小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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「たっだいまぁ〜。」
 家に入ると父と姉がリビングでくつろいでて、母は台所にいた。3人とも僕を見るなりお帰りと言った。2階に上がろうとすると姉がソファから僕を呼び止めた。
 「ちみ、なんかご機嫌だねぇ。どうかしたのかぁ?」
 僕は大声で叫んだ。
 「なんでもありましぇ〜ん。」
 そして、10月の12日の朝、僕は郵便局にいた。受付カウンターの向こう側は書類が山積みされたデスクが並んでいる。職員室みたいだ。僕は、測量計がある受付に向かった。そこに向かうと郵便局員のおばさんが僕をみるなりいらっしゃいと言った。
 「どうゆうご用件でしょう?」
 僕は、手に持ったB5の封筒を差し出した。
 「これを速達でお願いします。」

 「かしこまりました。」
 おばさんは測量計の上に封筒を乗せた。僕は計量してる間に壁のポスターなどに目をやっていたが、すぐに計量は終わった。
 「この重さだと1200円になります。送り先は專教大学入試係様でよろしいですね?」

 「はい。」
 僕はお金を払い、郵便局を出た。外は秋晴れ、心地いい。雲が呑気に泳いでいた。
 もう僕のやるべきことは終わった。散々添削の作業をして作成した志望理由書、あれさえクリアすれば專教大には確実に入れる。 さてこれからどうしようかな。
 「TOEICとかあるじゃない。それをやってみるのも1つありかもね。」
 一宮先生は筆箱にペンを入れながら答えた。
 「TOEICか・・・。」
 言わずと知れたTOEIC。ちなみに僕は英検しか知らなかった。
 「というか、その前に受かるかどうかを気にしなきゃ。受かるのが前提なんだろうけれど・・・。」
 先生は僕を見て言った。
 「大丈夫です。先生がお守りくれたんで。」
 僕は財布にお守りをつけることにした。だから僕は財布をポケットから取り出して先生に見せた。先生はそれを見てふふっと微笑んだ。
 僕はなんだかあの日以来、先生が見せる何気ない笑顔ですらちょっとキュンとくるようになってしまった。今も僕は平気の顔をしてるけど、内心はなんだか嬉しいような恥ずかしいような気分がする。先生はあまり大した意味は込めてないんだと思うけど僕は先生が先週、僕の握った瞬間から今まで以上に先生との距離が縮まった気がする。本当に先生と話すことが喜びに変わってしまったらしい。先生はどう思ってるんだろう。
 「本当にありがとうございます。」
 僕は先生にまたお礼を言うと先生は何も答えずはにかんで、僕の頭をクシャクシャと撫でた。
 

 昔、ボキャブラ天国で一世を風靡した芸人の一人が+・−理論というのをラジオで言ったのを聞いたことがある。たとえば、ある男が道端で500円を拾ったとしよう。その男は気を良くして、今度は500円を倍にしようと思って宝くじで500円分のくじを買ったが、見事にかすりもせずに外れてしまった。
 良いことがあって浮かれてると必ず悪いことが起きるという戒めだ。逆も然り。塞翁が馬という諺が一番この戒めに近い意味を持つだろう。
 先生にお守りを貰ったことは本当にうれしいことだったが、ちょっと浮かれすぎてたのかもしれないと思わせた事件が起きたのだ。それは10月も下旬に差し掛かってちょっと肌寒さを感じるころ、風がよく吹いていた日だった。
 僕は午後5時半頃、最寄駅から3つ先の駅の近くにある書店でTOEICの問題集を見に行っていた。家の近くには古本屋しかなかったから、何か買いたいものがある時はそこに行っている。その日に何かいいものがあれば買ってしまおうと思っていたのだが、事前情報も無しに行っても見極められない。僕は一通り目を通したが結局決まらず、そのまま帰ることにした。
 電車に乗って帰り道、日も暮れて夜になり一番星が見えた。僕は家のある住宅街に向かって坂を下っていた。街灯に明りが灯り、暗い夜道を照らし、風が吹いて道の落ち葉がガサガサと音を鳴らした。
 僕はその中を歩いていると、背中に何かコツンと石のようなものが当たった。僕は最初、どんぐりでも当たったのかと思ったが、こんなに重たいどんぐりはあるはずがない。僕は後ろを振り向いて下を見てみると案の定石だった。僕は石が飛んできた方向を見るとどうやら人がいるらしい。目を凝らして見てみると、3人いる。こっちに向かって歩いてきた。僕はそのシルエットに見覚えがあった。誰なのかを思い出す前に彼らは僕の前で止まった。誰なのかを思い出す必要など無かったみたいだ。僕は身構える。そして、そのシルエットの1人が前に進み出た。街灯にそいつの顔が照らされた。
 

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