小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 翌日、実技トーナメントのためグラウンドに攻撃部門・二組の生徒が集合していた。生徒達は真剣な顔の者もいれば楽しみにしていたと言わんばかりの顔の者もいた。
 そんな様子を、見ている者がいた。
「この学校っておもしろい授業するのねぇ」
 学校の屋上で立っていたのは、シルエット。先日学校に襲撃をかけた女だ。隣には転落防止用の柵に頬杖をついてグラウンドを見ているユーディアの姿があった。
「そうだね。……そういえばあの生徒の中に、キミと対峙した子はいるかい?」
「んー……」
  グラウンド内には一つのクラスの生徒しかいない。ざっと数えたところ四十名だろうか。視力の良い目で見、探る。その中から自分と対峙した生徒を探す。
「あ」
 突然声を上げた。ユーディアは「見つかったかい?」と問い、シルエットは「あそこにいる子、そうよぉ」と指でさした。
「不思議なのぉ」
「何が?」
「不思議なのよぉ。あの顔に傷のあるあの子を見た瞬間、なにか懐かしい物を感じたわぁ……」
 なんでなのかしらぁ。と言っている彼女を、ユーディアは静かに見つめた。

 トーナメントが行われるグラウンド。そのグラウンドはとてつもなく広く作られており、グラウンドのところどころにフェンスで作られた長方形型の建物が四つあった。ぼぅ、と少し光っているフェンスには出入り口。それはフェンスと同じ素材でできており、生徒はその入り口からフェンス内に入り、当たった相手と実戦をする。つまり戦うと言うことだ。
 トーナメントのルールはもちろん死者を出さないことが含まれており、生徒一人一人に防護服を着せられている。その上に先生からもらったエネルギーがつまっている水晶を握らされ、全身に軽いバリアをはる。これで怪我をすることは少なく、士官がしているような戦いができるのだ。防護服とバリアは、卒業してからの実戦でも使うので、このトーナメントは士官になったらのことを想定しての実戦授業だとも言える。
「フロラは授業かー……」
 グラウンドにいるコーベライトは残念そうにため息をついた。昨日の会話でフローライトは授業だということは納得したのだが、やっぱり応援に来てほしかったらしい。少しテンションが低いとヴィオラは思った。
「まぁ……窓からでも見えるさ」
 ヴィオラなりの励ましの言葉。コーベライトは落とした肩を少し上げて「だといいなぁ」と呟いた。
 ……妹想いなんだなぁ。
 なんどもコーベライトを見てそう何度も思っている。本当にコーベライトはフローライトのことを大切に思っているんだな、とヴィオラは素直にそう思うのだった。
「はいはい!みんな集まったかなー?」
 授業開始のチャイムと少し遅れて、キルカルが走ってやってきた。キルカルは手を叩いて生徒を集め、整列するように言った。その様子を見て「みんな集まっているね。よしよし」と笑顔で言うのだった。
 たびたびこのような実技が行われる。だからなのか、戦い慣れをしている生徒の目はやる気にあふれていた。その前でキルカルは話を続ける。
「今日は実技トーナメントを行うよ。みんなコンディションは大丈夫かな?このトーナメントは敵に遭遇したことを想定しての実技だ。本気で戦えるような準備はしてあるから、怪我はしないと思う。だから恐れずに戦ってほしい。そして力を高めあってほしいと思っているよ」
 大きな声で楽しそうに生徒に呼び掛けるキルカルを見て、隣にいたコーベライトは心中で「先生って興奮すると話が長いんだよね」と言った。
 先生の話は立って聞く。最初はその状態で話を聞き続けるのは正直きついと、一年生の時は思っていたが、慣れるとそうでもない。先生の話が長いのは、生徒の我慢強さを培うためだと思っている。が、キルカルの場合は興奮や気分で話の長さが違う。今日はキルカルが好きだと言っている実技の授業なので、興奮の度合いが半端なかった。
 しばらくして、キルカルの話が終わった。キルカルは皆の状態をチェックして「じゃあ組み合わせは、これだよ!」とキルカルの後ろにあった白い布が被せてある大きな板を見た。端にいって布をとると、トーナメントの組み合わせが書かれていた。その組み合わせを見て各自が声を上げていた。
「うわーお。俺の相手がアクアオーラで、ヴィオラの相手セレスタイトじゃん」
 そう、コーベライトはヴィオラに話しかけた。ヴィオラも表を見て「そうだな」と言う。クラスにセレスタイトという女の子がいるのだが、その子は優勝経験が無く、勝ったことがあっても第二戦しかすすんだことがないという女の子だった。クラス内では「技術はあるけど、精神力が低め」とささやかれており、彼女自身もそう思っている。
 一方ヴィオラの相手であるセレスタイトは、元々不安そうな表情をもっと不安そうに歪め、そっとヴィオラを見た。それに気がついたヴィオラは、よろしくお願いしますという意味をこめて、軽く会釈した。その様子がとても気まずかったのかわからないが、セレスタイトは目を逸らして板を見るのだった。
「はい!では最初のブロックのは地名はそれぞれ指定のフェンスに入ってね!」

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