小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

でもまぁ、田中君が後悔しない道を選べば良いんだからね。」
 先生はニコっと微笑んだ。
 塾の帰り道。僕はずっと、推薦か一般受験かのどっちを選ぶべきか悩んでいた。知らず知らずのうちに電信柱の近くに放置してある犬のフンを踏んでいることにも気づかず、ボーっと考えてた。
 推薦の長所は勉強をせずとも受験できること。さらに指定校推薦となると、落ちる率は少ないことだ。よっぽど変なことさえしなければほぼ確実に合格する。
 短所は、達成感が少ないことだ。特に、夏休みまで勉強してた僕にとって、とても宙ぶらりんな感じになると思う。不完全燃焼というやつだ。正直、楽して大学入ったと思われたくない。いや実際に楽なんだが。それに、受かろうが受かるまいが何かの為に必死になってやり遂げるというのは結構かっこいいと思う。そうゆう思いがが僕の後ろ髪を引く。
 1週間弱くらい経っても、なかなか考えがまとまらない。食事してる時も、学校にいる時も。ずっとそればっかり考えてる。学校内の選考委員会は今月の末だ。だから少なくともあと5日後くらいまでにどうするかを決めなければならない。
 「・・・。」
 どうしよう、どうしようと考えてた。

 こんなにうまい話は無いぞ。

 先生のあの言葉が引っ掛かる。大学と学部はどんぴしゃ。お前なら確実に取れる・・・?
 「・・・・。」
 これが転がってきたチャンス?千載一遇のチャンスなのかな。・・・でも、勉強はどうしよう。一宮先生があんだけ教えてくれたのに全部無駄にするのか?でも、先生は後悔の無い選択をしろって言ってくれてるし。うーん、千載一遇のチャンス・・・か。これを逃したら後は無い・・・。
 「・・・・・僕、推薦受けるよ。」
 家族の夕食。僕は箸を持ちながら言った。両親と姉は動きを止めて僕を見た。僕は箸を静かに置いた。そしてサッと立ち上がり、高らかに宣言した。
 「田中、受っけまーす!!」

 「・・・あっ、ああ。そうか。・・・とりあえず、席に座りなさい。」
 白髪交じりの父は僕を静かになだめた。
 

 「・・・そう。じゃぁ、11月の始めくらいまでには決まるのね?」
 9月の下旬、再び塾にて。僕は一宮先生に推薦入試の申し込みをする旨を報告した。吉田先生に推薦入試を受ける旨を伝え、学内の選考会に申し込み書を提出し、見事に通った。先生方も何の反論も無く推薦すると言ってくれたぞと吉田先生は興奮して言っていた。あとは提出書類を貰って、10月の12日までに出せば良いそうな。そうか、推薦かぁと、先生は呟く。
 「私の高校も推薦枠なんて少なくてね。ほんの一部の人しか取れなくて。良いじゃない。」

 「でも、なんだかなぁって気はするんですよね。この不完全燃焼感というか・・・。先生にもなんか申し訳ないなと。必死で勉強教えたのに結局、推薦で大学行きますってのも。」
 先生は僕を見ていやいや、と否定した。
 「そんな申し訳ないなんて。だから前も言ったように受験勉強が大学の全てじゃないわ。大学に入ってからが大事なんだから。そんな引け目を感じる必要なんて・・・。」
 納得してないような顔をしてると先生は僕に微笑みかけて。それに、と言って僕の頭をクシャクシャと撫でた。
 「推薦されるくらい田中君に実力があるってことでしょ?もっと自信持って。」

-31-
Copyright ©相模 夜叉丸 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える