非常灯で赤く染め抜かれた通路を駆け抜ける。
ラボは今どうなっているのか。協議に参加したメンバーは、他の研究員は無事なのか。すぐにでも戻って確認したかった。
だが、今は自分達の事で精一杯だ。無事を祈る事しか出来ない。
「カノミ、こっちだ!」
バーナー主任が扉を指し示す。構造から察するに、耐爆扉だろう。
俺は周囲を警戒し、気配を伺う。
背中に庇ったアリシアの息遣いが聞こえる。疲れてはいるが、怪我はしていない。
「……誰も居ないな。よし、行くぞ」
バーナー主任の合図と共に、扉へ向かって走る。
扉の横、明滅する電子キー。コードを打ち込んで、認証――されない。ネットが切られているせいだろう。
「レバーが有るはず……これか!」
カバーを叩き割り、手動開閉レバーを思い切り引く。ややあって、扉のロックが外れた。
(システムが根こそぎダウンしているなんて……)
頑強な扉を押し開けながら歯噛みする。
「ケイジ、誰か来る」
アリシアが囁く様な声で告げる。
咄嗟に銃を構え、足音に耳を澄ませる。
ゆっくりと、しかし確実にそれは近づいて来る。踏み込まれれば終わりだ。
「主任。アリシアを頼みます」
迎撃するしか、ない。
二人が逃げる時間くらいは稼げるはずだ。
「ケイジ……!」
アリシアの引き留める様な声を背に、俺は通路へと向かう。
深呼吸。
やれる、と言い切れる程自信はない。だが、ここで全員やられるよりは、マシだ。
「……ッ、動くな!」
相手は人間だった。見慣れた服を着て、そこに立っていた。そして、それは――。
「カノミ君か」
バイルシュタインだった。
「危うく撃つところでした。どうしてここに?」
敵ではなかった事に安堵する。背後に誰も居ない事を確認し、銃を収める。
「訳も解らず逃げていたら君達を見つけてな。ナビも使えんし、同行させて貰おうと思って」
「他の人達は?」
「解らん。俺はあの後自分の研究所へ向かったからな。他のメンバーとは一緒じゃなかったんだよ」
「……そうですか」
だが、彼の安全が確認出来ただけでも良かった。行動する人数が増えれば心強い。
「ここから出られるぞ。……君は、バイルシュタインだったか」
「ええ。同行させて頂きますよ、主任」
合流出来て安心しているのか、それとも余裕が有るのか、バイルシュタインは笑みを浮かべていた。