小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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思春期の脳内を時折占めるのはその手の妄想だ。男女問わず考え出したら悶々としてしまう。よくあることだが、さすがに初対面の人にそんな妄想をかぶせる自分に愕然としながら帰りの電車に揺られていた。
 先述の通り、僕には友達という友達が木南くらいしかいないので、5時間目のことは誰にいじられることも無く、馬鹿にされることも無くといった感じだった。
 僕の家の最寄り駅に着いて、いつもの道を歩いた。商店街の賑わい、民家の脇にある植木鉢と花。今日も相変わらずだ。日も傾き、日光が薄い橙色になっていた。
 「ただいま。」
 玄関を開け、中に入っていくと母がエプロン姿でオタマを片手に台所で調理をしている。そしてリビングで姉が短パンと青いTシャツ姿でソファに座ってグダっとしてた。お風呂上りなのか少し石鹸臭かった。
 「おかえり。」
 母と姉が僕を見るなりそう言った。僕はだらしなく座る姉の隣に腰掛けた。
 「今日は早かったんだね。」
 僕は学ランのボタンをはずし始めた。それを聞くなり姉はあれっと少し驚いた様子を見せた。
 「今日もともと休みの日だったの。カズ君がいない間羽をのばさしてもらいましたねぇー。」
 ふーんと僕は関心なさそうに適当に返して足を伸ばした。その後ちょっと沈黙し、あ、そうそうと姉は思い出したようにあのことを口にした。
 「塾どうだった?先週は何にも言わずに帰って来たからさ。」
 僕はゆっくりと姉のほうに顔を向けた。予測どおり姉は小憎らしくニヤニヤしながら八重歯を覗かせていた。
はぁ、と僕はため息をついた。
 「うん、なんとか頑張っていけそうだったよ。」
 僕は回避した。姉が聞きたいであろうことはそんなことではない。姉は予想通りいやそうじゃなくてさ、と僕の肩に手を置いた。
 「先生、どんな方でしたかっ。」
 姉はわざと僕の耳元で大きな声を出した。
 「先生?」
 
 「そ、先生。」
 僕はソッポを向きながら小さな声で女の先生と答えた。すると姉は肩においていた手をどけた。
 「あっ、そうなの・・・・。」
 姉としては女の先生じゃなくてよかったねーとからかうつもりだったのだろう。が、本当に僕に女の先生が当たるとは本気では思ってなかったのだ。
 「まぁ、い、良いじゃない。ほら、あの、少しは耐性がつくんじゃない?」
 僕は再び姉のほうに頭を向ける。苦笑いしながら、手招きするように右手をひらひらさせてた。僕は姉を少し睨み、よく言うよ、と言ってやった。
 「からかってたくせに。」
 
 「い、いやぁ・・・あはははは・・・・。」
 誤魔化すために姉は必死に作り笑いをした。まぁ、なんというか。もちろん本気で姉に怒ってるわけではないが、ずっと睨み続ける僕の気を逸らそうとあのところで、と話題作りに姉が踏み込んだ。
 「先生ってどんな人なの?大学っていろんな人がいるじゃない?」
 僕は睨むのを止め、うーんと腕組みして必死に言葉を選ぶ、一宮先生は・・・・。
 「少なくとも姉さんより美人だったかなぁ・・・。」
 僕は顔を上に向けしみじみとした顔をしてみせた。姉はあ、そうゆうこと言うのね、と言っていた。
 「失礼しちゃうわ。私だってね学生のころは結構男のコにモテてたときもあったのよ。」
 
 「ほー、学生のころは。今はどうなんですか。和江お姉さま?」

 「い、今?今はねぇ・・・うーん。」
 僕は先程のことに対するプチ復讐を試みる。姉はまた困ったときの作り笑いにをしながら必死に言葉を探してたがとうとう見つけられなかったらしい。
 「皆、新入社員の女の子に気が行っているみたいですね・・・・はい。」
 ガクッと肩を落とす姉に僕は肩をポンと叩いた。
 「まぁ、どうしてもデートとかしたくなったら僕がやってあげるよ、疑似彼氏。」
 姉は頬を膨らまし、この野郎ぉっ、と言って僕の両頬をつねってきた。
 「いでででで、痛いって、痛い・・・。」
 乱闘している僕らを尻目に、母は野菜を切り始めた。
 
 

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