小説『常識知らずの『男執事』は『女羊』になりました。』
作者:嶋垣テルヤ()

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 あの後、猫箱先輩に抱き締められたあげく、鳥飼先輩に引き剥がされその場を後にした。
 校則や、そういったことなどは華巳先輩が丁寧に教えてくれて、俺らは約30分生徒会室にいた。
 まぁ、現在は屋上に至るわけだが。
 柵に凭れていた蒼の姿はただただ美しかった。
 茜色に染まる夕日と、限りなく金に近いその髪はマッチしていた。
 猫箱先輩に好かれても無理はないとは思った。
 だが、美しいのは見た目だけで中身は美しいの『う』の字も入ってない。
「……お前何考えてるんだ?」
 考え事でもしているかのような顔だったので不意に訊ねてしまった。すると蒼は顔色一つ変えずに、思わぬことを口にした。
「源義経って征夷大将軍だったけ、って考えてました。あと元に戻るかなぁ、とも」
 はい、この通りである。こちらは『征夷大将軍ネタ』は飽きた。もうお腹いっぱいだ。てかぜってぇ歴女だな、こいつ。最後のは同意。早く元に戻ってほしいのはやまやまである。
「ボクこのままでも十分やっていけそうな気がしてきました。でも耳が出ちゃうんですよね……」
 大正解。耳で出てるよ。……出すなって言っただろ!
「え、仕方ないじゃないですか。今はワザとじゃないですよ! 本当ですからね!?」
 何この生物。中身はヘンテコな『男』だと思ってもやはり容姿は容姿だ。可愛いの『か』文字も入ってる!
「あ、あぁ。分かった。だから怒るなよ、な?」
「……言い方がぶっきらぼうです。ボク怒りますよっ」
 ぷくぅと頬を膨らまし、上目使いで俺を見る。完全にアウトだな。本当に健全な男子なら大変なことになってる。
 俺が変態なこと考えてる間も時は流れる。携帯からコダサいメールの着信音が聞こえた。
『ほーしーばーさーまー! メールですよ! ほら、早k……』
 俺は急いで携帯を開いた。
「わぁぁ、星葉様その着信音まだ使ってくれたんですね! ボク嬉しすぎて死にます!」
 しょうがないだろ。お前が俺を脅すのがいけないんだ。「星葉様が着信音考えろ、っていったんだから考えたんです。使わなかったら『まじかる少女☆ひまり』のフィギア折りますよ」なんて言うから。
 ひまりちゃんマジで折ったら殺すけどな。でも俺はみおりちゃん推しだ。どうでもいいが。

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差出人:中岡  件名:迎え

 今校門の前なのですが星葉様の姿が見えないので、メールさせていただきました。
 ヘリコプターで上空も探索中ですので、見つかり次第またご連絡させていただきます。
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 俺は迷子か。屋上にいるんだから……いたよ、ヘリ。てかさ、何で兄貴乗ってんだよ! 死ね!
「おぉ〜、我が愛しき弟よ! やっと見つけたぞ! むむっ、隣にいるのは蒼君ですかな。取りあえず2人とも乗りたまえ!」
 「俺の愛車に乗れ」って感覚だな。兄貴が屋上にヘリを止める。だから乗る。うん。
「辛天皇、ボクまで一緒で……すみません」
 マジその扱いなんなの? 俺が平安だったら兄貴明治あたりだぞ。かけ離れすぎだよ。
「いーんだよ、蒼君。あ、もしかして歌川かっこ安藤広重の方がよかった?」
 合わせるな、合わせるな。しかもなんか違う。絶対違う。かっこまで発言しちゃうところもなんかダメ。
「おおぉ、流石は辛の兄貴! 広重の浮世絵はいいですよね〜。分かります」
 わかんなくていいよ。その前になんか違う、絶対違う。かっことかちゃんと発音しちゃうあたりダメ。
 大企業の(笑)の長男に向かってその口はないだろ、いやあるか。
 神宮辛、俺の兄貴だが見た感じのブラコンである。キモイな。引くよな。
「そういえば蒼君さ、男の子だったよね? 峻也君から聞いたけど大変だね。もしかして媚薬飲んだ?」
 w弾幕で済まされるともうなよ。ちなみに峻也というのは中岡の下の名前で、由来は確か母親の元彼の名前だったような気がする。滅茶苦茶多分。
「び、媚薬って! あの女の子に飲ませるとマインドコントロールでM字開脚をさせてしまうあの!? ボク飲んじゃったんですか〜。初めて知りました」
 変な単語ばっかり知ってるな。というか飲んでない。飲めない。どこにあるんだ媚薬なんて。
「あ、そういえば星葉様。帰り際にひかげさんからこれ貰いました。渡して置いてって。はい、どうぞ」
 話変わったな。まぁこれでエロい話から抜け出せる……と思ったら間違いだ。いや、これはないだろ。
 渡されたのはまさにあれ。もうダメ。
 薬局で頭痛薬とか売ってる箱みたいなやつに、大きく、そして太く『ビヤークン』と書かれていた。絶対媚薬だよな。しかも未開封ではなさそうだったので仕方なく蓋を開くと、乙姫からの手紙付きだった。

『星葉様(笑)へ
 なんかアンタが館山さん凝視してるからこれいるかなーって思って買ったよ。店員から痛い目で見られたけど気にしてなんかないんだからねっ。てなわけで館山さんにこれ使ってあんなことやこんなことしてあげればいいんじゃない? よろ昆布よ。よ・ろ・こ・ん・ぶ☆
PS.お前マジイケメンwwwww
 華麗なる美女、乙姫ひかげより』

 「誰がこんなもんいるかー!」
 俺の叫び声はヘリを少し動かした。


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