小説『真剣でD×Dに恋しなさい!『完結』』
作者:ダーク・シリウス()

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「・・・・・死ぬのか」


「・・・・・ああ、私は死ぬ」


「・・・・・そうか」


「・・・・エンジェル、お前と出会って数十年、色々とあったな」


「・・・・・そうだな。笑いがあれば悲しみもあった。簡単なこともあれば苦労もした。

困難な状況になっても諦めなかったら周りが助けてくれた」


「・・・・・部下の大半は私を置いてさっさと女を作って結婚し子供を作ったと思えば孫もできて

私より先に死にいったしな・・・・・」


「今じゃあ大将だけになった・・・・・」


「・・・・・あの時の選択は間違ってはいなかったと私は胸を張って言える。お前と共にあの戦争を極力

血を流さないように終戦に導いたのだから・・・・・」


「まさか、大佐の友達があの時の総理大臣と友達とは思わなかった」


「ハハハ・・・・・、あいつとは何かと縁があったんだよ」


「感謝しているよ。大将が総理大臣の友達で良かった。お陰で総理大臣を説得できて矛を

収めてくれたんだからな」


「あいつもエンジェルと友達になれて光栄だと散々言っていたぞ」


「ふふ、そうか。俺も光栄だよ」


一誠と大将は思い出話に花を咲かせる


「・・・・・お前は歳を取らんのだな。顔が昔のままだ」


「俺はそういう体質の一族に生まれたんだ。羨ましいのなら、もう一度―――」


「いや、もういい・・・・・100年以上生きたんだ。もう十分楽しめた・・・・・」


「・・・・・そうか」


「・・・・・ほう、エンジェルが涙を流すなんて始めてみたな・・・・・」


「・・・・・当たり前だ。最後の『親友』がいなくなるんだぞ・・・・・!

涙を流せずにいられるかよ・・・・・!」


「・・・・・ははは、そうか・・・・・最期に嬉しい事を聞いたな・・・・・」


「大将・・・・・!まだ生きたいなら若返らせてやる・・・・・!寿命をだって延ばしてやる・・・・・!

だから、だから―――!」


「一誠・・・・・人は何時か死ぬ運命だ。その運命を簡単に曲げてはいけない」


「・・・・・くっ・・・・・!」


「一誠・・・・・何時か必ずお前を迎えに来る家族がいるのだろう?なら、もう少しだけ待っていな。

そうすれば何時かきっとお前の前に現れてくる筈だ・・・・・」


「大将・・・・・」


「な?」


「・・・・・ああ、もう少しだけ待ってみるよ」


「・・・・・その言葉を聞いて安心した」


「・・・・・」


「はぁ・・・・・。本当に、本当に長く楽しい人生だった・・・・・」


「大将・・・・・」


「一誠・・・・・。お前の親友で私は嬉しかった」


「大将・・・・・っ」


「・・・・・来世で何処かで会ったらもう一度、バカ騒ぎをしよう・・・・・」


「大将・・・・・っ!」


「・・・・・ああ、部下の奴等が手を招いている。分かった、分かった、今そっちに行くから

待っていろ。・・・・・一誠、私の親友よ・・・・・。今日まで色々と楽しかったぞ・・・・・」


「大将っ!」


「・・・・・さらばだ・・・・・親友よ」


「・・・・・っ!」


「・・・・・」


大将は静かに息を引き取った。―――幸せそうに笑みを浮かべながら


「・・・・・大将」


だが、一人だけ残った兵藤一誠は・・・・・


「うっ、うぅぅっ・・・・・、くっ・・・・・!」


最後の親友をなくして


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


悲しみの涙を絶え間なく流し始め声を荒げた



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――数年後


「・・・・・」


一誠はとある学校の貯水タンクの上に寝転がって青い空を見上げていた。現在は授業中・・・・・


「・・・・・大将・・・・・ガイア・・・・・皆・・・・・」


ポツリと一誠は呟いた。目を覆うほどの前髪が吹く風に揺れ一誠の瞳には生気が見られなかった


『主・・・・・』


「ゾラード・・・・・。俺、こんなに生きるのが苦しいなんて初めて感じているよ」


『そんなことをおっしゃらないでください・・・・・』


「・・・・・うん、ごめんな。だけど、生きるのが辛く成ってきているんだ・・・・・」


『一誠・・・・・』


「戦う意欲も無ければ何かしようとする気もない。―――何もかもが暇すぎてつまらない」


『兵藤一誠・・・・・』


「強過ぎる力は人を孤独にする。天才と万能も同じだ・・・・・」


『『『・・・・・』』』


「はぁ・・・・・」


「―――なにをそんなに溜め息を吐いておるのじゃ?」


「・・・・・鉄心か」


貯水タンクの下にいる老人、―――川神学園の学長、川神鉄心が一誠に話しかけた


「ふぉふぉふぉ、小島先生から連れてきて欲しいと懇願してきてのぅ。

―――今日はどの辺りから気付いていた?」


「はぁ・・・・・最初からだ。鉄心だって俺が此処に来る事を熟知して来ただろうが」


「お互い様じゃよ」


「・・・・・教室には戻らない。何時も通り此処で一日中風を感じて過ごすつもりだからな」


「はあ・・・・・お前さん、この学校に入学してテストや試験受けているのは

知っているのじゃが・・・・・・授業を受けずにいるのは感心せんのぅ」


「ふん、ちゃんと出席日数は確保してあるし、テストだって全科目100点を取ってある。暇つぶしに色々と

やったら簡単に俺がどれも一番だった。―――そんな俺に授業を受けろというのが可笑しいんだよ。

その上、強制的に俺を川神学園に入学させやがって何がしたい?何を学ばせたい?俺には不要な物ばかりだ」


「多馬川沿いに黄昏としているお主を一目で見て何とかしたいと思った老人の行為を無駄だというのか?」


「ああ、無駄だ。頼んだ覚えも無いのに勝手に此処に入学させやがって」


「そう言いつつもお前さんは此処に来ておるのはどういう事じゃ?」


「お前が来い来いってうるさいから渋々きているんだ。有り難く思えってんだ」


「・・・・・まぁ、そう言う事にしてやるわぃ」


「さてと」


「むっ、教室に戻るのか?」


「寝言は寝て言え、第2茶道室に行くんだよ。鉄心が俺のメインスポットに現れて邪魔だから

別のところに移動するんだ」


一誠は嘆息しながら腰まで伸びた髪を揺らしながら屋上から姿を消した。屋上に咲いている花に近づいて触れる


「・・・・・ワシはただ、お前さんの光となるモノを見つけて欲しくてこの学園に入学させたのじゃ。

何でもいい・・・・・お前さんの希望となるものを見つけてくれればワシは安心できるのじゃよ」


鉄心の呟きは花に向けられるが花はただ黙って綺麗に咲き誇るだけであった



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



放課後



「で、こんなところに俺を呼び付けて何がしたいんだ?」


「お前、頭が良いからって調子乗っているんじゃねえよ!」


「お前みたいな奴が学校にくるとこっちが迷惑なんだよ!」


「毎回毎回授業をサボるのなら学校に来るな!」


「そうだそうだ!というか、お前って不気味なんだよ!」


「・・・・・わざわざそれを俺に聞かせたくて呼んだのか?毎度毎度、他の奴等も俺を呼びだす度にそんな

言葉を聞かされて迷惑なんだ・・・・・」


「っ!この野郎!」


誰も滅多に来なく、死角に成っている場所に一誠は数人の男子にリンチを受けている。

一誠は反撃をしようとも避けようともしないで敢えて暴力を受けていた


「この『人形』が!少しは痛いって言えってんだよ!?」


「そんな拳じゃあマッサージ器の方がまだ気持ちが良いぞ」


「流石は『人形』だな!どれだけ殴っても蹴られても痛みも感じないなんて人形当然じゃないか!」


「じゃあ、これなんてどうよ?」


「・・・・・おいおい、金属バットで来るのかよ?野球部にちゃんと断わって持って来たんだろうな?」


「俺はその野球部に所属しているんだ」


「―――なるほど、余計なお世話だったな」


「その通りだ・・・・・よっ!」


ドガッ!


一誠の頭に金属バットが直撃した。すると頭から血が流れ出し一誠は地面に倒れてしまった


「お、おい・・・・・流石にこれはヤバいんじゃないのか?」


「だ、大丈夫だって、コイツは人形なんだぜ?何時ものように直ぐに起き上がって―――」


「貴方達!そこで何をしているで候!?」


「げっ!見つかったぞ!」


「逃げろ!」


数人の男達はその場から逃げ去っていった。擦れ違う様に一人の女生徒が駈けつけてきた


「大丈夫で候か!」


「・・・・・はあ」


身体をムクリと起こして首の骨をポキポキと鳴らした一誠は女生徒を見詰めて口を開いた


「・・・・・誰だ?」


「私の事よりあなた今イジメられていたで候に!直ぐに傷の手当てを―――」


「あんなことなら日常茶飯事だし今日は少ない方だった。何時もなら大体5、6人で寄って集って殴る蹴る、

鈍器を使ってリンチしてくるのにな」


「なっ!?」


一誠の口から信じられない言葉を聞いて女生徒は絶句した


「ふぅ、帰るか」


「っ!ちょ、待つで候!」


「・・・・・猫かぶっている奴の言葉を聞くかよ」


「―――っ!?」


「バレテいないかと思っていたか?残念だったな、俺はそう言う奴は直ぐに分かる」


頭から流れる血を拭き取り一誠は踵返してその場から離れる為に歩を進めた


「ま、まって!」


「・・・・・何だよ。というか、それが素のようだな」


「どうして先生に知らせないの!?」


「リンチに遭っていることか?だったら知らせる気なんてない。何でそんな面倒なことをしないといけないんだ・・・・・」


女生徒に呼び止められて嘆息する一誠。顔を真っ直ぐ凛とした雰囲気を持つ眼鏡を掛けた女生徒に向けた。

顔を向けられた女生徒は目を覆う髪の隙間から一誠の瞳を見て表情に出さずに心の中で絶句した


「仮に知らせたとしても変わるわけがない」


「でも・・・・・!」


「二度と俺に近寄るな。巻き込まれても助けはしないからな」


「・・・・・っ」


それだけ告げるとその場を去る一誠の瞳は悲しみに満ちていた



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



翌日―――2−F


「で、これが・・・・・になる。だから、これが・・・・・こうなるんだ」


「・・・・・」


2限目の数学、数学を担当する教師が黒板にチョークを走らせて問題の説明を教えながら書いていく。

そんな中、一誠はつまんなそうな表情を浮かべて机に足を乗せて窓から外を眺めていた


「(つまんないな・・・・・。また屋上に行くか)」


「―――おい、兵藤」


「(ん・・・・・?)」


「そんなに俺の授業がつまらないのか?机に足を乗せてずっと空を見て俺の授業を真面目に

聞こうともせずにいる・・・・・」


教師が一誠の傍に佇み問い掛けてきた。その表情は怒りに染まっていた


「ああ、眠たくなる程につまらないな。既に知っている事を復習されても

覚えているから聞かなくてもいいと判断している」


「っ!なら、これは解けるか!?」


教師が黒板に問題を書き始めた。一誠は席に立って黒板に近づきチョークを取って問題の答えを書き始めた。


「ん」


答えを書いた黒板を見て唖然とした表情を浮かべる数学の担当をする教師。

どうやら自分の中で最高に難しい問題を出したようだった


「つまらない問題を書かせてどうもすいませんでした」


問題を解いて席に座る一誠はまた空を眺め始めた。教師は顔を真っ赤に染め上げて身体を

震わし口を開こうとした瞬間


「兵藤―――」


キーンコーンカーンコーン


「・・・・・授業は此処までだ」


授業の終わりを告げるベルが鳴った。一誠を睨みつけるように一瞥した後、教室から退出する


「・・・・・」


彼は相変わらず空を眺めていた。そんな一誠に近づく女生徒が現れた


「ちゃんと授業を受けないと駄目じゃないですか!先生が怒っていましたですよ!」


「・・・・・」


「兵藤君、委員長である私の話を聞いていますか!?」


「・・・・・なあ」


「はい?」


「お前―――誰?」


「はわわ!?同じクラスに成って日が経つというのに私の名前を知らないんですか!?

私の名前は甘粕真与ですよー!ちゃんと覚えてください」


「・・・・・ああ、チビの委員長か」


「ち、チビじゃないですよ!皆より私はお姉さんなのです!」


「で、チビは俺に何か用か?無いなら話しかけてくるな。ウザいんだよ」


「だからチビじゃないです!私は兵藤君の授業の態度を直して欲しくてこうして

話しかけているではありませんか!」


「それはご苦労様。あいにく俺に命令できるのは俺自身だけだ。赤の他人に聞くほど俺はできちゃあいない」


「あ、赤の他人・・・・・!?」


「・・・・・」


「うっ、ぅぅぅ・・・・・」


「ちょっと!何もそこまでいう事はないじゃない!」


「俺様も聞いていてそうだと思うぜ」


ウェーブの掛かった髪の女生徒と筋肉質の男子生徒が一誠に近づき異を唱えた


「俺に話しかけてくるなよ。・・・・・面倒くさい」


「はあ!?何それ、真与に謝りなさいよ!」


「俺は此処のクラスに転入した際に言った筈だ『絶対に俺に関わるな、話し掛けるな、触れてくるな』とな」


「だからってあんな言い方はないじゃないのよ!」


「赤の他人だろう?此処まで俺の言った通りに誰も俺に関わらず、話し掛けずに、触れてこなかったからな。

完全に無関係なクラスメートとして居られた、そこは感謝している」


「・・・・・てめぇ」


「ん?」


「俺様と決闘をしろ!」


一誠の机に筋肉質の男子生徒がワッペンを叩きつけた


「・・・・・何でだ?決闘をする理由が理解できない。というかいきなりすぎだな」


「理由なんて関係ねぇ!ただお前を負かして委員長を謝らす!ただそれだけだ!」


「・・・・・」


ガリガリと頭を掻いて嘆息しながら一誠は席から立ち上がり


「決闘なんて面倒くさい事はゴメンだが・・・・・しょうがない。余興ぐらいにはしてやるよ」


ワッペンの上に自分のワッペンを乗せた


「決闘は放課後で良いな?」


「勝手にしろ。あー、決闘なんて面倒くさいなぁ・・・・・。自由気ままにのんびりとしたいだけなのに

何でこいつと戦わないといけないんだよ」


愚痴を零しながら屋上に行こうと心に決めた一誠は教室から出て行った。


「ガクト、決闘を申し込んで大丈夫なの?」


「心配するなよ。俺様が絶対に勝つ!」


「僕は止めた方がいいと思うよ。何ていうか、不気味であまり近寄りたくないんだよね。

人付き合いが悪そうだしさ・・・・・」


「そうかぁ?俺は別にそんな感じはしないけどなぁ」


「キャップはその性格だからそんな風にいられるんだよ」


「あいつ、どことなくモロと似ているよな」


「それは一体どう意味なんだよ!?というか、似ていないよ!」


「ナイスツッコミ」


「まあ、ガクトが決闘するんだ。俺達は応援すればいいだけさ」


「そうそう、大和の言う通りだ!全員、しっかりと俺様の活躍を見てくれよな!」


「今回だけは私も応援するわ。真与の為に頑張ってくれるんだからね」


「おう!そして、あいつに勝ったら俺様はあつーい視線が浴びられるんだ!ぐっふっふ・・・・・」


「・・・・・やっぱり止めたわ。こんなキモ男に応援するなんてバカみたい」


「み、皆さん・・・・・」


「真与、どうしたの?」


「次の授業が始まっていますよ・・・・・だから席に座ってください」


「んあ?次の授業と言ったら・・・・・日本史だよな?」


「その通りでおじゃる」


「げ・・・・・」


「―――島津岳人!早く席に座るでおじゃる!貴様だけ席から立っておるのは!」


「す、すいませんでしたー!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



―――放課後



「これより川神学園伝統、決闘の義を執り行う!」


グラウンドで兵藤一誠と島津岳人が対峙していて決闘が始まろうとしていた。二人の周囲では見物に来た

川神学園の生徒達が大勢いた


「二人とも、前へ出て名乗りを上げるが良い!」


「2年F組、島津岳人!」


「・・・・・2年F組、兵藤一誠」


二人が名乗り上げた。


「ワシ、川神鉄心が立ち会いのもとで決闘を許可する。勝負がつくまでは、何があっても止めぬ。が、

勝負がついたにも関わらず攻撃を行おうとしたらワシが介入させてもらう、良いな?」


「ああ!」


「勝手にしろ」


二人は承諾した。鉄心は二人の言葉を聞いて


「いざ尋常に―――はじめいっ!」


決闘の合図を告げた


「先手必勝っ!」


ガクトが一誠に向かって駈け走った。対する一誠はその場で佇むだけであった


「ハンサムラリアットォォォォォ!」


「・・・・・」


一誠はポケットから二つの機械を取り出した。スイッチを押すとバチバチと音を出し始めた。

ガクトはその機械を見て急停止した


「っ!スタンガンかよ!?」


「俺は力がないからな。正当防衛のためにこれを持っている。学長にも許可をもらっているから大丈夫だ」


「ちぃっ!接近戦は俺様の領域だっていうのにスタンガンなんて最悪じゃないか!」


「そっちがこないならこっちから行くぞ」


駈け走りスタンガンをガクトに突き出した。


「うおっ!?」


「・・・・・」


突き出し、上下左右に振り払い、身体を捻って突き付けようとガクトにスタンガンで攻撃するが、

ガクトは紙一重でかわし続ける


「あぶね!だが、その攻撃の速度じゃあモモ先輩の方がもっと速いぜ!」


「・・・・・」


「くらえ!俺様の拳を!」


スタンガンを突き出した一誠の一瞬を突いて捻り上げるように拳を一誠の腹部に突き出した。


「・・・・・」


「本当に『人形』みたいな奴だ、痛みや苦しさを表情に出さないなんてな・・・・・。

学園の掲示板でお前の事を『人形』って書かれているってモロから聞いていたけどな」


「・・・・・その通り、俺は『人形』さ。だからお前の攻撃なんて効かないぞ」


「じゃあ、お前が倒れ続けるまで思いきり殴り続けてやるぜ!」


「やってみろ」


スタンガンをポケットに仕舞い込んでガクトに跳び込む。ガクトもそれに応えて一誠に跳び込む


―――数分後


「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・」


「・・・・・」


疲労困憊で全身汗だらけのガクトに対して制服に土や血で汚れて地面に倒れている一誠。


「そこまで!勝者、島津岳人!」


鉄心の言葉に観戦していた生徒達は歓声が沸いた。ムクリと起き上がった一誠に近づくガクト


「・・・・・」


「んじゃあ、委員長に謝ってもらうぜ?」


「・・・・・そんな約束をした覚えも無いのにどうして俺が謝らないといけないんだよ?」


「なっ!?」


「俺はお前と決闘をしただけだ。勘違いをするな」


「て、てめぇ!」


「じゃあな」


一誠は踵返してグラウンドから離れた



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



―――多馬川大橋



「全く、面倒な決闘だった」


『あれだけでもう疲れるとはまだまだ鍛え足りませんね』


「そうだな」


『弱い人間を倒しても意味が無いしねぇー』


『この世界には主に敵う者など存在しない』


『その通りだ』


「・・・・・しょうがないさ。戦争や死闘なんて殆ど無関係な暮らしをしている人間が星の数ほどいる」


『・・・・・今日は何処に行きますか?』


メリアは『帰る』ではなく『何処に行くのか』と聞いてきた。帰る場所はある。だけど、

『あの場所』は戻らないようにしている。


「『親不幸通り』に行こうかな。視察を兼ねて何処かで暴れている奴がいたら潰さないと」


『・・・・・ところで主の跡をついてくる人間がおりますが・・・・・』


「・・・・・放っておけ」


『昨日、一誠に声を掛けてきた人間だね?』


『物好きな人間もいるのだな。主が忠告したのに関わらずにそれを敢えて近づくとは・・・・・』


「ホント、変な奴だよ」


川神駅の裏側の街、堀之外に赴く。その最中でも昨日、俺に話しかけてきた女生徒は跡を

追ってきた。・・・・・一体、俺に何の用なんだ・・・・・?そう怪訝に思いながら歓楽街へ足を進めて

通称、親不孝通りに辿り着いた


「・・・・・」


人気が無い所に入って親指と人差し指を口の中に入れて高らかに口笛をした。数秒後、

鳥や鼠などの小動物達が何処からともなく俺の周りに集まってきた


「さて、今日のお前達が集めた情報を教えてくれ」


鞄の中から大量のエサを鼠や鳥達の足下に置きながら情報を教えてもらう。


「・・・・・変な薬がこの街にまわっている・・・・・?

他に板垣3姉妹が派手に暴れている・・・・・あとはあるか?」


「チュー、チュー」


「カァー、カァー」


「チュン、チュン、チュン」


「・・・・・なるほど、分かった。引き続き情報を集めてくれ。お前等も何か見て聞いたら

俺のところに飛んで来てくれ。エサも用意するぞ」


小動物達は一際鳴くとエサを咥えて俺から離れて行った。腰を上げて歩を進め小動物達の情報をもとに

とある建物に向かう


「・・・・・此処か」


倒産して廃墟となった建物に辿りつく。真正面の入り口には如何にもガラの悪い男達が数名ほどいた・・・・・。歩を進めて堂々と近づく


「止まれ」


「ん?」


「お前のような奴が此処に来るようなところじゃねえよ。さっさと失せろ」


「はは、悪いな。俺はこの中に用があるんだ。―――人身売買に興味があってな」


「っ!何処でそれを知った・・・・・!?」


「だから通させてもらうぜ」


「・・・・・良く見たらその制服は川神学園のじゃねぇか」


「その通りだ。金ならいくらでもあるぞ?」


鞄から二つの札束を見せつける。札束を渡すと男達の目の色が変わり、口の端を吊り上げた


「はは、こいつはとんだ客が来たな。いいぜ、案内してやるよ」


「話が解る奴で助かる」


「金のある奴は大歓迎だ。おい、案内してやれ」


「へへっ、こっちだ」


一人の男に建物の中に案内される。建物中は薄暗く、床に汚く様々な物が散らばっていた。男の跡を追うと

地下に繋がるエスカレーターに向かっていた。男がエスカレーターを降りると俺も続いて降りはじめ

黙ってついていくと扉が見えた


「この扉の向こうで取引をしている。既に売り物を買いにきている客がわんさかいるぜ?」


「どんな奴何だ?」


「裏や闇側の人間の間じゃあ知らない奴もいれば大物の奴もいる。此処は色々な物を裏から売っているんだ。

武器や人間、盗品とかな」


「へぇ、面白そうな物もあるか?」


「それはこの中に入ってからのお楽しみだぜ?」


男が扉を開け放った。―――中はパーティ会場みたいに広く、数多のテーブルや料理、様々なスーツを着込む

男達が座っていた。・・・・・どいつもこいつも厳つい顔や気持ち悪い顔の男もいれば

イケメンの男もいた。・・・・・ライザーみたいな奴もいたことに苦笑を浮かべた


「まだ始まっていなかったようだな」


「売買の仕方は?」


「あまり時間を掛けられないから一気に売り物を出して人、物、武器と分けて売り出す。最初は武器、

その次に物、最後に人が売りだされる」


「ふーん」


「お、そうだった。これを持って言わないと買えないぞ」


俺に渡してきたのは人、物、武器と書かれた旗だった


「おいおい、客にそう言う大事な事を忘れるなよ」


「申し訳ございません。・・・・・と、どうやら始まるようだぜ」


『えー、お待たせしました。これよりオークションを開催したいと思います。パパッと品物を出しますので

品物を見て購入したい方はお手元の旗を翳して購入額を申し上げてください』


・・・・・何気に適当な奴だな


『それではまずは武器から始めます!』


闇のオークションが始まった。武器と物には興味もないので隣に佇む男と話しこんでいた。―――そして、

ようやく人のオークションが始まろうとした。ステージの上に歩く約30人以上の幼女、美少女、美女、

美人の人達。全員の顔は絶望と悲しみ、瞳に生気が無い人もいればどうして此処にいるのか分からないと

言った表情を浮かべる人もいた。


『今回は初めてのオークションということで選んで選び抜かれた人をご用意いたしました!品には指一本も

触れていませんので処女でございます!購入された方は思う存分調教しても構いません!』


・・・・・クズだな。あの野郎・・・・・と思っていたら一人の男が司会者に耳打ちをした。男はその内容を

聞いて頷くともう一人の男も頷いてから立ち去った。


『えー、此処で新たな商品が届いたという知らせが参りました。では、その商品もオークションに

出そうと思います!どうぞ!』


司会者がそう言った瞬間、この会場に新たな女性が入ってきた。俺はその女性を見て驚きを隠せなかった。

―――何故なら


「くっ!放すで候!」


「ちっ、暴れるんじゃねえよ!」


何で、何でお前が此処にいるんだよ!?


『えー、彼女はこの辺りにうろついていたようなので私の同僚が連れてきたようです。しかも彼女はあの

川神学園の生徒という事がまた驚きです!今回の目玉は彼女に成るでしょう!』


・・・・・ちっ!面倒なことになったな!


「おいおい、お前と同じ通う学校の女じゃないか?これはまた偶然だなー」


「ああ、そうだな。どうして此処にいるのか俺も驚きだよ」


「で、お前は人を買いに来たんだろう?どの子を買うんだ?」


「ああ、もう決まっている」


「お、もう決めていたか。早いな。どの子にしたんだ?」


「聞いてからのお楽しみだ」


『それでは、「人」のオークションをします!「人」をご購入したい方は「人」の旗を上げてください!』


半数の人間が『人』の旗を上げると同時に俺も『人』の旗を上げた。


『それではまずは10万から始めたいと思います!』


いちいち、こいつらに合わせるの面倒だ。直ぐにチェックメイトをしよう


「―――30億だ」


「「「「「「「「「「―――っ!?」」」」」」」」」」


『・・・・・はっ?』


「そこにいる全員の女達を30億で買う」


この場にいる全員の視線が俺に集中した。俺は無視して司会者がいるステージに上がって近づく


『あ、あの・・・・・本当に30億の金で買うのですか?この品物達を・・・・・』


「不満か?金なら―――あの男の隣に置いてあるぞ?」


「へ?・・・・・あ、何時の間に」


男の足下に大きなアタッシュケースが三つ置かれていた。男に持って来させて司会者の前に開けると

ビッシリと入った大量の札束があった


『・・・・・』


「お前等に聞こうか。俺より金額を出せる奴がいるのなら名乗りを上げろ」


「「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」」


「司会者、落札って事で良いな?」


『えっ、あ、はい・・・・・問題ありません』


「ん、それじゃあ、こいつらは俺の物だな。―――後は」


『へ?』


「お前達を捕まえるだけだ」


司会者をステージから押して床に倒れ込むと同時に男達の足下が暗闇に広がった。―――刹那、

ズブズブと底無し沼のように足が沈んで行った


「な、なんだ!?これは!」


「お、お前!まさか、最初から俺達を・・・・・!?」


「ああ、お前達を捕まえに来た。外にいる見張りの奴も今頃は暗闇に捕まっているだろうさ」


「う、撃て!撃ち殺せ!」


沈みながらも男達は銃を手に持って俺に向けて引き金を何度も引いた。腕を突き出して金色の巨大な魔方陣を

ステージ中に展開して弾を弾いた


「っ!?な、何なんだよ、お前は!?」


「川神学園に通う兵藤一誠。別に覚えてなくても良いぜ?闇に呑まれたお前等が最後に待つのは

―――死だからな」


「―――っ、い、いやだ!死にたくない!助けて、助けてくれぇぇぇぇぇ!」


「また会おうな」


「あああああああああああああああああああああああああああっ!」


それを最後に会場にいた男達は闇に沈んで姿を消した。残るのは盗品と武器、オークションとして連れて

来られた人達だけだ。女性達に振り返り、空間を歪ませて穴を生じてそこに手を突っ込んで剣を取り出す


「ジットしていろ。いま、自由にしてやるからな」


一閃、二閃と女性達を拘束する物を斬って彼女たちを自由にした


「・・・・・あの」


「なんだ?」


「私はあなたに買われた。私はどうすればいい・・・・・?」


「ああ、自由に生きていけ」


「え・・・・・?」


「俺は元々お前等を助ける為に此処に来たんだ。あの男達も捕まえるのも目的でもあった」


「じゃあ・・・・・」


「お前等はもう自由だ。自分の家に帰るなり、親の許へ帰るなり好きにすればいいさ」


「・・・・・本当に」


「ん?」


「本当に私達は助かったの・・・・・?自由なの・・・・・?」


「俺がお前等を助けたんだ。自由に決まっているだろう?」


「うっ、ぅぅぅ・・・・・。うわあああああああああああああああああああああんっ!」


突然、一人の少女が泣き始めた。それが呼び水となって他の少女たちや女性達も泣き始めた


「あー、もう、泣くなよ・・・・・」


「だって、だってもう、此処に連れて来られた時にはもう私は終わったんだと思っていたから・・・・・

でも、貴方が助けてくれたから助かったんだと思った瞬間に・・・・・!」


「はいはい、怖い思いをしたな。もう怖い思いはないから安心しろ」


「ありがとう・・・・・!ありがとう・・・・・!」


「・・・・・」


ありがとう・・・・・か、久しぶりにそう言われたな・・・・・。・・・・・まあ、そんなことより


「取り敢えず、お前ら全員は俺の家に来てもらうぞ。お前等の家の場所を教えてもらって送らないと

行けないからな」


ステージに巨大な魔方陣が現れて神々しい輝きを放ち始めた。その瞬間、俺達は闇の会場から姿を消した

-3-
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