「博紀、なにをしている。勉強はどうした」
「・・・・・・父さん」
「稔弘は塾か?」
「ああ・・・・・・いつ帰ってきたの?」
「10分くらい前だな。またすぐに出かけるが」
政治家の父さん。
こんな時間に帰ってくるなんて珍しい。
この、一緒にいるだけで感じる圧力。
やっぱり、この人は苦手だ。
母さんが死んでから、この人は前以上に厳しくなった。僕にも、稔弘にも。
「いってらっしゃい、父さん」
「ああ・・・・・・博紀」
「なに?」
「そろそろ、進路を決めておけ。政治家になるなら、法学部とかいいと思うぞ。T大学とは言わないが、レベルの低いところには好んでいくなよ」
・・・・・・ほら。
僕は政治家になるんだ。
そう決まっている。今更、父さんの決めた運命にあらがえるはずがない。
僕は、自分の夢を追いかけることすらできないんだ。