小説『虹の向こう』
作者:香那()

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その頃、私達夫婦の溝も次第に深くなっていっていた。

表向きは普通だが、何かのスイッチが入ると私に暴力を振るう。

それも見えない場所に。そして飲みに行く。

それでも普段は優しくて面白い彼から離れようとは思わなかった。

その頃だっただろうか、会社の人が博久くんの所をお見舞いがてら訪ねてきて、雅巳くんの事を第三者の目で仕事上の事とか聞いていたらしい。

あとでゆうちゃんがこっそり教えてくれた。

ちょうど、お見舞いに行った時に、Yの仲間が奥さんを連れてお見舞いに来ていた。

詳しい事は知らないが、転院したからとのことだった。

仲間であるDくんの奥さんは助産婦なので、ここがどういう場所なのか言わなくても分かる。

でも、Dくんは…。

私たちが座って聞いていると、少し自嘲気味にDくんにホスピスが受け入れるのはがんで助かる見込みのない患者が来る事などを説明していた。奥さんは少し下を向いていた。

私達も目をあわせ、言葉は発しなかった。

Dくんも突然の言葉に、言葉を失っていたが、それでも表面は変えずにいた。

後で奥さんに聞くといいよと博久くんが言っていたから。

Dくんが帰ると、博久くんがタバコを吸いに行こうといった。

一回に狭い喫煙所があり、そこで吸うのだ。

私はすわないのだが、一人外にいるのも淋しいし、中にいた。

「タバコが好きなだけ吸えるのが、ここのえいとこや」
「まあ、普通、病院でタバコ吸っていいですってないもんね」
「奥さん、それはそのとおりや」

と笑っていた。

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