小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「お、ヴィオラお帰り」
 第二回戦になり、セレスタイトと話をしてきたヴィオラをコーベライトは迎えた。
「第二回戦の最初は俺とガルゴ!がんばる!」
 先ほどのセレスタイトのことは特に何も言わず、彼は腕を空へと突き上げた。キルカルのアナウンスが鳴り、コーベライトの名前が呼ばれた。
「がんばってくる!」
「いってこい!」
 ヴィオラはコーベライトの背中を笑顔でばしっと叩く。コーベライトは笑顔で手を振りながらフェンスの中へと入って行った。

 ガルゴが相手だからか、それとも二回戦だからか、フェンスの外は観客が多いと思った。コーベライトはフェンスの中で待機し、軽い運動をしながら観客を見ていた。
 見渡すとクラスメイト達。今からどんな戦いがあるのだろうか、どちらが勝つのだろうか、どちらが負けを見るのか……と言ったところだろうか。
 いつもは教室で好き勝手してクラスメイトから迷惑がられているガルゴだが、実技の時にガルゴの戦いを参考にする人は多い。迷惑しているのか参考にしているのかどっちなんだよ、とコーベライトは思った。
 軽くジャンプをしていると、観客がざわめいた。学校一背が高いガルゴが意地悪そうな表情を顔に張り付けてフェンスに入り、身長差があるコーベライトを見下げるように見た。
 おわ、こう見るとガルゴってすげーでかいんだな…………。
 コーベライトはそう思った。筋肉の付いた腕を見ながら、この腕で殴られると痛いんだよね、と、一年生の時に一回喧嘩をしたときに軽く殴られて痛みを思い出す。
 本人は「軽く」と思っているらしいのだが、殴られたコーベライトはとても痛かった。ガルゴの力は半端ない。あれは化け物だ。あの力は普通じゃないというクラスメイトもいる。ちなみにその意見にはコーベライトも一票入れた。
「コーベライト!冷静にがんばれ!」
 応援の声が聞こえたので、その声のする方を向くとヴィオラがいた。先ほどのコーベライトからの応援のお返しなのか、声を大にして言っていた。
「んだとヴィオラ!てめぇオレ様を応援する気はないのか!」
 コーベライトがヴィオラに軽く手を振ると、ガルゴが機嫌悪そうに言った。それに対してヴィオラはフェンスの外から「ない!」と命知らずの発言をした。隣にいたクラスメイトが「お前本当に命知らずだよなぁ」とヴィオラを肘でつついていた。
 それがちょっと可笑しくて、笑ってしまったのはコーベライト。それを見てガルゴはますます機嫌を悪くした。
「お前らなぁ……そもそもオレ様に勝てると思ってんのかよ」
「勝てるか負けるの問題じゃない!勝って見せる!あと、俺が勝ったら教室の雰囲気のため、みんなにちょっかいをださないこと!いい?」
 びしぃ!とガルゴを指でさして宣言する。その宣言に観客は「がんばれ!」と声を上げた。
「条件付きの勝負かよ」
 やってやろうじゃねぇか。ガルゴは意地悪そうに笑った。
「おっし、ガルゴ。ここからは真剣勝負だ」
 コーベライトがそう言うのと同時に試合開始の合図が鳴る。コーベライトは黄色の翼とハンマーを作り上げて、戦闘態勢に入る。
「負けても泣くなよ」
 にやりと笑うガルゴは赤い翼を背中に作り上げただけで、武器を作り出そうとはしなかった。その代わりに喧嘩をする前の時のように、手をバキバキと鳴らした。
 そう、ガルゴの武器は素手。武器や己の力の証、もといエネルギーを、コーベライトのように武器に変えるのではない。エネルギーを手のひらにこめるだけで莫大な威力を発揮するのだ。
 ぶんっ!とガルゴは片腕を払うように振る。コーベライトは見切ってジャンプで避ける。
「おっわ…………危ない」
 手が振られたところちょうどコーベライトの胴体があったところだ。脚と翼を使ったジャンプは、普通のジャンプより一層高く飛ぶ。コーベライトはハンマーを構えて、数メートル上にも作られているフェンスの高さギリギリまで飛んでガルゴめがけて突っ込むように翼を使った急降下した。
 構えたハンマーをガルゴめがけて振り下ろす。ガルゴは振った腕の反動で身体が前のめりになっていたが、すぐに体制を立て直してコーベライトを見据えた。
「こんなもん、簡単」
 ガルゴは片手でコーベライトのハンマーを握りしめるように受け止める。
 自分が飛んで急降下する短い時間内に、ガルゴが体制を立て直すなんて計算外だとコーベライトは焦った。なぜならガルゴは少しゆっくりとした動きをする者で、短時間で体制を立て直すということは今までの実技授業では見られなかったからだ。
 かなり練習したんだろうなぁ、あの様子だと。
 コーベライトは思う。いつもは一戦しても汗をかかないガルゴが、先ほどの素早い動きをしただけで額に汗が滲んでいたからだ。ガルゴが汗をかくときは、焦っている時か無理な動きをした時だというのをコーベライトは知っている。
 そんなガルゴの大きな手に握られたハンマーをどうしようかとちょっと考えていると、目の前のガルゴが意地悪そうにまた笑った。気がつくといつのまにか握られたハンマーを軸にして自分が左右に揺られているではないか。
「え、ちょ。…………うわ!」
 ガルゴは笑ったまま、コーベライトをハンマーごとフェンスの端に吹っ飛ばした。これは予想していなかった。ハンマーは握られた時はもう片方の手でパンチが飛んでくると思っていたからだ。
 フェンスに叩きつけられたコーベライトはハンマーを危うく落としそうになったが、手に力をこめていたのでハンマーが飛ぶということはなかった。
「負けてられるかよ」
 コーベライトは叩きつけられた痛みを我慢しながら、立つ。
「あぁ?なんて言った?」
 ガルゴが可笑しそうに言う。コーベライトはハンマーを再度握りしめる。その時にフェンスの外の様子が目に入った。そこには負けるのか、この様子を不安そうに見守る人がいて、反対にガルゴが楽勝なのではないかという目で見ている人もいた。その様子を見て、先ほど少し失くしそうになったやる気がわき上がった。
「絶対勝ってやる。負けてられるか!って、言ったの!」

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