小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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僕は文章を読み始める。タイトルと作者の名前から丁寧に。
 この手の文章も英文と同様、何度も読み込んでいくうちに慣れてくる。始めのうちは読んでいると辛くなることもあった。だが、今では何の苦も感じない。当然のことながら英文より楽。日本語だから。
 文章に書かれてることを頭の中で集中して読みこんでいけばいい。だけど、自分の興味の無い話となると少しだけ集中力が衰えてくる。日本人と礼儀について、興味のない話題というわけでもないが、かと言って興味があるわけでもなく。文章を読みながら周りの方向に視線が行ったり来たり。もうこの症状が現れると集中するのが少し難しくなってくる。文章は中腹まで読んだが、僕は文字を目で追うのを一旦やめた。
 視線は隣の先生に向けた。先生もこの文章を読みながら回答の解説を見ている。視線を机に落とし、頬杖をついてる。
 僕は、先生の横顔を見た。長くかかった髪が優雅な感じで、まるで絵に描いたような。相変わらず清楚な顔立ちだなぁ、なんて思いながら僕はペンを先生に気づかれないように机に静かに置いた。そして空いた右手をそっと先生の肩に持って行き、軽く叩いた。
 「先生。」
 先生がこっちに顔を向ける寸前に、先生の肩に置いた右手の人差し指を伸ばした。見事に先生の頬がプニっとへっこんだ。
 先生が目を丸くして呆然とした顔をした。
 「作戦成功・・・なんちゃって。」
 あはは、とわざとらしく笑ったが先生はそれには答えず、うふふと笑った。その直後、右手の赤ペンの先を僕のお腹に何度も軽く突いてきた。
 「集中しなさい、受験生!」
 
 「あはは・・・ごめんなさいごめんなさいっ。」
 先生も何だか、嬉しそうにニコニコしてた。



 8月の14日、夏休みも残り少ない。図書館と市谷スクールを往復する日々が続いたが、さすがにそれだけではちょっと嫌気がさす。一宮先生と話せるのは全然嫌じゃないんだけど、それでも気分転換は必要だ。 
 市谷スクールが14日から4日間の連休に入ったので、どこかに行こうと考えたが結局決まらず迷った末、最初の15日は自宅待機をすることにした。
 午前中はずっとご無沙汰してたギターを取ってずっと部屋で弾いてた。同じ曲を何回も何回も繰り返し、飽きるまでやった。1日中は無理だ。そんなにやってられない。
 午後は本当にやることも無く、ただゴロゴロしていた。インターネットでもあればいいのだが、親はパソコンを持つのを許してくれない。どうしても必要なときは隣の部屋にいる姉のノートパソコンを借りる。借りる際姉はいつも、エッチなサイト見るなよ、と言ってから渡す。少なくともあなたのパソコンでは見ないから安心しろ。
 その姉も今は会社で働いてるから、借りようにも借りられない。ゲーム機も無ければ漫画も持ってない僕は本当にやることがなく、ダラダラと、ベッドの上でだらしなくしていた。
 夕方の5時頃、母が台所に立って作業しているのが聞こえてきた。そうだ、テレビでも見ようか。
 階段を降り、ソファに陣取ってテレビをリモコンでつける。この時間帯だとニュースしかやっていない。フジテレビも、テレビ東京も、テレビ朝日も。番組の冒頭は、8月ということもあってか、戦争に関する話題が多い。だが30分も経ってくるとまた別の話題になった。殺人事件や強盗など。
 僕は何となくぼーっと見てると玄関が開く音が聞こえた。姉が帰ってきたみたいだ。
 「ただいまぁー。」
 でかい声でそう言うと姉は2階に駆け上がって行った。

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