小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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先に動いたのはヴィオラで、手をかざして透き通るような青い鎌を作り出して建物の外に出る。
「……何の用だ?」
 ストレートに聞いたのは、敵ではなかったらすぐに返答をくれると思ったからだ。だがその人物は何も答えずにバトンの先にまとわりついている電撃をヴィオラめがけて放った。
 ヴィオラは防御態勢に入ったが、電撃があちらこちらに跳ねていて行動が読めない。
「チッ……!」
 舌打ちをした。電撃の攻撃がこちらに向かってくる短い時間、頭の中でどう防御しようかと考えた。たぶんヴィオラはこの攻撃をまともに受けるだろう。なぜならヴィオラは防御術をあまり知らないからだ。
 電撃が目の前に来てその電撃の明るさで夜だと言うのに昼だと錯覚してしまう。おとなしく攻撃を受けるかと思っていると、風を凪いだ音がして電撃はそれぞれ他の方向へと分かれて消えた。
「ヴィオラ!……だめだよ、シールドはらなきゃ!」
 建物の中から声がする。見ればコーベライトは自分の武器である、柄が長いハンマーを持って応戦して助けてくれた。今の技はコーベライトの得意技である衝撃波だなと思った。
 コーベライトの言葉にはっとなる。そういえばシールドという自身から溢れ出るエネルギーで盾をつくればよかった。そう、今更ながら思った。
 黒衣の人物は攻撃がかき消されたことを見てか、攻撃用のバトンをおろした。先ほどの攻撃で電撃を使い切ったのか、バトンには電撃がまとわりついているということはなかった。その人物は黒いマントを翻し、闇に溶けて消えていった。
「……なんだったんだ、あれ」
「さぁ……俺にもわからない」
 謎の襲撃者。わけもわからずにいながら「狙いは絶対これだよ」とコーベライトは卵のことを言った。
「そうだな。最近狙っている奴が多いって言うもんな……」
 嫌な世の中だ。そう思ってヴィオラはふとコーベライトのほうを見た。
「コーベライト?」
 不思議そうに尋ねると、コーベライトは興奮したように「ヴィオラちょっと!」と部屋の奥に入って行ってしまった。なにがあったのかと思うと、先ほどまで近所迷惑にならない程度に流していた小型のラジオがニュースを伝えているところだった。

「こちら報道センターです。先ほど緊急でまたもや失踪事件のニュースが入ってきました。被害者は新人士官のカルサイトさん二十三歳・女性です。何時になっても捜索現場に現れない士官の男性が不審に思い、カルサイトさんがいつも歩いてくるという道で探していると、カルサイトさんがいつも身につけているペンダントが見つかり、失踪の現場に必ず残されている火で焼いたような跡が残っていたようです。その男性はカルサイトさんが失踪事件に巻き込まれたということを視野に入れ、現在カルサイトさんを探しているようです。失踪したのは去年士官候補生育成学校を卒業した新人士官の……」

 そこまで聞いて、コーベライトは「んだよー、またかよー」とため息をついた。一方ヴィオラはなんだか難しい顔をしており、「どうしたの?」と聞くと、目をこちらに向けた
「今報道されているカルサイトさん?の失踪した時間帯って、さっきじゃないか?」
 それを聞いてコーベライトの顔は少し曇った。
「さっきでも、ニュースが言っているように警察が近くを探しても、犯人は見つからないんだよね?」
「んー……。どこか遠くの、そしてはやく逃げた、としか思えないな……俺は」
「犯人が遠くてはやく逃げたなら、テレポートの技を使ったのかな。今までのニュースとか聞く限り、事件が起こってすぐに現場に言っても犯人は近くにいないらしいし。……警察が三十キロの範囲で探していてもみつからないから、そうとしか思えないよ」
 そう言いながらコーベライトは机に顎をのせた。ヴィオラはそばにあった自分の水筒から水を飲むと「テレポート、か」と呟くように言った。言ったあとでヴィオラはふと思っていたことを口に出す。
「失踪事件って……複数犯なのか?」
「いやいやいや。それは俺に聞かれてもわかんない」
 俺じゃなくて他の奴に聞いたほうがいいよ、とコーベライトは言った。その言葉にヴィオラは納得したような表情で「そうか」と言う。
「明日……っていうか今日の授業後は捜索かな?……学校の授業が午後からでよかったかもしれない」
「明日は確実に捜索だな」
 そう言いながら二人は部屋の中にある卵を見つめた。コーベライトは立ち上がり「今度こそ家に帰ってちょっと寝るー」と言って外に出た。
「気をつけろよ。さっきもあんなことや失踪事件があったばかりなんだからな」
「おうよ、わかってるって!」
 ヴィオラの心配に手を振って応える。家に帰るコーベライトの後ろ姿を見ながら、そういえば自分もまだ一睡もしていなかったと思い出したように欠伸が出、自分も家に帰ることにして荷物をまとめる。
「……不気味な夜だ……」
 ランプの明かりも消し、明るい光がなくなった街の中に立って月を見上げた。
 自分でも不思議に思うくらい、不気味な不気味な夜だった。

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