小説『Fate/Zero 探求者の聖杯戦争』
作者:sora()

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第四話  交差剣槍1



 闇夜を切り裂く剣戟の音。

 人の限界を超えた速さで戦い始めた二体のサーヴァントにアイリスフィールは言葉を失って、見ていた。否、それしか出来なかった。

 二体の英霊……セイバーとランサー。彼らが己の得物を振るうたびに風が唸り、倉庫の扉が歪んでいく。

 彼らが足を踏み降ろす度に地面はえぐれ、それらの衝撃は数メートル離れているアリスフィールに迄伝わった。

(すごい……)

 アイリスフィールは唯々そう思った。そして、彼女は自身の認識の甘さを実感せずにはいられなかった。



 ******

「すごいな……あのランサーのサーヴァント。アルトリアと互角にやり合っている」

 現在自分のサーヴァントと戦っているランサーのマスターをライフルのスコープを覗きながら探している切嗣の横にいるシオンが、霊体化したまま感嘆に呟いた。

 昔からセイバーの剣の腕を見てきたシオンだからこそ言える。

(さすがは三騎士クラスの一つか)

 ランサーの技量に僅かながら感嘆しているシオンの横で、切嗣はようやく、ランサーのマスターを発見した。

 幻影や気配遮断といった魔術的な迷彩で自分の位置を隠蔽していたが、機械仕掛けのカメラアイは防げていなかった。

 今まで自分が葬ってきた魔術師達と同じく典型的な魔術師だと、切嗣は判断した。

「舞弥。セイバー達の北東方向、倉庫の屋根の上にランサーのマスターがいる。見えるか?」

『……いいえ。どうやら私の方から死角のようです』

 まあ、自分が見られればそれで良いと考え、切嗣はランサーのマスターを射殺しようと、ライフルの引き金に指をかけ、

「待て、切嗣」

 シオンに声を掛けられて止まった。

「……どうしたシーカー」

 切嗣の問いかけにシオンは応えず、デリッククレーンの方をクイクイ、っと指さした。

 切嗣はライフルのスコープを覗きながらクレーンの方を見ると、

「ちっ」

 クレーンの上に髑髏の仮面に黒いローブを羽織った者……アサシンがいた。

「舞弥。クレーンの上だ……」

『……はい、今こちらでも確認しました』

 予期したことではある。別段、アサシンが倒されていないと言う事は先程のシオンとの会議で分かっていたことだ。

「思惑通りであるが、予想外だ」

 だが、アレがサーヴァントだと言う事が切嗣にとってはそれが予想外だった。

 もし、この状況で切嗣がランサのマスターを殺害すれば、間違い無くアサシンは気づき、こちらに向かってくるだろう。そうなるのはマズイ。

 ……しかし、それはあくまでこちらのサーヴァントが一体だけだった等の話であ
る。

 こちらには切嗣の所にシオンが。アイリスフィールの所にはセイバーがいる。ならば、ランサーのマスターを殺害した場合、残ったランサーはセイバーに、こちらに気がついたアサシンにはシオンを当てればいい。

 そう考え、切嗣は再びランサーのマスターに狙いを付けた。

「だから少し待て切嗣」

「……今度は何だシーカー?」

 いざ、ランサーのマスターを撃とうとしたときに待ったを掛けられ、表面にこそ出さないが切嗣は不機嫌そうにシオンの方を向いた。

「あのアサシン……遠坂のサーヴァントが殺った奴とは違う気がする」

「……どういう事だ」

 シオンの言葉に切嗣はスコープから目を離してシオンの方を見た。シオン自身は相変わらずアサシンを見ていた。

「微妙だが、遠坂邸でのアサシンとあのアサシンは姿形が違う」

「……分かったのか?」

 正直なところあの映像は、細部が雑で詳しくは見られない。少なくとも切嗣の目には。

「忘れたか? 俺にはスキル”観察眼”がある。見抜けるさ」

 スキル”観察眼”。物事全てを論理的に見極められる眼。
 
 このスキルが切嗣はシオンと共に行動している最大の理由だった。

 シオンの視点からは、自分達では見落とした部分も分かる。そう考え、切嗣は戦闘においてのアドバイザーとしてシオンを側に置いておいた。


「恐らく、あのアサシンは遠坂邸でのアサシンとはまた別の個体だろう。……分身の宝具かスキルかどうかは分からないが、とにかくあのアサシン一体とは考えにくい。此処は一旦静観だ」

 どうするか、と切嗣は考え込んだ。

 シオンの言う通りならば、今此処でランサーのマスターを撃った場合、マスターが近くにいるシオンとセイバーは戦いにくい。

「……舞弥。引き続きアサシンを監視していてくれ。僕はランサーを観察する」

『了解です』

 此処は静観の選択を取った。此処で自分のサーヴァントの能力を見極めるのも良いと切嗣は考えた。

「お手並み拝見だ。可愛い騎士王さん」



 ******

 ランサーは現在自分と戦っているセイバーの武器を見て、幾度かの渋面な表情を出した。

 セイバーはクラスの通り、剣を使っているのだろう。だが、セイバーの剣は刀身はおろか柄なども見えないのだ。

 ランサーは知るよしも無いが、それはセイバーの宝具であり、セイバーの第二の鞘。

『風王結界(インビジブル・エア)

 剣の周囲の大量の空気を魔力で集積して束縛し光の屈折率を変えて剣を不可視にする宝具。

 宝具としては―――宝具と言うより、魔術に近いモノだが―――決して派手な部類では無いが、対人戦闘において、絶大な効果を発揮する宝具だ。

「賞賛を受け取れ。ここに至って汗一つかかんとは、女だてらに見上げた奴だ」

 一旦距離を置いたランサーは涼しげにセイバーに言った。

「無用な謙遜だぞ、ランサー。貴殿の名を知らぬとはいえ、その槍捌きをもってその賛辞……私には誉れだ。ありがたく頂戴しよう」

 対するセイバーもほんの少しばかりの笑みを浮かべて言った。

 二人とも、騎士として純粋に戦いを楽しんでいた。

『……じゃれ合いは其処までだランサー』

 唐突に倉庫街に声が響いた。魔術で隠蔽しているのか、声が辺り一帯に響いているので何処にいるのかはアイリスフィールには分からない。

「ランサーのマスター……!?」

 アイリスフィールが驚愕の声を漏らす。

『これ以上勝負を長引かせるな。そこのセイバーは難敵だ。速やかに始末しろ―――宝具の開帳を許す』

「了解した我が主」

 主の言葉にランサーは気を一段と気を引き締めて、短槍を迷わず捨てた。

 その行動にセイバーは長槍の方がランサーの宝具かと警戒し始めた。

 自らの正体を隠すために槍に巻かれていた呪符がはがれ始め、遂にランサーの長槍が正体を現した。



(遂にランサーが宝具を表したか……さて、どうなるやら)

 シオンはランサーの真名を見極めるためにジッと見つめ始めた。

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