小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 ヴィオラの父は研究者で、研究室で空の大陸にある卵の研究をしている。父は頭を抱えた。それをヴィオラは見ているだけしかできないでいた。
「卵はまだ無事なのかな……」
 ヴィオラの言葉に「卵のアクセサリーからまだ反応がある。そして何よりまだ孵化する状態に入っていないから、大丈夫だとは思うが……」と言う。
壊されていなければいいんだがな
 父は言った。ヴィオラは自分が思っているよりも父はショックを受けていることを感じた。父はヴィオラの目を見ながらヴィオラの肩に手を置き、こう言った。
「ヴィオラ。お前を危険な道に立たせていることは分かっている。だけれど、俺はお前に俺が持つほぼ全部の卵を託した。だから……」
 父の顔は不安そうだった。その表情を少しでも和らげてあげたいと思ってヴィオラは笑顔で言う。
「大丈夫。卵は、全部俺達が護るよ。だから安心してほしい」
言った後、父の手がかすかに震えていることに気がついた。父の目を見ると、これから息子が自分が託した仕事をやり遂げてくれるだろうという安心感と、息子を危険な道に立たせているという申し訳なさそうな色が見えた。

「今日の捜索はこれで終了だ。引き続き目撃情報や手掛かりを見つけた者は伝えるように」
 士官候補生の二年生も加わった捜索活動。今日の分の活動が終了し、隊長が言ったのは月が綺麗な夜だった。
 それでは解散。と隊長が言ったので家に帰ろうとした時、ヴィオラはふと学校に忘れ物をしてきてしまったことに気がついた。一緒にいたコーベライトに「ちょっと学校に忘れ物を取りに行く」と伝えると、コーベライトは「じゃあ俺もついて行ってもいい?」という話になった。
「眠くないのか」
「少し寝て来たし?だって俺夜型人間だしー!」
 腰に手をあってて笑うコーベライト。それに苦笑いしつつも、ヴィオラは学校へと向かった。
 校門をくぐると、校舎のところどころに明かりがついており「こんな時間まで勉強してる人っているんだなぁ」と呟いたのはコーベライト。明かりがついている教室には勉強をしている者や特別授業を受けている者、そんな者達の記録をつけている先生などがいた。夜の時間帯の学校なので昼の時間帯を担当している先生はおらず、全く知らない先生が校舎内にいた。
 そして二人は明かりのついていない、自分達の教室に入る。ヴィオラの忘れ物はすぐに見つかりそれを持って校舎を出る。
「ヴィオラの忘れ物って筆箱?」
「ああ。ちょっとこれが近くにないと落ち着かなくて」
「何か可愛い忘れ物だなぁ」
 筆箱がそばにないと落ち着かないと言う部分を可愛いと思ったのだろうか。コーベライトは笑顔で言うが、ヴィオラは「殴るぞ」と言う。
 冗談!冗談ですよヴィオラさん!と笑いながら言うコーベライトは駆け出すと、ひっそりと明かりがついている校舎を見つけた。
「他のところはでっかく明かりがついているのにね。ていうかここって植物育ててるところだよね?」
 不思議に思い、校舎を見上げる二人。その校舎の明かりは隠れて何かをしているような、そんな明かりだった。
「ちょっと覗いてみよう。そうしよう」
「おい、重大な会議中だったらどうするんだ」
「泥棒だったらどうするんだよ」
 少し楽しそうに校舎に入ろうとするコーベライトをあわててヴィオラが止めようとする。だが彼の手はすでに校舎のドアノブをつかんで引っ張っていた。
 コーベライトの瞳に植物がたくさん生えている校舎の中が映る。その植物に埋もれるように、ぼや……とした光があった。コーベライトが遠慮なく開けたせいでドアの開く音が鳴る。そこにいた人影はこちらを警戒するように動く。一瞬怪しいと思ったが泥棒ではなさそうなので「あのぅ……」と声をかけ、尋ねるコーベライト。彼の頭の上から覗き込むヴィオラは「勝手にドアを開けてしまってすみません。何をしてるんですか?」と問う。二人の声に反応するように影が動く。光はランプとわかり、影はランプを持って立ちあがってこちらを見た。ランプを持っているので顔が照らされる。その顔を見て二人は驚いた表情をして、その人物の名前を口にする。
「……ソラ先輩?」
 ちょっと意外そうな声を上げるコーベライト。一方、声をかけられたソラは「貴方達は……?」と首を傾げた。そして入ってもいい、という意味で二人に向かって手招きをした。
 ドアを開けたまま会話しているのは状況的によくないかなと思い、中に入った。ソラはドアを勝手に開いたことなどを怒ることはなく「名前と学年を教えて貰ってもいいかな?」と笑顔を見せて言った。名前と学年を聞かれたが、これは個人のことを知りたいだけで先生に報告するというわけではなさそうだった。二人は礼をして学年と名前を明かした。

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