会社に問い合わせようと話し合っている処だった。
その時だ。電話が異常な高い音で室内に鳴り響く。いや、そう感じたのだろう。
場合は場合だけに心中は穏やかではない。夫から? まさか警察? それとも病院?
妻が受話器を取るのを躊躇していると、見かねた長男の克之が電話を取った。
「もしもし……どちら様ですか?」
「やぁこんばんは。克之君かね。悪いがお母さんと代わってくれないかね」
克之はハイと間を置き、母と代わった。母は誰? と怪訝な表情を浮かべた。
「佐竹のおじさんだけど、母さんと代わってくれって」
「もしもし、佐竹さん。いつも主人が世話になっています……」
「ああ、奥さん。こちらこそ、いつもご馳走になって。アイツ、家に電話してないでしょう」
「あのー主人の事、何かご存知なんですか?」
「やっぱり……実はですね。本当は私から言うべきでないでしょうが。驚かないで欲しいの
ですが、彼は昨日突然リストラ勧告を受けまして、かなりショックだったのでしょうか昨日は自分
が、どうして良いか分からず、家族にどう伝えれば良いかと悩み、つい酒に溺れたようで。でも
安心して下さい。会社は変わりますが課長待遇で迎えてくれる所がありますから、大丈夫です。
だから今夜は明るく振舞ってやって下さい」
「まぁ、そんな事があったのですか。本当に私どもは何も知らず、それにしても佐竹さんには
いつもお世話になって……」
そんな電話のやり取りがあった事を知らない真田は、一安心はしたものの家族に心配させ
たくなかった。
再就職は出来る見通しはついたが、やはり心配するだろう。
家に帰るまでどう話そうかと、悩みながら家路に着いた。
つづく