小説『虹の向こう』
作者:香那()

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病院の場所は分かったので、頃合を見計らってお見舞いに行った。

ナースステーションで名前を書いて、手を消毒。あとで聞いたらそんなことしなくていいよと、ゆうちゃんが笑っていた。

結構大きな病院で、一階は普段は賑わっているだろう検査室などがあった。

そこから上に上がる。博久くんは4階だった。

病室の前で二人深呼吸して、ドアをノックした。

「はい」

お母さんの声がしたので、「失礼します」と中に入っていた。

博久くんは医大にいたより、ずっと顔色が良くなっていた。

あのまま、医大にいたら殺されるだけだと内心思った。

お母さんは「よう来てくれたね」と笑って、席をはずした。

「お久しぶり」
「どうで?新しい部屋は?」

そこが最期の場所である事を知りつつ、私達は笑いかけた。

「うん、快適で〜。やりたい放題やきね、基本」

博久くんも久しぶりに明るい笑顔を見せてくれて、ほっとした。

「今日はゆうちゃんは来てないが?」
「うん、ゆうちゃんも仕事忙しいみたいやきね」
「なんか、結構大変みたいなこと、言いよったしね」

部屋をくるりと見渡すと結構広い。

大きな電動リクライニングベッド、窓からさんさんと陽が降り注ぐ。

そこにベンチがあって、軽く3人は座れる。

入り口付近には洗面所とトイレがあった。

入り口も車椅子で通る事を前提にしているので、広い。

明るく、快適な病室だと思った。

博久くんが疲れない程度にして、またねと部屋を出て、廊下の一番端にある、簡単な台所みたいなところにいたお母さんに声をかける。

「お邪魔しました。もう帰ります」
「まだ、おってえいで?」
「いや、疲れさせてもいかんき。どうせ、また来ますから」
「いつでも来ちゃってや。あたしやと、面白うないみたいなき」

お母さんは笑っていた。

お母さんは博久くんが亡くなるまで荷物を取りにいく事はあっても、家には帰らなかった。

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