小説『常識知らずの『男執事』は『女羊』になりました。』
作者:嶋垣テルヤ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 


 「いやー、日本の時代の劇は面白いですね〜。ボク感心します」
 時代劇、って普通にいえないのか。てかお前日本人だろ。
「? 何言ってるんですか、星葉様。ボクこう見えても立派ハーフですよ」
 ドヤ顔の意味が全く持ってわからない。でもなんかそんな話聞いたような気がするな。それと心読まれた。
「お前それ何時のやつだ? 録画、だよな……?」
 大画面の右上にはデジタルで『録画』と書かれていた。こいつマジ怪しいからな。
「ああ、これですか? なんか変なアニメとかぶっていたので録画取り消しましたよ。題名は覚えてませんが」
 マジでやったこいつ。しかしこの日は……火曜日ぃ!?やばい、即刻録画しなくては!
「おい、蒼お前『アホとドリルと召喚魔法』消したんだろ! 俺ヒロインちゃんが好きだったのにぃ!」
「略して『アホドリ』でよろしいでしょうか」
「アホードリみたいになってるけどあってるよ! しかもそんな冷静にいうな! こっちにとっては大事件なんだぞ!」
 嘆き叫びながらそんな言葉を口にした。蒼は何事もないような顔をして、テーブルに並べられた煎餅を齧る。それも滅茶苦茶美味そうに。
「あわわ、星葉様、停止しないでくださいよ。今沖田が決め台詞言うところだったのに」
「るせぇ、黙れ!」
 たかがアニメ一本で何こんなことしてるんだ、って思うだろ。思ってくれ。俺は後戻りできない人間なんだから。
 俺は急いで『アホドリ』の予約をし、念のためほかのアニメも確認する。手遅れだった。
「『攻略☆タコ息子』と『つばき寮のドッグな彼氏』まで! あぁぁ! 果てには『優等生たちが四次元からこないそうですよ!』まで消しやがって! なんでだよ!」
 堪忍袋の緒が切れた俺は、今言ったことを右から左に流す蒼の頬を引っ張った。
「ふぉしびゃしゃま、びょくにょじぢゃいげきはけしゃにゃいでくだしゃい!」
 日本語喋れ。何言ってるか理解し難い。しかしこの状況乙姫が見たら大変なことになりそうだな。まだ媚薬捨ててないし。捨てる暇がないし。
 頬をむにむにしているのは飽きたので、パソコンを立ち上げる。何するかって? マイフォルダ『医者への第一歩』を開くのさ(本当は肌色画像のフォルダ)。
「星葉様は変態だと思っていましたがまさかこんなものまで集めているとは! 趣味、いや、ガラが悪いですね!」
「ガラは関係しないからな! 日本語勉強してこい!」
 ん? 突っ込んでる場合じゃないぞ。今こいつに『医者への第一歩』を見られた。ってことは親父チクるぞ! やばい! 何か言い訳を……
「これはあれだ! 兄貴の趣味だ! 兄貴ってばヒドイよな、弟にこんなエロい画像を任せるんだもの。うぅ」
 嘘泣きしてみたが平気か? 一応俺中学の時は演劇部だったからいけるとは思うんだけど……
「ほぉ! では辛様に言わないと! 星葉様が性欲の海に溺れてしまいます!」
「言わんでいい! 言うな! 兄貴に言うな! 兄貴もいろいろ可哀想だから! いいか!」
 今変な汗かいてて背中が気持ち悪い……俺は睨んだが、効果はあるか。
「ほ、星葉様、そんなにねめまわさないで下さいよ。お顔が怖いですぅ」
 いや、言葉使い古いから。なんだねめまわすって。確かに睨んだけど現代人はそんな言葉あまり知らないよ。ていうか顔が怖いのはお前のせいだからな。自覚しろよ。
「んじゃお前は執事寮戻れ。行って来い。これ以上居候すんな。じゃぁな」
「え? 星葉様、m……」
 勢い良く蒼を外にだし、鍵を掛ける。外でドアを叩かれドンドン言うが気にしない。
「仕方ないから今週の分の『アホドリ』パソコンで見るか……」
 折角立ち上げたんだ。普通は見るだろ、アニメを。うん、見よう。
 カベドンドンが煩いからヘッドホンそうちゃーく! 
 ママ、これからアニメ見るね!……………………………………………………どこの幼稚園児だ、俺は。
(あ、中岡さん! 聞いてくださいよ!)
(ん? だ……間違えた。蒼か。なんだよ、用なら俺じゃなくてほ……)
(しば様が肌色画像を! しかもあの内容は放送禁止です! 今ボク追い出されたんですよ!)
 ん? この会話はもしや……中岡と蒼か! なんでだよ! 死ね! 何なんだお前は! ヘッドホン越しに聞こえるかんな! 俺の『アニメグットライフ☆』が……中岡ぁ、合鍵なんて卑怯なもの使うな……!
(……蒼、合鍵持ってきたよ! これで爽快に『カチャッ☆』、と!)
 なんかキャラ違うよな。今のは絶対空耳さ。ボクちんはなぁんにも聞いてないよ。ねぇ、ママ☆
 自作自演のママシリーズをやっていたら、何があったか。

 
 なんで親父までいるんだよ! 星葉の部屋だよ、全員集合!


 「おひゃじ、ゆりゅしてきゅだしゃい」
 痛い。素晴らしく痛い。俺の左頬には紅葉がついている。痛い。もう一度言うぞ、素晴らしく痛い。
「いつの間にド変態に化したんだ! お母さんがそういう人だけれどもね! なんなら右にももう一発行くか!?」
「いひゃでしゅ! じぇったいいやでしゅ! おひゃじきゃんべんしてくぢゃひゃい!」
「日本語喋れ。ほーれ、歯ぁ食いしばれよ」
「おひゃじぃぃぃぃぃ!!!!」


 この日二度目の平手を受けた俺はそのあと意識を失った。


 「はむはむ、もぐもぐ」
 現時刻朝の6時30分。何してるかって? 聞くまでもないだろう。
 しかし蒼は執事なのに女になったからってよく飯食わせておらってるよな。ある意味尊敬するよ。
「……ご馳走様でした。ふぅ、です」
 語尾無理矢理すぎだろ。まぁこれで学校に行けるな。
「あ、耳でちゃいます」
 蒼が頭を押さえる。耳出てるとなんか人類じゃないような気がするから、やめてほしいんだけどこいつの意思じゃないからどうしようもできない。
 準備をしているとインターホンが鳴った。玄関の近くにいたのでドアを開けると……
「ひゃっほ〜、俺だよ! 猫箱だよ! あれ、蒼ちゃんは?」
 先輩、迷惑なので帰ってください、なんて言ってみたいが言ったら確実に殺されるので自重する。
「ん? おおぉ! 猫先輩! おはようございますでございます」
 時代劇のせいで変な言葉遣いになっているが気にしないことだ。いつもの事だともっていれば問題ない。
先輩の呼び名マジ迷惑だな。なんか可哀想で仕方がない。
「迎えに来たからさ、蒼ちゃん一緒に行こ?」
 なんという目をしているんだこの人は……! これが噂の可愛い系男子か! ちくしょうなんか負けた……
「いいんですか!? 星葉さんも一緒でいいですよね? ……あ」
 蒼の顔色が変わった。なんか思い出したか。忘れ物か? いや、違う。俺もわかった。
「「なんで家分かったんですか?」」
 というか俺と蒼が一緒に住んでて不自然だと思わないんですか?
「嗚呼、大丈夫だよ! 生徒会ですからこれくらい把握してるnow!」
 ナウの意味が違う。なんだこの先輩。ほぼ蒼と同類じゃないか。
「まぁ、行こうよ! 生徒会室でお茶でもしようか♪」
「はい!」
 なんで朝っぱらからこんなことに……今日一日は絶望だな。

 

-4-
Copyright ©嶋垣テルヤ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える