小説『リストラ』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

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 佐竹は気を利かせたのか、今夜はいつものカウンターではなく隅の席を取ってあった。
 「真田、驚いたよ。人事部長が俺に気を使ったのか、俺とお前の仲は知っていて報告があったよ。俺も
喰い下がったが世界的な不景気で、特に自動車業界は特別酷いだろう。力が足りずゴメンな」
 「いいえ。佐竹先輩には心配をお掛けしました。流石に昨日は家に帰れずに……」

 「ああ気持ちは、よっく判る。そこで俺は早速、昔の仲間連中に声を掛けたよ。仲間と言ってもラグビー
仲間だが。でもな、お前も知っている通り俺達の絆は固い。お前だってその一人だ。ラグビー仲間のピンチ
とあって、みんな協力してくれたよ。で、二件ばかりあったよ」
 「先輩? あったってなんの事です」

 「バカ、お前の再就職の話に決まってるじゃないか。大手ではないが一件は経理事務所の仕事。もう一件
は中堅のデパートの総務部。まぁ多少給料は下がるが課長待遇で迎えてくれるってさ。これも我が自動車会社
が世界一流の企業の強みだろうな。それを追い出されたお前は悔しいだろうが。どうだ。やってみるか?」

 真田は興奮していた。それが本当なら地獄から天国だ。
 「せっ先輩。本当ですか? 本当に働けるんですか?」
 「当たり前だ。この状況で、いくらお前でも冗談なんて言える訳がないだろう。大丈夫だ経理事務所よりも
デパートの方がいいか。特にあそこは我が社の資本が少し入っている。言わば天下りだと思っていい。下手な
扱いされたら俺に言え、脅してやるからハッハハ」

 真田は声をこそ出さなかったが、目にはいっぱい涙を溜めて佐竹の手を握り頭を下げた。
 「気にすんな。もう少し俺が出世していたら、お前には絶対こんな目に合わなかったが、まぁこの辺で勘弁
してくれや。俺はお前よりお前の奥さんを悲しませたくないだけだ。なんたって、お前の奥さんの手料理は
超一流だからな。また喰わしてくれよな。ハッハハ」

 一方、真田家では夫の博之が、いくら電話しても出ないし連絡もなく。
妻と子供達は何かあったのではと心配していた。
 今までそんな事は一度も無かっただけに只事ではないと三人で話し合っていた処だ。
 真田からは家族が急病とか事故など急用でない限り会社には電話をしないように、きつく言われていた。
だが今日も連絡が取れないとなると話は別だ。

つづく

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