小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

僕の発言がかなり衝撃的だったのか、そのコンサートの後、友達は怒ることもなく何も言い返さなかった。怒る気にもならなかったんだと思うけど。それでもまだこの時まではまだ話しかけてくれたりはしたのだが。
 昔から、僕はあまり喋ることがなかった。無口というわけでもないけど、思ったことをすぐ口に出せない口下手な人間だった。その分、頭の中でいろいろ考えあぐねて煮詰まった挙句、何かの拍子に爆発するのだった。本当のことでも、彼らには罪はなかったのだからこれは悪いこと言ったなと今でも思う。
 で、その問題の10月。赤や黄色に色づいた葉が木に生い茂る秋空の下、高校で年に1度のビッグイベントである文化祭が行われた。体育祭と並び、学生たちがはしゃぐ絶好の機会のひとつでもある。校庭のグラウンドや体育館、教室など学校のあらゆるところを利用して催し物が行われていた。
 2日間行われる文化祭で僕のクラスは出店をした。タコ焼きならぬイカ焼きを売ることになった。タコ焼きの生地の中にイカを入れるという今考えてみればなぜそんなことをしたのかわからないが、それをクラス総出で行った。そのクラスの中でやる日にちや時間の振り分けをしている中、僕は初日の午前中でしかも具材であるイカをひたすら切るというベストなポジションを手に入れた。面倒なことは早く終わらせてあとはボーっとしていたかったからとても良かった。
 文化祭初日の午前中、一緒にイカを切っていた同級生の中の一人、山中というやつがずっとイカ臭いイカ臭いと連呼して、何言ってんだろコイツと思いながらひたすらイカを一口サイズに切っていた。僕らの他にも食べ物を売る団体がいて、その人たちも調理していたから家庭科室は結構、狭苦しかった。一般の料理店の厨房もこんな感じなのかな。家庭科室は熱気と誰かに指示する声で賑やかだった。
 昼の12時半ごろ、交代する時間になってクラスの連中が何人か来た。僕はそれを見計らって一人足早に熱気のある家庭科室を出る。廊下の窓から校庭を見てみるとたくさんの人がごった返していて騒然としていた。賑やかだというのが妥当かな。
 姉から借りたピンクのハートの刺繍が所々にしてあるエプロンを適当に丸めてバンダナを取り、適当に歩き始めた。廊下にはたまに出店で使ったであろう紙コップやら何やらが落ちているのを見かけた。それらは学校が今文化祭モードであるということをかなり感じさせられた。
 歩きながら連なる教室を覗いてみてはこんなことやってんだと思いながらいると後ろから声をかけられた。
 「田中っ!」
 振り返ると例のコンサートの時の同級生だった。彼らのイカ焼き作りのシフトは2日目に入ってた。
 「今、音楽室で軽音のライブやってるんだけど見に行かない?」
 軽音楽同好会は毎年校舎の4階の音楽室を貸し切って交代しながらずっと半日ライブをしている。僕は一瞬断ろうかと思ったが、コンサートのことが頭に浮かんだ。まぁ付き合うぐらいならいいかな。
 「・・・う、うん。行こう。」
 

 音楽室の中そのものは電気が消えており、明りがついてるのはステージ上の照明だけだ。ここのドアを開けた瞬間叫ぶような喚くような歌声と音量を最大にしてあるエレキギターやらベースやらのうるさい音がして、僕は耳を塞ぎたくなった。
 ステージ前にはパラパラと人がいて手拍子したりとか、レイザーラモン並みにフォー!!とか言いながら叫んでいた。ああうるせぇ。
 歌ってたのは僕の1つ上の先輩の人のようで、まぁそうゆうのが好きそうなチャラチャラした人だった。曲はティーレックスの20世紀少年。
 「○※△×□ー!!」
 なんか英語の歌詞らしきことを歌ってるのは分かるのだが、ちゃんと歌えてないのとあと楽器の音の方が自分たちの声を上回ってて歌として成立していなかった。
 何だこれと思いながらとなりの同級生を見るとやはりノリノリだった。なんじゃそりゃよ。
 彼らがひとしきり歌い終わってステージを降りると入れ替わるように今度は見知った顔たちがステージに現れた。他のクラスの太田と若林、武元と他1人。太田はこれ見よがしにワックスを頭につけて髪型を加工していた。そんな彼らがギターやら何やらの準備に取り掛かる。少ない時間だったが明らかに観客の方を意識している感じだ。そして太田がマイクの前に立った。
 「ブルーハーツの、トレイン・トレイン。行くぜ!!」
 観客から大きな声援を受けて演奏スタート。やっぱり楽器がうるさい。それにさっきと同じように声がさほど聞こえない。よくそんなんでバンドなんてやろうなんて思ったな・・・・。
 「トレインートレインー、走って行けぇ〜!」
 僕は不愉快な気分に苛まれた。こんなんで、さもギターやってますって顔をされるのはシャクだ。
 歌が終わり、音楽室内はとても盛り上がっていた。一人、不愉快な気分に襲われている僕を残して。太田はまたしたり顔をしている。
 そうこうしているとステージの脇から何だか見慣れない男子生徒が蝶ネクタイをつけて、マイクを持って現れた。上級生かな。あっ、さっき20世紀少年のドラムの人だ。
 「こんにちはー!みんな盛り上がってるかーい!?」
 イエーイと観客は答えた。その上級生が続ける。
 「えーみんな盛り上がっていると思うけども、ここで、観客の人に今までのバンドの感想をインタビューしてみたいと思いまーす!ではまずそこのお嬢さんからぁー!!」
 急きょ始まったインタビュー。太田たちもまだステージにいる状態でだ。場を盛り上げるためなのかな。適当に目に止まった人に聞いていく。なんとなく悪い予感はここでしてたんだ。インタビュアーが僕のちょっと近くまで近づいてくる。もしかしたら僕にも来るかもしれない。僕はその時下を向いて誤魔化そうと思ったのだが、悪い予感は当たってしまった。

-13-
Copyright ©相模 夜叉丸 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える