小説『ファミリア!』
作者:レイ()

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嘘だ、嘘だ・・・ッ、どうしてこんなことが起こってる?
脳味噌が沸騰しそうな勢いで色んな事がフラッシュバックする

印鑑に刻まれた『柏本』の文字
何より、あたし自身の幼いころの思い出

あたしの中で拒絶反応が起こりながらも、何度も1つの結末に辿り着く

こんなことがあってたまるか・・・
自動販売機の陰に隠れて身を投げ出し、肩で息をする
嫌だ、もう何も考えたくないーーーー

どのくらいそうしていただろうか、アスファルトに手を付き、歩道によろよろと立ちあがった
深く息を吸い込み、鞠愛が住んでいるアパートを振り返る
足は自然に反対に進んでいた

あたしはマンションの螺旋階段を冷たい手すりを持って上っていく
所々鉄がむき出しになっている手すりには、微かな霜が降りていた

リビングを通り過ぎようとしたとき、不意に肩に衝撃が走った

「祥二さん!!帰ってきてくれての・・・」

何年ぶりに見たかもわからない母親の笑顔、それを確認できたのも一瞬だった
母親が眉根を寄せ、奥歯を噛み締める

「どうしてアンタなの・・・アンタなんか居なくていいのに・・・!」

母親の顔が、蒼白に、苛立ちに、狂気に満ち溢れていき、細い指があたしの肩に捻じ込まれていく
母親は徐に近くにあった花瓶を掴み、あたしの頭に思い切りよく振り下ろした

『ガシャアアアアアアアアアンッ』

痛い、どころの話ではなかった
花瓶の鈍痛、その破片が皮膚に突き刺さる、頭を真っ二つに切られるような痛み
外側に、内側に、潰れた血管から血が溢れていく

あたしは母親を巻き込んで廊下に倒れこむ
母親が鈍く頭を打つ音が遠くに聞こえた

まだ死にたくないッ・・・!
目の前の母親の顔さえまともに見れない状態で、指が微かに動いたのを感じた

あたしは最後の力を振り絞り、螺旋階段まで這って行く
意識が薄れ、自分の血で足場が滑った
そのまま階段を転がり落ちていく

あ、これ・・・本当に死ぬかも・・・

-9-
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