小説『虹の向こう』
作者:香那()

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また電話がかかってくるんじゃないだろうか?

その時は…。

私の頭はその事でいっぱいだったあ。

そして、土曜日を迎えた。

離婚の関係で私にはクルマがなかったので、ゆうちゃんと待ち合わせをしていた。

気がせいて早く着きすぎてしまったが、遅れてないから大丈夫だよねと自分に言い聞かせていた。

時間通りに珍しくゆうちゃんはやってきた。

ゆうちゃんは結構時間にルーズなのだが、守ってきたということは、かなり悪化しているのだろう。

クルマに乗り込む。

「ごめんよ、香那ちゃん、せっかくの休みやろうに」
「今更何を言いいうがで、そんな仲じゃあないろうがえ」

そういうとゆうちゃんは少し笑った。

そして病状を話し出す。

「ひさちゃんのガンが肺に転移してね、もう両方ともガンでいっぱいながよ」
「そうか…もう、時間ないがやね」
「うん」
「ねえ、前回もあったって言いよったけど、何で知らせてくれんかったが?」
「それは、急やったこともあって、頭が回らんかったんよ。でも、今回は先生が合わせたい人がいたらって」
「そうやったがや。別に責めゆうわけやないきね」
「わかっちゅうよ」

しばらく沈黙が続いた。

「誰か他の人には?」
「会うのは香那ちゃんが最初」
「Nちゃんは?」

Nちゃんは兄ぃの妹だ。兄ぃと博久くんは高校から大学までの同級製だった。

「今はNのこと、言わんとってくれる?あたし、もう腹がたって」
「分かった。お見舞いが終わったら聞くね」

そうこうしているうちに、クルマは病院へ到着した。

私は覚悟を決め、ゆっくりと歩き出した。

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