鞠愛が一つのドアをポケットから鍵を使って開ける
玄関には靴が一足も置いておらず、洗面台には食器と共に冷凍食品のゴミが放置してある
「あんまり見ないでね、散らかってるから・・・」
鞠愛が恥ずかしそうに頬を掻く
「御両親は?」
あたしは無遠慮に鞠愛に疑問をぶつける
鞠愛は拳を握り締め、首を横に振った
______亡くなったということだろう
鞠愛が一室のドアを開ける
そこにあったのは一組の男女の写真
あたしの予想は悪いほうだけ的中していた
きいん、と耳鳴りが鳴り始め、鞠愛の言葉がよく聞こえなくなる
「祥二・・・さん」
あたしは写真の男の名前を呟いた、鞠愛の目が見開かれる
あたしはこの男に会ったことがある
あたしはこの男の声を聴いたことがある
五歳の夏の、幸せだった七日間
『瑠樹』 『大きくなったなあ』 『瑠樹・・・幸せになれ』
あたしは写真から後退していく
まさか、だって、こんなこと・・・
壁に背中がつき、1つの事実へと結びつく
「いやああああああああ!」
あたしは床に落とした鞄を引っ掴むと、
鞠愛を押しのけてアパートの階段を駆け下り、住宅地を走り抜けていった