間くん!?」
京の言葉を、小笠原が遮った。
「他にいないよね」
「今度はテレビかよ」
「前回の新聞からグレードアップしたね。当然これも新聞の片隅には載っていそうだけど」
「相変わらずの自由人っぷりだな」
「キャップは有名人だね〜〜〜アハハハハ!!」
モロ、大和、京、俺達四人は呆れ果てた、ユキだけが笑っている様子だが、
「うわ、凄いじゃん、さすが風間くん!」
「犯人逮捕に貢献なんて、クラスの誇りですね!」
女子からは、好意の声があがった。
「だからなんだってんだ。いちいち騒ぎやがって。どっちかっつーと痛い部類じゃねーかよ」
スグル含め、多くの男子達はなんだか面白くなさそうだった。
「なんとまぁ、いつもながら目立つ人だね」
「「…………」」
「……二人共、浮かない顔してるけど、なんで?」
浮かない顔で沈黙する大和と俺を見ると、クマちゃんが尋ねた。
すると二人は、崩れ気味の笑顔で答える。
「心労が増えると言うか」
「幼馴染みとして、これは…な」
それに同意するようにモロと京も、
「相手を追いかけた理由がまたキャップらしい……」
「電話とかこないとこ見ると、本人自覚ないっぽい」
幼馴染み達からすれば、キャップのこういう行動は、当然ながら好ましくはない。
「警察の皆さんにお手数かけてないといいが」
「キャップが人様に迷惑かけなかった覚えがあるか?」
大和に対し、俺は皮肉気に言う。
「お礼にその店でタダ飯要求してないかなー」
「それはどっちかというとワン子の思考だな」
「なにおう!勝負するっての?」
「取敢えず牛乳拭け」
ワン子と大和が戯れあっている間に、他の面子は既になれた様子の対応をしている。
「だめだ、キャップ携帯でないや」
モロが言うが、大和や俺は至って冷静。
「そのうち帰ってくるだろう……」
「小学生の時から変わってないからな。さすがにもう既に慣れた」
俺たちがそう話しているうちにニュースは続く。
『続いてのニュースです。
昨日の午後10時頃、東京都新宿区にある宝石店を襲った強盗犯達を、また居合わせた男子学生に鎮圧されました。
調べによると、その強盗ブループは数年前から活動していたブループだったらしく、警察でも早く捕まえたいと思っていたそうです』
そのニュースを聞くと、生徒達は先ほどと同じようにその話で盛り上がり始めた。
「へぇ〜、また学生が捕まえたんだ!風間くん見たいにイケメンだったらいいな」
「まさか、またこのクラスの人ではないですよね?」
小笠原は期待し、委員長のその勘は当たっている。何故なら…
『男を取り押さえたお手柄の男子学生は、神奈川県川神市在住の八神信也さんで、夜の街をバイクで走っていたら偶然居合わせたらしく、強盗犯たちが銃で脅してきたため返り討ちにしたと……』
『ぶはっ!?』
今度はワン子だけでなく、教室にいた全員が噴いた。
「おいっ!」
「ん?どうした大和」
「ん?じゃねえよ!!何やっちゃってんだよ!?」
大和がクラスを代表して俺に聞いてきた。
「いや、ニュースで言っていた通り、昨日夜の東京の街を見たいなぁ〜と思ってバイクで行ったらさぁ〜宝石店の前を通ったら強盗犯たちがいるは、銃で脅してくるわで、つい反撃してやったんだよ。おかげで警察では感謝されて帰るのが遅れて若干眠いぜ」
俺の話を聴いたクラスに残っている男子は呆れ、女子から(主に京とユキ、ワン子から)は熱い視線を浴びた。
「じゃあ、明日の新聞に載るかな?」
「絶対に載るよ!」
「載る載る〜〜」
『(絶対に見てやる!!)』
三人が心のうちで何かを言っているような気がしたが、気にしないでおこう。
こうしている間に、昼休みは終わり、俺達は午後の授業を受けることとなるのであった。