小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 キルカルの指示をする声が聞こえた。ヴィオラはこのブロックではないので、見学のため、どの戦いを見ようかと思っていた。他の生徒も、見たいと思う戦いが行われるフェンスの前に集まった。
 最初のブロックには、あのガルゴとコーベライトの名前があった。コーベライトは「んじゃあ行ってくる!俺の活躍楽しみにしてろよー!」と言いながらヴィオラの肩をぽんと叩いてフェンスに入って行った。ヴィオラはどの戦いを見るべきか迷ったが、コーベライトの戦うフェンスを見学することにした。他の生徒達の様子を見ていると「パワータイプのコーベライトと頭脳タイプのアクアオーラの対戦かぁ。おもしろそうだけど、あっちのほうがおもしろそう」という会話を耳にはさんでしまった。そのためかコーベライトのフェンスに集まる生徒はあまりおらず、ガルゴのフェンスは大人気だった。
 トーナメントで順番が来ない、控えの生徒が何をしようとは自由だ。だが大抵の生徒は後学のため、と言い他の生徒の戦いを見ているのだった。
 皆が楽しそうにフェンスの中を見ている時に、ふとヴィオラの視界に三番目のブロックで対戦するセレスタイトが入ってきた。綺麗な銀髪をショートカットにしている彼女は、誰に対戦を見るわけでもなく、控えのベンチに一人うつむいているだけだ。どこか体調が悪いのだろうか。そう考えて声をかけようと思ったが、なんとなくやめておいた。
 試合開始の合図が鳴る。今日は晴れた空で、絶好のトーナメント日和だった。

ガルゴのところはあいからず人が多いなぁとコーベライトは思った。そしてふと考え、もし自分が今の対戦で勝ち、なおかつガルゴも勝っていたら次の試合は自分とガルゴの対戦ではないか!ということに気がついた。
「うぉぉ……なんかそれを考えると燃えてきた!」
 よっしゃ!とやる気を出すコーベライトの向こう側には、男のクラスメイトである優等生のアクアオーラがいた。左目にモノクルをかけている彼は、モノクルをかけなおして「よしっ!」と気合を入れた。
「悪いけど、この試合に勝つのは僕だから!」
「いーや。絶対俺が勝つ!」
 アクアオーラ宣言に対しそう返すコーベライト。その様子がおかしかったのか、くすくすという笑い声が少し聞こえた。アクアオーラの背後に当たる場所にいたヴィオラは苦笑しているが、コーベライトが真剣な顔になると彼も真剣な顔になった。」よし、と互いに頷く。それは「行って来い!」という合図であり、コーベライトはまた気合を入れた。
「試合……開始!」
 キルカルの拡張された声が響く。それを合図に、対戦フェンスの中にいるコーベライトは相手がどう出るか伺う。一方、対戦相手のアクアオーラは水色の杖と翼を作り上げて不敵な笑みを浮かべている。
「今日はいい作戦を考えて来たんだ」
「ほほぅ、どんな作戦?」
「それを言ったらおしまいだよ」
 アクアオーラは笑って言うと、杖の先端を地面につけてそっと地面に打った。打った後に彼は水色の翼を広げて浮く。
 しん……と静まる空間。何が起きるのか身構えていたが何も起こらず、コーベライトは「何も起こらないじゃん」と翼を広げて動こうとした、そのときだ。
「甘いね」
「…………ッ!うわあぁああ!」
 手が宙を舞う。そして除々に自分の身体が沈んでいくのがわかる。地面、いやアクアオーラによって深い泥沼と化したフェンスの中でコーベライトはパニックに陥っていた。
「うおぁ!聞いてないぞこんなこと!」
「真剣勝負で予告とかする?普通……」
 呆れ顔のアクアオーラの顔が少し苛立つが、コーベライトは心を落ち着かせようと必死だった。コーベライトが動けば動くほど泥に足をとられ、泥によって身動きができなくなる。
 …………落ち着け、落ち着け俺!
 海でもがく遭難者のようになっているコーベライトの手は虚しく宙をかく。このまま泥沼にはまって俺は負けかぁ。一回戦敗退って結構悔しいんだよねと思っているうちにピンときた。
「悪あがきやめて、降参したら?泥沼に呑まれたくもないでしょ?」
 勝ち誇ったようにアクアオーラは言う。だがコーベライトは降参はせずに、別の方法でこの泥沼から脱出する。
「真剣勝負っていうのはなぁ」
 コーベライトはハンマーを作り上げた柄をくるりと回す。
「最後まで戦い抜くことを言うんだよ!」

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