小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 そんなことを話しながら廊下の角を曲がると、向こう側に先生と話している先輩と思われる男の人を見つけた。どの学年の人かは分からないが、入学当初から時々見る顔だったので、あの人は先輩だとわかった。この学校では先輩後輩、そして先生関係なく、人とすれ違った時は挨拶をするのが礼儀だ。向こう側にいる先生と先輩に挨拶をして通り過ぎる。そしてふいに肩をぽんと叩かれてヴィオラは振り返る。
「なんでしょうか?」
 コーベライトも立ち止まり、その先輩のほうへと向く。今から何を言われるか、その前に何かしただろうか……と思っていると、相手は微笑んでこう言うのだった。
「最近ソラの奴と仲良くしてくれてありがとう。あいつ、優秀だから近づきにくいって思われているらしくて、それでよく一人でいることが多いんだ。だから、仲の良い後輩ができてよかったと思っているんだ」
 ありがとな、と言って先輩は先生と共に去る。一方的にお礼を言われて時間がとまったようにぽかんとしている二人は、頭の中で言われた意味をもう一度思い返して……「そうか、そうだったのかぁ」とコーベライトが呟いた。
「ソラ先輩、話やすいと思うんだけどなぁ」
 コーベライトの呟きと、今の話を聞いてヴィオラは心の中で何かを感じた。それが何なのかは、感じた本人にもわかっていない。
 誰もいなくなった廊下で、二人は授業があることを思い出して「急がなくちゃ、やばい!」と声を上げた。急いで廊下を早歩きをして教室に急いで入って席につく。席に着いたのと同時に担任のキルカルが入ってきて話をはじめた。
 話は明日に控えているのは実技トーナメントの話で、注意事項などが話された。

「明日だね〜」
「明日だな〜」
 放課後、偶然にもフローライトと敷地内で出会ったので、一緒に帰ることになった。ほのぼのと、ふわふわと話している兄妹。この二人はいつもこうだな、とヴィオラは心中で思った。そして二人の横を歩きながら、こういう雰囲気っていいな、とも思った。
「じゃーん!これが予定表!」
 コーベライトがフローライトに手帳を見せる。それは先生の言った内容が全部書かれており「明日は丸一日潰してなんだよ」と言う。嬉しそうな彼の手にある予定表を手に取り、めくる。トーナメントの内容のページを一枚めくる。するとでかでかと、そして実戦の授業が相当楽しみだったのかと思わせるような大きな文字で「明日、トーナメント!」とページを横断して書かれていた。フローライトは嬉しそうに見ている。予定表を見て、返す時にフローライト「明日応援に行きたいなぁ」と言うのだった。
「そうだね〜。応援、来てほしいかも……」
 明日は自分達は実技だが、フローライトは教室での授業だということを考えると、少ししょんぼりした。コーベライトは妹に応援してもらいたかったからだ。
「ねぇ、ヴィオラもそう思うでしょ?」
 いきなり話を振られて、少し困っている表情のヴィオラ。だが彼は「そうだな」と笑顔で言って「フローライトにも来てほしいな」と言う。
 二人の会話を聞いていたフローライトは少し考えこむ仕草をした。
「明日のトーナメント、私の教室から会場になるグラウンドが見えるの。だからもしかしたら休み時間ごとに見れるかも!」
「おお!休み時間内で遠くからでもいいから、見て!」
 コーベライトとフローライトの兄妹は嬉しそうな顔をしている。ヴィオラにはちょっとだけ羨ましい光景だった。コーベライトは明日が楽しみでしょうがないという様子で、なんだかそわそわとしている。
「明日楽しみだなー!久しぶりの実技だし、久しぶりに暴れられるトーナメント!そんでもって優勝はいただいたー!」
 本当に楽しみそうな笑顔で言う。その表情は晴れやかな笑顔だったが、両脇にいたヴィオラとフローライトは冷や汗を流しながら、視線をコーベライトの背後を見ていた。
 背後、否、コーベライトの背後の上。
「へぇ、優勝狙ってるのかよ、コーベライト」
 ドスのきいた声と自分達の上に影ができたことで、その方向を見る。上から声が降って来たような錯覚を受けたので、コーベライトは必然的に上を見た。
「うわ、ガルゴだ……」
 そこには喧嘩ばかりしているガルゴの姿があり、二メートルはあるであろう身長と、立派な体格、それに怖そうな顔あった。フローライトは少し怖そうにしていたので、ヴィオラは小声で「大丈夫か?」と言って彼女を自分の後ろに隠した。赤いシャツに髪の毛も赤い。そこに金のメッシュが入っていることが、余計に怖かったらしい。
 まぁ、クラスメイトの女子からも恐怖の対象になっているからな……。そうヴィオラは心中で呟いた。そんな容姿のクラスメイトは口を開いてこう言った。
「ワリィけど、優勝はオレ様だから」
 喧嘩体制になっていたコーベライトはその言葉にむっときて「なんだってー!」と叫ぶように言った。
「今回の優勝は俺なの!お前には譲らないから!」
「妹が応援しているからか?」
「そうそう!フロラが応援してくれてるから!」
 その言葉にガルゴは、くつくつと喉を鳴らして「お前は本当に妹馬鹿だよなぁ」と言った。
「ああそうだよ。フロラが可愛くて仕方ないんだよーぅ」
 それを見ていたヴィオラが呆れているようなため息を、隠れていてフローライトは「お兄ちゃんにヴィオラさん、明日がんばってね!」と言う。
「応援してくれる妹がいてよかったなぁ。まぁお前ら二人とも、せいぜい明日はがんばれ」
 意地の悪い笑みを浮かべて、帰路につくガルゴ。その背中を見ながらコーベライトは闘志を燃やしていた。
「よし、明日は優勝を狙うついでに打倒・ガルゴだ!」
 宣言するように、コーベライトは言った。

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